ダルベール d'Albert, Eugène(1864~1932) 独
ワルツ集 Op.6(全13曲)
Walzer[1888刊]
連弾(オリジナル)=Bote & Bock

★全13曲のワルツ集。第5,7,8,9曲は曲尾が終止線でなく複縦線であり,第7曲には "attacca" と記され,第13曲のコーダで1曲目が回想されることから,全曲演奏が原則だが,1曲ずつ終止しており,アンコール等に1曲だけ取り上げることも可能。曲想は全曲が親しみやすく,ヘミオラが随所に使われて特にリズムが面白い。超絶的な技巧は使われてはいないが,ヴィルトゥオーゾ・ピアニストを偲ばせるスケールの大きさを感じさせるワルツもある。

[1]ホ長調 Frisch,belebtes Walzertempo:力強く活気に満ち,スケール豊か。中間部は対照的に軽快で柔和な表情。[1'50"](S:3/P:3)

[2]ロ長調 Gehalten:長調と短調の間を移ろい,弱音中心だが粘着質で情熱的。Sの伴奏の中の半音の動きが,粘性をより高めている。[2'30"](S:3/P:2)

[3]ト長調 Belebt:軽快なリズムで明快。ユーモアもある。[0'40"](S:3/P:2)

[4]ハ長調:畳み掛けるフレーズを持ち,歓喜に満ちて激情的。中間部のゼクエンツが極めて甘美でロマンティック。[1'15"](S:3/P:4)

[5]変イ長調 Wiegend:軽快なリズムの優美なワルツ。後半はPと手を交差させながらSも旋律を弾き,いかにも連弾的。[1'40"](S:3/P:3)

[6]ロ長調:Pの旋律もSの伴奏も一貫してヘミオラによる2拍子。曲想は穏やか。[1'25"](S:1/P:2)

[7]ロ短調 Langsamer:感傷的でロマンティック。前半はP自身,後半は手を交差させながらの両者のデュエット。ロ長調に転じ次の曲に続く。[2'00"](S:2/P:3)

[8]ト長調 Einfach:Sは3拍目から始まるリズム・パターンを終始反復する。Pによる旋律は極めて簡素だが,合奏と表情付けは意外に難しい。[1'05"](S:2/P:1)

[9]変ホ長調 Langsam und ausdrucksvoll:重層的で穏やかな波のように上下に動く旋律はブラームス的。[2'00"](S:2/P:2)

[10]変ロ長調 Walzertempo:軽快な運動性に富み,リズムが面白くヴィルトゥオーゾ的。[1'00"](S:3/P:3)

[11]ト短調 Leicht bewegt:Pによるスタッカートで軽快に下降するアルペッジョの伴奏の下,Sによる旋律は焦燥感に満ちる。Pのアルペッジョのアクセントの不規則さが不安 を高めるが,コーダ風の曲尾ではト長調で,Pの旋律もSの伴奏も滑らかに変わる。[0'50"](S:3/P:4)

[12]ハ長調 Breit:華麗で豪胆,ダイナミックだが柔らかく弱音で終わる。[1'30"](S:2/P:3)

[13]ホ長調 Langsam und ausdrucksvoll:さわやかで落ち着いた旋律によるSとPの問答で始まり,重唱へと移行する。コーダで1曲目のモティーフが回想され,テンポを上げて華やかに終わる。[2'30"](S:3/P:3)
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ディートリヒ Dietrich, Albert (1829~1908) ドイツ
ソナタ Op.19(4楽章)
Sonate[1870刊]
連弾(オリジナル)=Walter Wollenweber 出版情報:Walter Wollenweber

★ロマンティックで極めて親しみやすく,さわやかさと力強さの絶妙なバランスが保たれている魅力的な作品。楽譜通りに反復すると演奏時間はやや長い大作だが,技術的に過度に難しくなく,Sも全楽章とも主題を弾き,主題の受け渡しをはじめ,それぞれのソロや手の交差もあり。連弾作品として弾いても聴いても楽しめる。初版は Rieter - Biedermann社よりだが,1979年に上記 W.W.社から再版され現在も入手可能。

[第1楽章]卜長調 Allegretto:優美な第1主題,ホ短調で力強い第2主題,二長調で滑らかな動きの第3主題のいずれもが,P~Sの順に提示されるのが特徴。再現部での第1主題の変イ長調での出現は印象的。優美な愛らしさの一方,迫力に満ちた劇的な一面も見せる。Pは48,203小節がやや難しい。[9'20"](S:3/P:4)

[第2楽章]スケルツォ Scherzo ホ短調 Vivace:歯切れ良く,力強く活発な動きを持ち,PとSとのリズム上の噛み合わせが緊密。ホ長調のトリオでの流麗なPの旋律と,半音階的に下降するSの対旋律が素晴らしい。主部とトリオの前・後半のそれぞれを反復する。[8'25"](S:4/P:4)

[第3楽章]ハ長調 Andante sostenuto:室内楽的で多声的な書法による冒頭の穏健な主題は,ほとんど1小節毎に転調する。PとSとの美しい旋律的な対話が魅力的で,中間部は熱く盛り上がる。次の楽章に続く。[3'50"](S:2/P:2)

[第4楽章]卜長調 Lento - Allegro vivace - Con fuoco, non troppo presto:おもに音階的な走句による11小節の経過部を経て,熱気と活力と歓喜に満ちた主部に入る。ソナタ形式の主部は,たたみかけるような力強さを持つ第1主題と,対照的なコラール風の第2主題を持つ。大迫力の展開部を経て,熱気に満ちたコーダで終わる。[7'50"](S:4/P:4)
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ドゥーヴィル d'Ourville, Léon(?~1944) ?
音楽の夜会(全5曲)
Soirées musicales[1882刊]
連弾(オリジナル)=Augener

★謎の作曲家の手によるお洒落で素敵な小品が,ごく一部とはいえimslpで見られることは誠に喜ばしい。下記の5曲は全18曲のうち,連弾曲集, "Album for Piano four Hands"(1895年,Schirmer社刊)に所収されたもの。いずれも熟達した職人の手による最高度の「サロン風作品」で,ロマンティックで極めて親しみやすく,あくまで自然に流れる伸び伸びとした旋律を持ち,転調は工夫に満ち,その上にかわいらしさと,優美な媚態とユーモア,端々しい活気と淡い哀愁が絶妙なバランスで組み込まれている。Sは主に伴奏を担うが,主旋律を弾く機会もあり,効果的な対旋律やPとの楽しい掛合いの機会も多い。そして演奏上の演出の工夫によって,作品の魅力をより高める余地が多くある。なお,four handsplus社から11曲の選集が刊行されている。

[1]田舎の踊り Rustic Dance ハ長調 Allegretto grazioso:粗野な雰囲気は微塵もなく,洗練された作品。旋律は優美さが際立ち,リズムは落ち着いたステップを踏む。[2'00"](S:3/P:3)

[2]ポロネーズ Polonaise ト長調 Tempo moderato:快活な中に, かわいらしさも窺える。Pのアーティキュレーションの指示は細かく,それが旋律に生き生きとした変化を与えている。[2'20"](S:3/P:3)]

[3]刈り入れ人の歌 Reaper's Song ニ長調 Allegretto grazioso:しみじみとした幸福感と深い満足感に満たされた曲想。特にP・S間のリズム的な掛合いが緊密で実に効果的。[2'00"](S:2/P:2)]

[4]子守歌 Slumber-Song 変ホ長調 Molto tranquillo:伴奏は多層的で穏やかに流れる。変ト長調~変ハ長調の転調を持つ中間部の響きは特に柔らかく,優しさに溢れている。[1'50"](S:2/P:2)]

[5]紡ぎ歌 Spinning-Song ハ長調 Allegretto grazioso:無窮動的な動きは,ほとんど Sが担う。明朗で軽快な作品で,fとp,スラーとスタッカートの対比が面白い。[1'00"](S:4/P:3)
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