42. 「踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その1」

エデ・ポルディーニ(Ede Poldini 1869〜1957)の名は,クライスラー編曲による可憐な
ヴァイオリン小品「踊る人形 The Dancing Dollのみで知られていると言っても過言ではない。

ハンガリーのプダペストに生まれたポルディーニは,生地で学んだ後,ウィーンやジュネーヴでも
学んだためであろうか,その作品はハンガリーの民族色が薄く,完全にロマン派風である。

「踊る人形」の原題は「ワルツを踊る人形 Poupeée valsanteで,1895年に
リコルディ社から出版された全7曲のピアノ独奏曲,「人形芝居 Marionettesの2曲目である。

この組曲は「道化役者 Baladinで始まり,それまでの各曲のモティーフを含んだ
「終曲 Finaleへと続くが,子供のための作品ながら,技術的には決して易しくなく,
弾き難い部分も多い。

そしてこの作品はハンガリー系の母親を持ち,ブダペスト歌劇場の音楽監督や
後にはベルリン・フィルの常任指揮者を務めた大指揮者,アルトゥール・ニキシュ*1)
献呈
されているのが意外である。

多くのヴァイオリン名曲集等のCDに収められているクライスラー編曲による「踊る人形」は,
ピアノとヴァイオリンのデュオとしても巧妙に,効果的に編曲されているが,
原曲の初版を出したリコルディ社からはL.Salterによる連弾用編曲も出ている。

別にコスプレを奨励するわけではないが,「人形のようにかわいらしい」ピアニスト2人による
「踊る人形」の連弾も,PとSの手の交差もあって視覚的にも楽しいものになるであろう。

さて過日,古楽譜をネットショッピングしていた折り,abebooks.comのサイト*2)
出版社名のHainauerで検索をかけてみた。

とっくの昔に消滅してしまったが,プロイセンのブレスラウ(現ポーランドのヴロツワフ)にあった
ハイナウアー社は,その地出身のモシュコフスキの作品の主要出版社でもあったが,
この出版社の楽譜の中には芸術的とも言える美しい表紙を持つものもある。

著作権への配慮は大切だが,コピー譜でも作品を演奏したり研究するためには
実質的に差支えないものの,100年も前の古楽譜の表紙の美しいイラストや
模様の色彩やその光沢,紙の手触り等は本物でしか味わうことができない。

検索の結果,同社のマクダウェル(1860〜1908。ただし古い音楽事典等では
生年は1861年)*3)
のデュオ作品が数点ヒットした。

今年が没後100年に当たるマクダウェルはニューヨークで生れ,ニューヨークで没したが
正式な音楽教育はパリで,次いでドイツで受け,音楽院卒業後もアメリカに戻るまでの
数年間,主にドイツで活躍したため,その作品はハイナウアー社をはじめドイツの出版社から
出版されていた。

早速,購人を申し込んだが,オンライン・カタログには載っているのに,既に売れてしまった
商品の削除し忘れか,先方から「売り切れ」のメールが届いた。

一度は手に入ったと思ったものを逃した,となると余計に欲しくなるのが人情で,
未練がましくサイトをうろついていると,「1899年のハイナウアー社のカタログ」というのが
目に留まり,結局,これを買ってしまった。

届いてみると,小型の版型(高さ約21センチ,幅約14センチ)ながら250ぺ一ジ近くある
立派なもので,こうした古いカタログには資料的に貴重で興味深い情報がたくさん詰まっている。

今日ではその名は完全に忘れ去られてしまったが,軍楽隊長だったカール・ファウスト(Carl Faust
1825〜92)
なる人物は,当時の超売れっ子作曲家であったらしく,ピアノ独奏,連弾,
ヴァイオリンとピアノ,管弦楽等のための小品が,数百曲ずつも掲載され,この人の作品だけで
20ぺ一ジ以上を占めるほどだ。

それらのほとんどが同一作品の演奏形態を変えた編曲だが,それにしても大変な数である。
モシュコフスキの数多くのピアノ作品が載っているのは当然だが,ポルディーニにもかなりの数の
ピアノ小品があり,連弾曲集も3組(計16曲)載っていた。

【参考情報】
*1) [Wikipedia]Arthur Nikisch
*2) [サイト]abebooks.com
*3) [Wikipedia]エドワード・アレグザンダー・マクダウェル(Edward Alexander MacDowell)

【2008年9月5日入稿】

トップへ