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「59.連弾ワルツ集の系譜 その1」から続いたこのシリーズは,今回のヒンデミットの作品で終わる。*1)*2)*3)*4) 当初,1865年作曲のブラームスの「ワルツ集」→レーガー(ほぼ30年後)→ヒンデミット(ほぼ20年後)と,2回で終わる予定だったのが,IMSLPやシブリーのおかげで,他の作曲家のさまざまな作品も入手可能となり、予想外に文章が増えてしまった。 さてヒンデミット(1985〜1963)*5)の「8つのワルツ 8 Walzer Op.6」(Schott社刊)*6)は1916年の作品である。 私の手元にあるショット版の楽譜は,中身は8曲のワルツがあるのに,表紙も扉も,そして楽譜の上の表記もすべて「6つのワルツ」と書いてあり,ずいぶんと頭を悩ましたものだ。なにしろ,連弾作品でタイトルと中身の数が合わないのは,サティの「梨の形をした3つの小品」という立派な先例があるからだ。もっともサティの方は「小品」のタイトルを持つものは確かに3曲なのだが。 それが先日,某楽譜店で新しい楽譜を見たら,全部「8つの〜」に訂正されていた。メデタシ,メデタシ! ブラームスの「ワルツ集」からほぼ半世紀を経て,ブラームスの「ワルツ」の多くが4小節フレーズ中心(探せば3小節のものや,もっと引き伸ばされたものもあるが)なのに対し,ヒンデミットの「ワルツ集」では不規則なフレーズが大幅に増え,転調も大胆になっている。 第7曲は「嵐のように」と指示されているだけあって拍子も頻繁に変わり,強烈なスケルツォ風の作品で,舞曲としての性格はまったくない。しかし全体的にヒンデミットの作品としては異例の「聴きやすい」作品であり,特に甘美で感傷的な第6曲は,ポピュラー音楽としても通用しそうなほどである。*8) 反復を含めてわずか24小節の第5曲が約30秒,粘着質の旋律を持つ第8曲が4分弱のほかはいずれも1分程度の演奏時間である。 「連弾ワルツ集の系譜 その1」*1)で「レーガーの『ワルツ集』の1曲目の旋律の冒頭,嬰ト音からロ音に短三度上がり,そのロ音を反復する動きは,ブラームスの『ワルツ集』の2曲目の(アウフタクトを除いた)1小節目と同じである。」と書いたが,ヒンデミットの1曲目の「ワルツ」の冒頭も,短三度上がり,その音を反復する動きである。これはやはりレーガーと同じく,ブラームスヘのオマージュだとするのが自然だと思うが,単に「他人の空似」に過ぎないのだろうか。ブラームスの「ワルツ」は16曲もあるので,短いモチーフがどれかに似てしまっただけだと言われてしまえば,それまでだが。 最後にブラームスから100年以上隔たった作品,多作家のリーム(Wolfgang Rihm 1952〜)*9)による「いくつかの短いワルツ Mehrere kurze Walzer」(Universal社刊)*10)を付け加えよう。 タイトル通り,全19曲のまったく短い「ワルツ集」で,わずか16小節の作品もいくつかあり,譜めくりの便を考慮してであろうが,紙の上半分しか使われていないページも多く,モッタイナイ! (1979,1988)の表記が作曲年なのだろうが,コピーライト表示は1981年で,第16曲は曲尾に「1981年大晦日」の表記があり,この作品も数字に関わる謎が多い。 さて,これらの作品の曲想だが,これが20世紀の末期の作品とは信じられないほど親しみやすく楽しいもので,あるものはシューベルト風、あるものはサティ風でまったく意表を突かれる。そうと知らずに聴いたら,ロマン派あたりの作品と思うだろう。 *********************************** 聴くもの,弾くものの心を浮き立たせ,楽しませてきた数々の「連弾ワルツ集」,
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