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前々回までの「踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品」*1)*2)でご紹介した, ロチェスター大学のシブリー音楽図書館*3)を訪問されたであろうか? この図書館や「IMSLP」*4)が手軽に利用できることは,近所に大規模で充実した蔵書を備えた音楽図書館が開館したようなものだ。 しかし便利な反面,「IMSLP」の昨年の突然の閉鎖*5)のようなサイト自体の不安定さも それに疑い出せば楽譜の「信憑性」も気になる。表紙も扉もなく,楽譜の本体部分だけしか見られない場合は要注意で,特に楽譜浄書ソフトを使って新たに制作された楽譜では,「誰々編曲」などとしてあっても全面的には信じ難い。 ロチェスター大学の図書館のように,裏表紙まで見せてくれるのであれば問題はないのだろうが。また実際にやった事はないが,ノートパソコンやディスプレーを譜面台に載せて画面を見ながらピアノを弾くのも実用的ではなかろうから,とにかく一度は紙にプリントアウトしてから,というのも手間やそれなりの費用も掛かる。 まあ,手間や費用と言っても貴重な楽譜を居ながらにして見られる便利さに比べれば,文句を言えば罰が当たるほどだが。 それにしても,多くの貴重な楽譜が無料で得られる事は,利用者にとって朗報に違いないが,それが「楽譜は無料が当たり前」という誤った考えに繋がりやすい事を危倶せずにはいられない。 楽譜が売れなくなって楽譜出版業が衰退すれば,最終的には多くの音楽関係者に不利益をもたらす事になる。無論,著作権の切れた,いわゆるパブリック・ドメインの楽譜が自由に入手できる事には全く問題はない。 しかし,それによって「浮いたお金」を他の楽譜の購入に振り向けるケースは少ないのではないだろうか。 ともかく,こうしたサイトの出現は,楽譜の出版と流通に極めて大きな変革をもたらすに違いない。 さて,シブリー音楽図書館にはポルディーニの作品以外にも,多数の貴重なデュオの楽譜が所蔵されている。 私自身,現在はこの素晴らしい「宝の山」にほんの少し分け入っただけで,すべての資料に当たったわけではないが,ほんの一例を挙げれば,ここにはグラズノフの管弦楽曲のデュオ用編曲もかなりあり,そのほとんどはグラズノフをはじめとする多くのロシア人作曲家のパトロン的存在であった富裕な材木商,ベリャーエフの興したベライエフ社*6)の楽譜で,それらの実に美麗な扉絵を楽しむこともできる。 なかでも,特に貴重な楽譜は「幻想曲『海 La mer Op.28』」の作曲者自身による2台8手版*7)もあり,その迫力ある扉絵とともに,この演奏形態に興味をお持ちの方には必見であろう。 スメタナの「ロンド」や「ソナタ」をはじめ,古今の2台8手のためのオリジナル作品や編曲作品はそれほど珍しくはなく,特に19世紀中頃以降は交響曲,交響詩,序曲等が盛んに編曲された(現在でもごく一部が生き残っている)が,大作曲家による自作の編曲となると,まずこの作品以外は見当たらない。 原曲はグラズノフが敬愛してやまなかったヴァーグナーに献呈された管弦楽曲であり, またここには「幻想曲『森 La forêt Op.19』」の2台8手版(C.Tschernoff編)*8)もある。 ところで,ショパンも少なくとも2度,1833年と38年のパリでの演奏会で2台8手の演奏に加わった記録があり,前者では他のメンバーの一人にリストが,後者ではアルカンが参加しており,この時はアルカンが編曲したべートーヴェンの「交響曲第7番」の第2,4楽章が演奏された。 ヴィルトゥオーゾ・ピアニストたちによるステージでの競演が繰り広げられた時代だったのであろう。
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