43. 「踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その2」

「ニューグローヴ世界音楽大事典」*1)によれば,「(ポルディーニの)多くのピアノ作品も
広範な人気を得た」
とあるが,現在,それらの作品は全くと言って良いほど知られていない。

ピアノ独奏曲に関する基本的な情報源と言えば,まず第一にその名を挙げられるのは,
「ピアノ・レパートリー事典」(高橋淳・編著 春秋社刊)*2)であろう。

日本語で読めるのは何よりも便利であるし,度々の改訂を経ているのも,
それだけ普及している事の証しである。
なにしろ,この種の本は売れ続けなければ改訂ができないのだから。

英文ではヒンソン(M.Hinson)による "Guide to the Pianist's Repertoire"
(Indiana University Press刊)*3)が,知名度が高いのではないだろうか。
私が参照しているのは1987年刊の「増補改訂版」で,800ページを越える大著である。
まだ中身は見ていないが,現在は第3版も出ているようだ。

フリスキンとフロインドリック(J. Friskin & I. Freundlich)による"Music for the Piano"
(Dover社刊)*4)は古今の独奏曲だけでなくデュオ作品も収録され,しかも安価なのも強みだが,
1954年刊で実質的な改訂を経ていないので,情報がいささか古くなってしまった感は否めない。

しかし,以上の3冊には「ポルディーニ」の項目すら見当たらない。「ポルディー二」の項目があるのは,
ヴォルテルス(K.Wolters)による "Handbuch der Klavierliteratur"
(Atlantis Musikbuch-Verlag 2001年刊)*5)で,そこに3作品のタイトルが挙げられている。

そのうちの1曲,「25の楽興の時 25 Moments musicaux Op.80には「非常に効果的な小品集」
とのコメントがあるが,この作品,手元の楽譜には「楽興の時」というタイトルで「25の演奏会用練習曲」
(25 Vortragsstudien,25 Études de concert)のサブタイトルが付けられている。

1924年の出版だが完全にロマン派風の作品で,親しみやすいし,スクリャービンを思わせる
耽美的な響きも随所に現れる。

忘れ去られたままにしておくのは惜しい,なかなか興味深い作品で,いずれこれらのポルディーニ
ピアノ独奏曲も復活する日が来るのではないだろうか。

独奏曲に比べると,デュオ作品の方がまだしも情報は豊富であり,マグローやヒンソンのお馴染みの
著作(Piano Duet Repertoire*6)Music for more than One Piano*7))には,
ちゃんとポルディーニの項目があり,いくつかの作品が載せられている。

ヒンソンの本には,ポルディーニの2台ピアノ作品として「シューベルトの即興曲 作品90-2による練習曲」
という,なかなか面白そうな作品も載っている。そしてマグローの本にも数曲の連弾作品が紹介されている。

さて,ここで例の「1899年のハイナウアー社のカタログ」に書かれたポルディーニの連弾作品*8)に話を戻すと,
「11.アンソロジー楽譜の楽しみ その2」*9)で触れた,実に快活な旋律を持っPagenlied(小姓の歌)」が,
Fünf Vortragsstüke Op.13(5つの演奏会用小品)」の1曲目であることが分かったのも,
このカタログを得たことによるささやかな成果であった。

それにマグローの記述は少し混乱していて,真っ先に書かれているAu lac(湖にて)」
En bohémien(ジプシー風)」という小品は,実はその後に書かれている
5 Genrestücke Op.12(5つの風俗的小品)」の1曲目と5曲目であることも分かった。

マグローの本は個々の作品に関する情報量の差が大きいが,掲載作品は実に3200にも上るのだから,
仕方のない面もあろう。

そして間もなく,これらポルディーニの作品の入手は,実に容易であったことに気付くことになる。
ロチェスター大学の図書館*10)には,ピアノ作品が数曲,PDFファィル化されて置いてあり,
連弾作品の「5つの演奏会用小品」「5つの風俗的小品」全曲ダウンロードできるばかりでなく,
美しいカラーの表紙も楽しむことができるのである。

◆◆ご注意◆◆

「連弾ネット」は、ロチェスター大学図書館サイトに関して、一切の責任を負いませんので、
ダウンロードは各自の責任の上、行ってください。

【参考情報】
*1) [サイト]ニューグローヴ世界音楽大事典Web
*2) [サイト]春秋社「ピアノ・レパートリー事典」<増補改訂版>
*3) [Googleブック検索] Guide to the Pianist's Repertoire(Maurice Hinson著)
*4) [AbeBooks.com]Music for the Piano-James Friskin, Irwin Freundlich
*5) [Amazon.de]Handbuch der Klavierliteratur. Klaviermusik zu zwei Händen (Gebundene Ausgabe)
*6) [Amazon.co.jp]Piano Duet Repertoire: Music Originally Written for One Piano, Four Hands
*7) [Amazon.co.jp]Music for More Than One Piano: An Annotated Guide
*8) [松永教授のとっておき宝箱] 「42. 踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その1」
*9) [松永教授のとっておき宝箱] 「11. アンソロジー楽譜の楽しみ その2」
*10) [サイト]University of Rochester-UR Research-Browsing All of UR Research by Author から"P"の項に進み3ページ目。

【2008年9月19日入稿】

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