ユオン Juon, Paul(1872~1940)露→独
舞踏のリズム集 Op.14(全7曲)
Tanzrhythmen[1838頃]
連弾(オリジナル)=Schlesinger

★以下の3集の「舞踏のリズム集」は,いずれも音が厚い書法でピアニスティックな演奏効果は極めて高い。曲想は親しみやすく,生き生きとしたリズムに溢れ,各曲は変化に富み,これまでほとんど知られていないのが誠に残念。

[1]嬰へ短調 Alla marcia:スラヴ的な哀調を帯びた旋律が,重厚な響きを伴って荘重に歌われ,曲集の序奏にふさわしい。前・後半とも反復される。[3'00"](S:3/P:3)

[2]ロ長調 Allegretto:Sによるリズミカルな伴奏上に,Pがユーモラスな民謡風の旋律を奏しつつ,次第に興奮を高める。Pの右手による分散オクターヴがピアニスティックで華やか。[2'05"](S:4/P:4)

[3]ホ短調 Tempo di Valse:力強く,激しい情熱が込められたホ短調のワルツが度々登場し,その間に2種の柔和なト長調のワルツが置かれた,いかにも後期ロマン派らしいワルツ。反復を省くと1分ほど短縮可。[4'30"](S:3/P:3)

[4]変ニ長調 Allegro:5拍子。Sによる軽快な伴奏上に,Pが同一のリズム・パターンを反復する,さわやかで軽やかな間奏曲といった風情。ソフト・ペダルが踏み通される。[1'10"](S:2/P:3)

[5]変ロ長調 Allegro molto-Meno Allegro:ユニゾンで雪崩れ落ちる短い序奏も,多数のシュネラーに彩られたワルツの旋律も気紛れな性格と華麗な効果に満ちている。中間部のSによる旋律は実に重々しい。[3'55"](S:3/P:4)

[6]変ト長調 Allegretto con moto:リズミカルで軽快な民俗舞曲風の作品。気楽で楽しげな旋律はPの両手によりカノン風に扱われ,まるで2人の踊り手による舞踏を見るよう。中間部は変ロ短調の主和音がSのトレモロにより弾き通される。[3'00"](S:2/P:3)

[7]ニ長調 Moderato:曲線的な旋律を持つロマンティックなワルツ。中間に登場するロ短調のワルツはスケール豊か。反復が多いが,多声的な書法によるため,各声部の強調等による変化が生かせる。[4'30"](S:3/P:3)
作曲家・作品リストへ

ソナタ Op.22a(5楽章)
Sonate[1902刊]
2台ピアノ(自編)=Schlesinger

★「ピアノ六重奏曲 Op.22」からの編曲。基本的には原曲に忠実で,原曲のピアノパートを一方のピアノに,弦楽パートを他方に配置したものだが,機械的な配分ではなく,音型や強弱の指示,オクターヴの付加や音域の移動など,細部ではかなり改変されており,オリジナル作品としての資格を備えている。響きが厚く,情熱と力感に満ちたロマン派の大曲。両者が同一の音域で動く部分も多く,バランスには注意が必要。

[第1楽章]ハ短調 Moderato:力強く情熱的。粘度の高い旋律にも和音にもオクターヴが多用され,響きは重厚。 3/2拍子,Moderato で悠然と進行する。多発する3度や6度の重音の進行がブラームス的。[13'15"](I:5/II:5)

[第2楽章]へ長調:Andantino quasi Allegretto のシンプルなロシア民謡風の主題による変奏曲。多くの変奏でIとIIの役割が交替される。第1変奏は主題にリズミカルで流動的な伴奏が加わり,第2変奏は対位法的な細かい動きの装飾的な伴奏を伴う。第3変奏は少しテンポが速まり,旋律は活発な舞曲風のリズムとなり,軽快で躍動的な伴奏を持つ。第4変奏はオクターヴの進行と連打和音を伴い,輝かしくピアニスティック。へ短調,Grave の第5変奏は重々しい歩みのフガート。[8'30"](I:5/II:5)

[第3楽章]メヌエット Menuetto へ長調:この楽章が,主部は第6変奏,トリオは第7変奏となるのが構成上の特徴。主部は軽快で歯切れ良い旋律と,短いトリルが頻繁に付加されたきらめくような対旋律を持ち,変ニ長調のトリオは息の長い流れるようなロマンティックな旋律を持つ。[4'00"](I:3/II:3)

[第4楽章]間奏曲 Intermezzo へ長調 Moderato piacevole:この楽章が第8変奏であり,オクターヴのユニゾンによる大胆な歩みの旋律と,両手によって交互に奏される幅広い和音による力強い伴奏を持つ。中間部では両者ともに3度重音による動きが続く。コーダで主題が重厚な響きで力強く回想される。[2'30"](I:5/II:5)

[第5楽章]終曲 Finale ハ短調 Allegro non troppo:精力的で活発な短い序奏に,流れるような軽快なリズムの第1主題が続く。第2主題は息の長い歌謡的なもの。厚い和音,広い音程の跳躍が多く,終始エネルギッシュに,熱気に満ちて展開される。重苦しくないよう,流暢に弾くためには高度なテクニックが必要。[9'30"](I:5/II:5)
作曲家・作品リストへ

新舞踏のリズム集 Op.24(全5曲)
Neue Tanzrhythmen[1904刊]
連弾(オリジナル)=Schlesinger

★全曲に拍子やリズム上のユニークな工夫が見られ,各曲が極めて個性的で魅力的。アンコール等にどの1曲を取り出しても効果的だが,曲集全体も各曲が多彩な変化に富み,全曲演奏は一層効果を高める。

[1]ハ長調 Allegro:8小節のフレーズは 1/4,2/4,3/4,4/4,5/4,4/4,3/4,2/4 と1拍ずつ増え,また1拍ずつ減る変化を持つ拍子が反復される。誠にユニークでユーモラスな拍子とリズムながら,人工的な不自然さは一切感じられず,むしろ民族舞曲風の生き生きとした生命力が感じられる。滑らかで旋律的な部分やコラール風の部分も登場するが,各部の反復が多い。[4'10"](S:3/P:3)

[2]へ長調 Quasi valse lento:時折,2拍子の小節が挟まれるお洒落で優美なワルツ。Pのためらうような動きの3度重音による旋律は,シンプルながらも過去を懐かしく回想するかのよう。イ短調の中間部のPによる急速に旋回するような旋律は,「疾走する憂愁」といった風情。続いて両者が手を交差させながらSがその旋律を担うと,Pは優美な対旋律を加え,次にその役割は交替される。甘美で素晴らしく洗練された魅力的な作品。[2'20"](S:3/P:3)

[3]ロ短調 Allegro non troppo:7拍子による作品。曲集中,最大の作品だが八分音符によるグルーピングは,3+2+2(歯切れ良く活発な主部),2+3+2(ト長調の牧歌的な部分),2+2+3(ホ長調のファンファーレ風の部分)と変化に富む。主部でのPの両手はオクターヴ離れたユニゾンの動きが多いため,左手にも素早い動きが要求される。ロ長調のファンファーレ風のコーダで輝かしく終わる。[6'45"](S:4/P:5)

[4]変ホ短調 Allegretto: 2/4,6/8,3/4,5/8拍子の変化が反復され,Sによる鈴を嗚らすような八分音符の一貫したリズム上に,ほとんど第7音を欠き,時に第4音が半音上げられる音階による旋律をPが奏する。その旋律やリズムは中近東~中央アジアあたりの民族音楽の雰囲気で,効果的な装飾音も異国情緒を盛り上げる。中間部は同じ旋律が変卜長調で極めてロマンティックに和声付けされており,前後の部分との対照をより際立たせている。[2'30"](S:3/P:3)

[5]ハ長調 Moderato:5/4 拍子の落ち着いた主題とそれに続く6つの変奏。第3変奏まで,次第にロマン的情緒と流動性を増し,快活で力強い A11egro molto の第4変奏の後,一転してへ短調,Adagio,5/1(!)拍子の暗い情緒に満ちた第5変奏では,バスに置かれた主題が引き伸ばされて奏される。最後の第6変奏はハ長調,Vivace。冒頭のバスが再登場し,活発な民族舞曲がPのグリッサンドを交えて輝かしく展開され,Sのトレモロ上で壮麗に終わる。各変奏の流れと変化が素晴らしく効果的で,聴く者を飽きさせない。[6'00"](S:4/P:4)
作曲家・作品リストへ

舞踏のリズム集(第3シリーズ) Op.41(全5曲)
Neue Tamzrhythmen(Dritte Folge)[1908刊]
連弾(オリジナル)=Schlesinger

★上記の2集と比較して,各曲の個性がより際立ち,Sも旋律的な比重が高まっている。

[1]卜短調 Risoluto:力強く,しかも鬱屈した雰囲気の主部と,変ロ長調の明朗な中間部を持つ。主部では8分の4,5,6,3と頻繁に拍子が変わり,Pには両手ともに3度重音の動きが頻出。2拍子のリズミカルな中間部ではSにも旋律を弾く機会がある。[3'00'](S:4/P:5)

[2]ハ長調 Vivace molto:運動性に富んだ,甘美で華麗なワルツ。時折,2拍子のフレーズが挟まれる。手を交差させながら,Sも旋律を弾く機会が多く,2拍子の中間部でも両者の旋律的,リズム的な掛合いが多い。[4'20"](S:3/P:3)

[3]イ長調 Allegretto grazioso:付点リズムが多用された軽妙な行進曲風。小品ながら旋律,リズムともにPとSとでユニゾンの動きが極めて多く,2人が「合わせる」ための高度な練習曲。[1'40"](S:3/P:3)

[4]踊る5度 Tanzende Quinten 変ニ長調 Tempo di valse lento:全曲ソフト・ペダルが踏み通され,Pによる旋律は両手が5度の音程に保たれ,中音域より上の音が使われるため,繊細で密やかなオルゴール風に聴こえるユニークで魅力的な作品。Sによる伴奏も対旋律も極めて効果的。優美でロマンティック。[3'00"](S:3/P:4)

[5]悲劇的ワルツ Tragischer walzer 変ロ短調 Appassionato:悲劇的な主要主題は,重厚な和音とグリッサンドのような急速な上行音階が織り込まれ,激しい情熱に満ちたもの。過去を回想するかのような長調の甘美な主題群は,緊張感を一層高める。華麗なカデンツァも置かれ,ヴィルトゥオーゾ的でスケール豊か。[6'05"](S:4/P:5)
作曲家・作品リストへ

古い時代から Op.68(全5曲)
Aus alter Zeit[1918]
連弾(オリジナル)=F.E.C.Leuckrt

★舞曲を連ねた古典的な「組曲」。曲想はいずれもロマンティックで親しみやすい。全体的に音が厚く,響きは多彩でリズムは生命力に満ち,各曲の対照も際立っている。楽譜はミスプリが散見される。

[1]ブーレ風ソナタ Sonata alla Bourreé ロ短調:タイトル通りソナタ形式で,キビキビと動く第1主題とニ長調の滑らかな第2主題に,第1主題のモティーフがカノン風に扱われ,第2主題の3度重音の動きが加わる短い展開部が続き,その後に再現部が置かれる。リズミカルでスムーズな前進感の強い楽章。[4'05"](S:4/P:4)

[2]メヌエット Menuetto ト長調:柔和で優雅な曲想。対位法的な書法が多く使われ,9小節以降では対旋律のモティーフが4手に次々に現れ,連弾の魅力が満喫できる。ハ長調のトリオはSのオルゲルプンクト上で展開される両者によるカノン。[4'40"](S:2/P:2)

[3]シャコンヌ(バッソ・オスティナート) Ciacona(Basso ostinato) ホ短調 Andante:3/4 拍子の10小節の低音旋律がユニゾンで重々しく提示され,5つの変奏が続く。第2変奏まで和声の豊かさと音量を増して悲劇的に展開され,第3変奏では一転して弱音でリズムも流麗となり,第4変奏では 9/8 拍子の軽妙で前進的なリズムによるカノンとなる。ここでは低音旋律は拍で数えて2倍に引き伸ばされるが,更に4/4 拍子の第5変奏では小節で数えて4倍に引き伸ばされ,明確な旋律を欠くものの,緩いトレモロによる和声の動きが次第に上昇しつつ幾度かの長い cresc.を経てppからffに至ると,長いdimin.により再びppに収束し,次の楽章に続く。和声は暗いが,時折の(短)2度の響きが刺激的で,時に陶酔的なまでにロマンティック。[5'15"](S:3/P:3)

[4]タンブラン Tambourin ホ長調:Pの右手により,澄んだ響きの明るい旋律がリズミカルに奏される。軽快なリズムは活力に満ち,頻出する滑らかな5連符が旋律の躍動感と流動感を増す。Sは左手でドローンを奏し続けるが,後半には効果的な対旋律を弾く機会もある。最後に「シャコンヌ」の一節が出現して陰鬱に終わる。[1'30"](S:1/P:3)

[5]ガヴォット Gavotte ロ短調:スタッカートが多用された主題は軽快だが,哀調を帯びたスラヴ風の雰囲気が強く感じられる。ト長調~ホ短調の滑らかな主題をPが奏する間,Sの伴奏もメロディアスな動きとなる。重厚な和音を伴って堂々と終わる。[4'55"](S:2/P:3)

いつもいっしよ Op.75(全9曲)
Die unzertrennlichen[1923刊]
連弾(オリジナル)=Schlesinger

★はじめの2曲では,Pは両手でオクターヴ離れたユニゾンの旋律を弾き,極めて易しい教則本風に始まるが,徐々に典型的なロマン派の連弾小曲集の趣となる。終わりの2曲以外はP,Sともに調号を使わず,臨時記号を使用。

[1]おはよう Guten Morgen ハ長調 Moderato:穏やかな曲想。Pは6音を使用。ポジション移動は2回だけ。[0'45"](S:1/P:1)

[2]おやすみ Gute Nacht イ短調 Lento:深刻なエレジー風で悲痛。Pの音域もやや広がり,ポジション移動の回数も増える。[0'50"](S:1/P:1)

[3]春の踊り Springtanz ハ長調 Allegretto:フレーズが3小節等,不規則なため新鮮で生き生きとした感じが強まる。アーティキュレーションも急に難しくなり,前2曲と異なり,超初歩的ではない。[0'35"](S:1/P:1)

[4]メヌエット Menuetto 卜長調 vigoroso:優雅さよりも快活な明るさが際立つ。ハ長調のトリオではSが力強い旋律を弾く。[1'20"](S:1/P:1)

[5]忘れな草 Vergissmeinnicht ホ短調 Moderato:感情の起伏は大きい。Pには両手の独立した動きも登場する。[1'00"](S:1/P:1)

[6]レントラー Ländler ハ長調 Con energia:Pの旋律に装飾音も登場する。中間のへ長調への転調のあたりは,極めてロマンティック。[1'15"](S:1/P:1)

[7]タランテッラ Tarantella イ短調:Pは大部分で両手でオクターヴ離れたユニゾンの快活な旋律を弾く。見開き4ページとなり,大きく盛り上がって終わる。[0'55"](S:1/P:1)

[8]五月祭 Maitag へ長調 Moderato:この曲から調号を使用。Sの右手による八分音符の和音の「刻み」に乗せて,Pはテヌート記号が多用されたロマンティックな旋律をたっぷりと歌う。[1'25"](S:1/P:1)

[9]一列縦隊 Im Gänsemarsch ニ短調 Allegro non troppo:Pが先行する歯切れ良く活気に満ちた主題によるカノン。途中,変ロ長調の滑らかな新たな主題からSが先行する。和声を充填する自由な声部を持ち,息の長い cresc. を経て力強く終わる。[1'45"](S:3/P:3)