サン=サーンス Saint-Saëns, Charles Camille (1835~1921) フランス
タランテッラ Op.6
Trentelle[1857]
2台ピアノ(自編)=Durand

★イ短調 Presto ma non troppo:原曲はオーケストラの伴奏に乗って,独奏楽器のフルートとクラリネットが縦横に活躍するが,サン=サーンスはそれらの3者を2台のピアノに巧妙に,そして公平に配分している。よりピアニスティックな音型への書き替えもあり,両者の掛合いの機会も多く,弾いて楽しめるばかりでなく,4小節のバッソ・オスティナート上に.IとIIとが3度音程で旋律を奏する箇所は2人のバランスや歌い方を合わせる,デュオとしての高度な練習にも最適。(6'30")[I:4/II:4]
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ブルターニュの賛歌による3つの狂詩曲 Op.7(全3曲)
Trois rhapsodies sur des cantiques bretons[1866刊]
連弾(自編)=Durand

★「派手で華麗な作品の作曲家」,サン=サーンス。という偏ったイメージを見事に覆す,敬虔で真摯な雰囲気の中にも甘美な抒情を秘めた注目作。原曲にほぼ忠実な編曲だが,ピアニスティックな演奏効果を高めるために,作曲者ならではの様々な工夫が施されている。原曲は弟子のフォーレを伴ったブルターニュ旅行後に作曲され,フォーレに献呈されている。

[1]ホ長調 Allegretto:原曲の速度標語は Andantino con moto。滑らかに流れるような旋律をPとSとが交互に弾き合う。(3'00")[S:2/P:3]

[2]ニ長調 Allegro moderato e pomposo:堂々とした和音奏による快活な主部に,主部のモティーフと関連ある主題を持つフガートが続く。中間部でのPの長いトリルに伴奏されて,Sが弾く無垢な旋律が印象的。(4'30")[S:3/P:3]

[3]イ短調 Andantino:いかにも民謡風の素朴な旋律で始まり,ヘ長調,Allegretto の牧歌的で流麗な部分(他人の空似だが「主よ,人の望みの喜びよ」のオブリガートが一瞬,顔を出す),コラール編曲風に力強く盛り上がる部分を経て,再び素朴な旋律が再現された後,牧歌的な部分も再現されて静かに収まって終わる。(5'45")[S:3/P:3]
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二重奏曲 Op.8 bis(全4曲)
Duos[1898刊]
2台ピアノ(自編)=E.Girod

★ハルモニウムとピアノのための「6つの二重奏曲」に基づく。原曲では,当然ながらハルモニウムのパート(I)にはいわゆる「ピアニスティックな」書法はまったく使われてなく,技術的にはIのほうがずっと易しい。そのためIとピアノのパート(II)とを配分し直して難度を平均化するだけでなく,デュオとして面白く演奏できるように両者の役割を適当に交替させている。また2台のピアノでは,楽器の音質が同じなので特に音量のバランス上の工夫が必要となるため,単音をオクターヴや和音に変え,原曲の長い音価の音符をトレモロにしたり,また新たに旋律的な動きを加えている。そして原曲の全6曲を4曲とコンパクトにし,「終曲」の後半は新たに作り直され,献呈者も原曲とは異なり,プレイエル社の4代目社長でダブル・グランドピアノの発明者,ギュスターヴ・リヨンに献呈されている。安直な編曲作品ではまったくなく,サン=サーンスらしい力感と輝かしさに満ちたデュオ作品である。

[1]幻想曲とフーガ Fantasia et fuga ハ長調 Allegro moderato:急速な下降音階の連続が特徴的な,輝かしく壮大な幻想曲。フーガも活発で華麗そのもの。I・IIともにオクターヴが連続する箇所が多く,また急速な下降音階の練習曲と化すので,跳躍と,黒鍵が混じる時の運指が難しい。(8'00")[I:4/II:4]

[2]コラール Choral ホ短調 Agitato:原曲ではIIの重音の連続が非常に難しいが, ここではそれらが2台のピアノに分配され,また音の省略もあるので,ずっと弾きやすい。ジグザグな動きの劇的なトッカータ風の部分と,敬虔なコラール(バッハの「わが魂は主をたたう BWV.10」に基づく)が交互に置かれ,両者が一体化されて盛り上がった後,静かに収まって終わる。(4'00")[I:3/II:3]

[3]スケルツォ Scherzo 嬰へ短調 Presto:原曲との違いが最も少ないのは,それだけ原曲自体がピアニスティックな演奏効果が高いことを示していよう。2台のピアノが軽快な動きに終始しつつ,対話を繰り広げる。(3'40")[I:4/II:4]

[4]終曲 Finale ハ長調 Allegro:ファンファーレ風の主題の付点リズムが取り去られ,原曲の 4/4 がリズムがシンプルになった主題にふさわしい 2/2拍子に変えられているが,輝かしく祝祭的な雰囲気は原曲に勝るとも劣らない。後半には1曲目のフーガ主題が堂々と登場し,2つの主題が同時に展開されて華麗で豪華なクライマックスを迎える。(4'40")[I:4/II:4]
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カヴァティーナ「6つの二重奏曲 Op.8」より
Cavatina from"6 Duos"[1858]
2台ピアノ(オリジナル)=Jobert

★ニ長調 Andante con espressione, un poco adagio:ここで「オリジナル」としたのは,「6つの二重奏曲」は「ハーモニウムとピアノ」のための作品だが,楽譜には「または2台のピアノのための」と表記されているため。しかしこの表記は出版社が楽譜をより多く売るための常套的な手段であり,全6曲のうち,少なくとも「幻想曲とフーガ」や「終曲」は,そのままでは2台のピアノによる演奏では効果的とは言えない部分を多く含んでいる。サン=サーンス自身,この「表記」を知らなかった可能性もあるし,同意したにせよ,「しぶしぶ」であったろう。そうでなければ,改作の必要はなかったはずだ。"Op.8 bis"から除外されたこの「カヴァティーナ」は,IIの伴奏上の,Iによる極めて情緒豊かな小さな「アリア」。Iは1段譜に単音で書かれ,片手で(その気になれば1本の指でも)弾けるところが誠にユニークである。Iのパートをチェロで弾いても実に効果的な小品になりそうな旋律。(4'30")[I:1/II:2]
※なお imslp にファイルが無いため,記載しなかった他の1曲「奇想曲 Capriccio」は,かわいらしくも微笑ましい曲想で,2台ピアノ用としても効果的なだけでなく,デュオのための高度な「エチュード」としても好適な事を記しておく。
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小二重奏曲 Op.11
Duettino[1861刊]
連弾(オリジナル)=Hamelle
出版情報:ヤマハ(スコア形式)「動物の謝肉祭他[連弾]」に所収

★卜長調 Andantino grazioso:9/8 拍子の優美で,しかも気品のある旋律を持つ部分に3/8 拍子,Allegretto の舞曲風の快活でさわやかな味わいの部分が続く。「小二重奏曲」のタイトル通り,Sにも単なる伴奏というPの従属的な役割だけでなく,Pと共に音楽を創り上げるさまざまな要素が込められており,両者が連弾演奏の醍醐味が味わえる。ただし Hamelle版のP.13の1段目でいくつかの音符とスラーが乱れており,正しく弾くためには何らかの工夫が必要。(6'30")[S:3/P:3]
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あなたの声にわが心は開く「サムソンとダリラ Op.47」より
Mon cæur s'ouvre à ta voix from "Samson et Dalila"[1876]
連弾(P.Dukas編)=Durand 原曲 歌劇

★変ニ長調 Andantino:古今のあらゆるオペラ中でも,最も有名で人気のある「アリア」の一曲。第2幕中で歌われ,デュカスによる連弾用編曲ではP.124~133 。決して厚い音を使っていないにもかかわらず,非常に美しく響く,極めて効果的な優れた編曲で,ロマンティックで官能的な原曲の雰囲気を良く出している。(5'00")[S:3/P:3]
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バッカナール「サムソンとダリラ Op.47」より
Bacchanale from"Samson et Dalila"[1876]
連弾(P.Dukas編)=Durand 原曲 歌劇

★ニ短調 Allegro moderato-ハ長調 Doppio più lento:官能的なエキゾチズムに溢れたバレエ音楽で,管弦楽曲としてもしばしば演奏される。ロマンティックな中間部での,原曲では管楽器によるPの高音の連打音は,過度に刺激的,機械的にならないように。またPは左手も急速な動きと歯切れの良いタッチを要求される。デュカスによる連弾用編曲ではP.165~185 。(6'00")[S:4/P:5]
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アルジェリア組曲 Op.60(全4曲)
Suite Algérienne[1880]
連弾(G.Fauré編)=Durand 原曲 管弦楽曲

★「アルジェリア旅行の絵画的印象」の副題が示す通りの異国趣味が特徴的な作品。サン=サーンス自身による2台4手用編曲もあり,そちらは2台のピアノを「競争的」に扱っているが,フォーレによる連弾用編曲は,一方がソロで弾ける箇所でも,PとSに分担させた箇所も多く,より「共奏的」で「協奏的」。2台4手版の方が,より華麗でピアニスティックな箇所があるのも事実だが,連弾版も透明感のある響きが美しく,迫力や色彩感や演奏効果に全く不足はない。また,PとSとの重複する音を極めて丁寧に避けた編曲。

[1]前奏曲(アルジェに向かって)Prélude(En vue d'Alger) ハ長調 Molto allegro:期待感に満ちた曲想。Sもメロディを弾く機会やPとの手の交差もある。(3'30")[S:3/P:3]

[2]ムーア風狂詩曲 Rapsodie mauresque ニ長調 Allegro non troppo:冒頭は,原曲のピッツィカートの旋律の弦楽器群による分担を,巧妙にPとSとに配分している。中間の急速なカノンの動きや,エキゾチックな舞曲風の後半を含め,全体的にリズムが難しい。(5'20")[S:4/P:4]

[3]夕べの夢想(ブリダにて)Rèverie du soir(à Blidah) イ長調 Allegretto qua si andantino:魅力的な愛らしい旋律はほとんどPの担当。Sが旋律を弾く出番は,第1,2ヴァイオリンによるデュエットの箇所を,Pの手と接近させて弾く。(4'00")[S:2/P:3]

[4]フランス軍隊行進曲 Marche militaire française ハ長調 Allegro giocoso:明るく活発な行進曲。いかにもフランス風の軽妙さがある。Sも旋律を弾く機会が多い。(4'20")[S:3/P:3]
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アルバムのページ Op.81
Feullet d'album [1887]
連弾(オリジナル)=Durand

★変ロ長調 Andantino quasi allegretto: はじめはP,次にSによって弾かれる優美な旋律が,Pの左手,次いで右手による穏やかに下降する音型と組み合わさって,柔らかに揺れるリズムを生み出す。幸福を感じつつも微妙に揺れ動く心理を,そのまま音にした趣がある。Sも旋律を担うが,中間部での(特に左手による)音階を重々しくならないように弾く必要がある。(3'00")[S:2/P:3]
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パソ・ドブレ Op.86
Pas redoublé[1887]
連弾(オリジナル)=Durand

★変ロ長調 Molto allegro:ファンファーレで始まる,一貫して快活そのものの舞曲。特にテンポの不安定さやリズムの「もたつき」は許されず,P・Sともに音階やスタッカートの多い旋律を弾くのには,軽快でしかも歯切れ良く確実なタッチが必要。終り近く,Pの両手に3度重音のトリルがあるが,「長い習練の末,これを克服すれば作品の深い精神的内容が表現できる」というタイプの作品ではまったくないので,(簡略化せずに弾こうとすれば)これらの3度重音のトリルが軽々と弾けなければ早く他の作品を探した方が良い。(4'20")[S:4/P:5]
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英雄的奇想曲 Op.106
Caprice héroique[1898]
連弾(オリジナル)=Durand

★調性もテンポも性格もさまざまに変わる各部分…精力的な部分,メランコリックな部分,優美だが気紛れな気分のワルツ…が続く。このワルツが展開されて情熱的に盛り上がると,緊迫感に満ちたファンファーレとなり,はじめの精力的な部分の一部も力強く顔を出す。そして真面目で古風なフガートに続くが,このフガートの見事な伏線が,分散オクターヴによる終結部の楽しさと華やかさを際立たせている。全体が極めてピアニスティックで演奏効果抜群な上,それぞれの各部分自体が素晴らしく,その対照と変化も実に面白い爽快な傑作。(9'15")[I:5/II:5]
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連合国の行進曲 Op.155
Marche interalliée [1918]
連弾(オリジナル)=Durand

★ヘ長調 Allegro:楽しい旋律が次から次に登場する快活な行進曲。旋律は主にPが担うが,Sもバスの動きや対旋律が面白いだけでなく,終り近くで弾く堂々とした旋律がカノン風に処理されていく所などは,さすがに大作曲家の片鱗がうかがえる。 P・Sともに連打和音を軽快に弾くテクニックが必要。(4'45")[S:4/P:4]
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アルジェの学生に捧げる行進曲 Op.163
Marche dédiée aux étudiants d'Alger[1921]
連弾(オリジナル)=Durand

★変ホ長調 Allegro:合唱(随意)付きの軍隊バンド版もあり,そちらをオリジナルとする資料もある。反復音の多い歯切れの良い旋律を持つ,非常に快活な行進曲。Pは大部分が両手が1オクターヴ離れたユニゾンで弾き,極めてにぎやか。楽器も実に良く響くように書かれている。合唱部分の反復が転調されていたり,装飾に変化が加えられている点にサン=サーンスの職人的技巧が示されている。(4'30")[S:3/P:4]
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エティエンヌ・マルセル(全7曲)
Étienne Marcel[1878]
2台ピアノ(C.Debussy編)=Durand(I・II分冊)原曲 歌劇

★原曲は第3幕のバレエ音楽。1890年,デュランから編曲を依頼されたドビュッシーにとって,生活費のためのこの仕事は意に沿わないものであったが,編曲そのものは響きが極めて美しく,2台のピアノ間での役割の交替が多く,IもIIも楽しく弾ける。特に3~5曲の旋律は魅力的。

[1]序奏 lntroduction ト長調 Animato:陽気で元気の良い行進曲風。特にIの右手とIIの左手にはオクターヴによる動きが多い。(1'00")[I:2/II:2]

[2]大学生と娼婦の入場 Entrée des ecoliers et des ribaudes:変ホ長調 Allegro non troppo:快活な旋律をIとIIが交互に弾く。多くのトリル,トレモロ,急速な音階によって華やかに彩られる。(1'55")[I:3/II:3]

[3]戦士のミュゼット Musette guerriére 変ロ長調 Allegro moderato:タイトルからは全く予想外の繊細で柔和な曲想。落ち着いたリズムの優美な主旋律はIとIIが交互に弾く。主旋律ではない方も,やはり優美な舞曲風。(2'00")[I:3/II:3]

[4]パヴァーヌ Pavane ニ短調 Allegro moderato:優しく典雅な主題が軽快な伴奏上で歌われ,反復の際の変化が印象的。IIは伴奏中心だが,音階的に下降する対旋律が効果的。(1'50")[I:2/II:3]

[5]ワルツ Valse ト長調 Allegro molto:短い序奏で始まる,親しみやすく華麗なワルツ。ドビュッシーの編曲の腕の冴えが見事に発揮された編曲で,薄い書法ながらもピアニスティックで充実した響きを持ち,IIも魅力的な旋律を担当する。各ワルツも変化に富み,ロマンティック。ほとんど知られていないのが誠に惜しい楽しい作品。(4'00")[I:3/II:3]

[6]ジプシーの男女の入場 Entrée des Bohémiens et des Bohémiennes イ長調 Allegro Maestoso:IとIIがユニゾンで奏する力強い旋律が序奏風に置かれ,嬰へ短調の短いトリルを交互に弾き合う,異国風な雰囲気の優美な3拍子の舞曲に続き,再びイ長調,Molto allegro に転じてスタッカートを多用した飛び跳ねるような舞曲を経て,快活に終わる。(6'00")[I:4/II:4]

[7]終曲 Final ト短調 Allegro:終始,前進的なリズムで躍動的に展開され,次第にテンポを速めて盛り上がりが最高潮に達すると,1曲目が晴れやかに回想される。(2'40")[I:4/II:4]
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シャミナード Chaminade, Cécile (1857~1944) フランス
間奏曲 Op.36-1
Intermède[1887刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Enoch(I・II分冊)

★変ロ長調 Allegretto:主部は極めてロマンティックで軽快な洒落たワルツ。2台のピアノは旋律と伴奏を分担し,役割の交替もある。嵐のように激しい中間部を持つが,弱音に収まってトリルとアルペッジョに彩られて終わる。シャミナード自身による連弾版もある。なお,0p.36-2は「シンバルの踊り Pas de cymbales」。(5'00")[I:4/II:4]
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コンチェルトシュテュック Op.40
Concertstück[1888刊]
2台ピアノ(自編)=Enoch(I・II分冊)

★シャミナードによる重量感に満ちた大作の一つで,代表作の1曲でもあり,自身でも頻繁にソロ・パートを演奏したほか,2台ピアノ版も演奏している。単楽章の短い作品ながら,ソロ・ピアノ(I)による鍵盤上を駆け巡る急速な音階や名技的なアルペッジョ,華やかなトレモロがいかにもコンポーザー・ピアニストの作品らしく,ロマンティックな甘美さとともにエキゾチックな雰囲気を特徴とする。Iにも一部にオーケストラの音が加えられ,単にソロ・パートの練習用以上にピアノ・デュオが意識されており,IIもピアニスティックな演奏効果を発揮する。(13'00")[I:5/II:5]
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ロマンティックな小品集 Op.55(全6曲)
Pièces romantiques[1890頃刊]
連弾(オリジナル)=Enoch, 出版情報:カワイ(スコア形式)

★1曲目のタイトルはイタリア語,「秋のセレナード」はスペイン風であり,シャミナードのイメージ上での「連弾による世界旅行」が感じられる小品集。キャッチーな各曲のタイトル。親しみやすく生き生きとして多彩な曲想,ピアニスティックな演奏効果は一世を風靡したシャミナードのピアノ作品群の特質を備えている。

[1]春 Primavera へ長調 Allegretto:暖かくなって花々が咲き乱れ,あたりには甘い香りが漂う季節感が音によって見事に活写されている。(2'50")[S:3/P:3]

[2]駕籠(かご) La chaise à porteurs イ短調 Allegretto:「全曲ソフト・ペダルを踏み続けて」の指示があり,Sは伴奏に徹するが,その和声もPによる旋律も極めて繊細で洗練された作品。「駕籠」は日本独自の乗り物ではなく,曲想にも日本的なものは何もなく,むしろフランスのクラヴサン音楽の伝統を感じさせる。しかしローカルな音楽文化が伝わり難かった19世紀から20世紀初頭のジャポニスムによる音楽作品に,日本的情緒を求めることもまた困難であり,シャミナードがジャポニスムを意識したかどうかは不明。(1'50")[S:3/P:3]

[3]アラビアの牧歌 ldylle arabe へ長調 Mouvt modédé valse:明朗で親しみやすい旋律と,いかにも異国風な鈴を模したような音との対比が面白い。Sの左手には(アルペッジョの指示があるが)10度音程の和音が頻出する。(2'45")[S:3/P:2]

[4]秋のセレナード Sérénade d'automne ニ長調 Andantino:中間部は旋律も,Sによるギターを模した伴奏もスペイン風。主部は伴奏が重層的に書かれており,バランスが難しい。(2'35")[S:3/P:3]

[5]ヒンドゥ教徒の踊り Danse hindoue イ短調 Allegro tempo giusto:音楽の主導権はSにあり,Pは一貫してにぎやかな装飾を担当。インパクトのある激烈な舞曲。(2'25")[S:3/P:3]

[6]リゴードン Rigaudon ハ長調 Allegro:宮廷舞曲らしい優美さと落ち着き,そして威厳を備えている。伴奏の音が厚く,すっきりとした響きのためには特にバランスに注意が必要。(2'20")[S:3/P:3]
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朝 Op.79-1
Le matin[1895刊]原曲 管弦楽曲
2台ピアノ(自編)=Enoch

★卜長調 Allegro:Iが軽快な連打和音に乗せてさわやかな旋律を奏する間に,IIがシンプルだが実に効果的な合いの手を入れる抒情的な部分と,力強い行進曲風の部分が交互に置かれている。極めてピアニスティックで,その清々しさはコンサートのオープニングにもふさわしい。「管弦楽のための2つの小品 Deux pièces pour orchestre」の1曲目で,もう1曲は「晩 Le soir」。シトロン(M.J.Citron)によればスコアは未出版で,シャミナード自身,2台ピアノ版をしばしば演奏した。(4'10")[I:4/II:4]
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シャルヴェンカ Scharwenka, Xaver (1850~1924) ポーランド
北国風 Op.21-1
Nordisches[1875刊]
連弾(オリジナル)=Carl Simon

★へ長調 Allegro moderato:全2曲のうち,imslpにあるのは1曲目のみ。主部は3/4拍子で,力強く堂々とした序奏風の部分に続き,「イングリッドの歌」(ノルウェー民謡「そして狐は大きなカバの木の根元に横たわる」)の快活な旋律が歌われる。テンポが速まり2/4拍子の軽快な民俗舞曲風の中間部を挟んで主部が反復されるが,静かに収まって終わる。全体的に音が多いが,厚い響きと薄い響きの対比や,PとSとの掛合いや模倣も頻繁で,連弾作品として熟達した書法で書かれている。各部の反復が多,冗長感を避けるための変化の工夫が必要。(4'40")[S:3/P:3]
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舞踏組曲 Op.41(全4曲)
Suite de danses[1877刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★全体的に音が厚いが,Sも伴奏の役割だけでなく,旋律や対旋律を弾く機会が極めて多い。またPとSとの対話や掛合いも多く,熟達した連弾書法で書かれている。1曲目のモティーフが各所で使われ,組曲としての統一感を高めている。

[1]行進曲風 Alla Marcia ハ長調:2つのトリオに相当する部分を備えた,快活で堂々とした行進曲だが,そのリズムは実用的な「行進」のための単調なものではなく,極めて多彩。第1のトリオは「スウェーデンの歌」と題された,短調だが雄々しい旋律を持つ。第2のトリオはトリルと増六度の和音が特徴的。第1のトリオの後,短い主部の行進曲を経て,第2のトリオ,転調された第1のトリオ,主部の行進曲と続き,息の長い cresc.を伴って大きく盛り上がって終わる。4手ともに厚い和音を弾く豪快な響きの箇所も多く,壮麗で輝かしい。(6'30")[S:4/P:4]

[2]メヌエット Menuetto 変イ長調 Moderato grazioso:Pによる主部の旋律は優雅な上に極めて伸びやかなもの。Sによる伴奏は音が多いだけに,多声的で「歌」に富み,和声も豊か。トリオに1曲目の第2のトリオの性格が顔を出す。(4'15")[S:3/P:4]

[3]ガヴォット Gavotte へ長調:曲集中,最も短く技術的にも易しいが,軽いスタッカートで演奏される旋律は,かわいらしい上に典雅な趣がある。(2'20")[S:2/P:3]

[4]ボレロ Bolero イ短調:1曲目のモティーフを使った主題による,リズミカルで軽快な舞曲。イ長調のトリオで,3拍目が4つの16分音符群のリズムやトリルになるのも1曲目の第2のトリオと関連がある。イ短調で力強く終わる。(4'20")[S:3/P:4]
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ワルツ集 Op.44(全2曲)
Walzer[1879刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★華やかで親しみやすい。Sはほとんど伴奏に徹しているが,伴奏型は極めて多彩な上,効果的な対旋律も弾く。

[1]ニ長調 Con spirito,卜長調,変ホ長調 Un poco meno mosso,ト短調 Più Allegro,ニ長調 Allegro come primo の5曲のワルツが続く作品。1曲ずつ独立して書かれているが,続けて演奏されるよう意図されている。調とテンポだけでなく,当然各ワルツの気分も変わり,最後ははじめのワルツに戻って堂々と華やかに終わる。(7'40")[S:3/P:3]

[2]変ホ長調 Allegro comodo :1曲ずつ独立して書かれてはいないが,次々にワルツが流れて行き,コーダで初めのワルツに戻って堂々と華やかに終わる。1曲目よりも各曲の雰囲気の変化が大きく多彩で,よりピアニスティック。(8'00")[S:3/P:3]
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シャルヴェンカ Scharwenka, Philipp (1847~1917) ポーランド
ポーランドの舞曲の旋律集 Op.38 第1,2集(全6曲)
Polnische Tanzweisen Heft 1,2[1882刊]
連弾(オリジナル)=Praeger & Meier

★まざまな曲想のマズルカ集。そして各曲の曲想自体も単調ではなく,対照的な中間部を持つ。Sは伴奏中心。
※現在(2012.8),IMSLP には第2集の3曲のファイルのみだが,全6曲について記す。

[1]ホ長調 Vivace:飛び跳ねるようなリズムの,軽快で快活な主部と憂いに満ちた中間部の対照が魅力。Sは伴奏中心。各フレーズの反復が多い。(4'20")[S:2/P:3]

[2]変ロ長調 Comodo:Sのソロによってクヤヴィアクの性格を持つ旋律が静かに弾き始められ,ポリフォニックに展開される。歯切れの良い幅広い和音による伴奏を伴って,さながら大広間での威厳と壮大さに満ちた大舞踏会の様相を呈する。旋法的な,また平行和音の動きが個性的。(4'50")[S:2/P:3]

[3]変ロ短調 Moderato:感傷的で繊細なクヤヴィアク。長調の部分が,短調の主題の悲哀をより深く感じさせる。変ロ長調の中間部は装飾音の多い旋律を持つ活発なマズル風。親しみやすい曲想で,技術的にも弾きやすく,この曲集を弾き始めるのに適している。(4'15")[S:2/P:3]

[4]ト短調 Allegretto:短調の主題の力強く悲愴な雰囲気に対し,長調の主題は付点リズムにより軽快で楽しそう。卜長調の中間部は一方の3連符と他方のトリルの組み合わせが,優美で繊細な軽やかさを出している。(3'10")[S:3/P:3]

[5]ホ短調 Non troppo allegro:主部は痛切な悲哀に満ち溢れている。ホ長調の中間部は英雄的で壮大。(3'00")[S:3/P:3]

[6]イ長調 Vivo:主部は付点リズムによる明快で溌刺としたマズル。中間部の細かい音型の反復はオベレク風。終曲にふさわしく鍵盤の幅を広く使って壮大に盛り上がるが,同一フレーズの反復が極めて多く,冗長さを感じさせずにスケールの大きさを出すのが演奏のポイント。(4'30")[S:3/P:3]
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歌と舞曲の旋律集 Op.54(全6曲)
Lieder und Tanzweisen[1884刊]
連弾(オリジナル)=Carl Simon

★全6曲とも親しみやすい上,PとSとの緊密な連携を備え,各曲の変化と対照も面白く,ほとんど知られていない作品だが,再評価されるべき作品。

[1]行進歌 Marschlied ホ長調 Lebhaft und Kräftig:P,Sともに音が多く,響きも厚く,旋律も力強い。ドラムのロール音を模した3音のシュライファーが効果的。トリオの雰囲気が主部と大きく違わないため,前半を楽譜通りに反復するといかにも冗長。(6'20")[S:3/P:4]

[2]少女たちの輪舞 Mädchenreigen 変ロ長調 Mässig geschwind:軽快で優美な3拍子の舞曲。(2'00")[S:3/P:3]

[3]愛の歌 Liebeslied ヘ短調 Langsam,doch nicht schleppend:「哀歌の」とある通り,暗く深刻な雰囲気。その曲想は別にして,連弾曲としてPとSとの対話が大いに楽しめる作品。(3'30")[S:3/P:3]

[4]ポーランドの舞曲 Polnischer Tanz 嬰ハ短調 Sehr bewegt:活発なマズルカ。途中,PとSとで旋律がカノンになる箇所が特徴的。(2'20")[S:3/P:3]

[5]民謡風の歌 Lied im volkston 変ホ長調 Langsam, mit inniger Empfindung:情緒に満ちて,ゆったりと落ち着いた旋律は「親密な気分で」の指示にふさわしい。技術的には難しくないが,極めて対位法的に書かれているため,旋律を十分に歌いながらの両者の打鍵の一致,バランスの取り方,デュナーミクの合致,ペダル使用の問題など連弾特有の課題に満ちている。連弾の学習用として特に有用なだけでなく,真の連弾の醍醐味が味わえる作品。(3'30")[S:3/P:3]

[6]メヌエット Menuett ニ長調 Mässig bewegt, mit Grazie:Pによる,スタッカートと前打音の多い旋律は実に軽快。中間部はP,Sともに音が多いが,やはり軽快に弾く必要がある。(3'00")[S:3/P:4]
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春の輪舞 Op.75-2
Lenzreigen[1887刊]
連弾(オリジナル)=Hainauer

★イ長調 Moderato con grazia:「5つの舞曲の情景 Fünf Tanzscenen op.75」の2曲目。典型的なドイツ・ロマン派風の性格的小品。主部は穏やかで温かな雰囲気に満ち,軽快な装飾音に彩られた旋律は,繊細なアーティキュレーションと優美なリズムを持つ。SとPとのリズミカルな掛合いが楽しい中間部の後,ほとんど完全に主部が反復され,ごく短いコーダで可憐に終わる。曲集中の他の作品がないのは残念だが,ハイナウアー社の美麗な表紙も楽しめる。(4'20")[S:2/P:2]
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3つのスケルツォ Op.91(全3曲)
Drei Scherzi[1893刊]
連弾(オリジナル)=Breitkopf & Härtel

★3曲とも「スケルツォ」というタイトルながら,それぞれの曲想は全く異なり,拍子も1曲目こそ 3/4 だが,他は4/4 ,6/4という異色作。急-緩の「緩」の部分(1曲目は「息の長い主題」)が再現では転調されている。連弾作品として極めて充実した作品で,1曲だけを取り出しても,また3曲まとめての演奏も効果的。

[1]ホ短調 Vivace:長大な作品ながら軽快な運動性と精力的な前進感,劇的な緊張感に満ちて全く飽きさせることなく,曲全体にスポーツ的な爽快感が漲っている。息の長い主題と断片的なモティーフの反復の対比も面白く,ホ長調に転じて壮麗に盛り上がった後,短いコーダで pp に落ち着き,次第に光が増すように輝かしく終わる。極めてピアニスティック。3曲中,最も一般的な「スケルツォ」のイメージにふさわしい作品。(6'40")[S:3/P:3]

[2]へ長調 Allegro con spirito:大半が急速な16分音符が連続し,スタッカートが多く使われている軽快でユーモラスな部分と Andante tranquillo の,ゆったりとして表情豊かな部分が交互に置かれている。前半の Andante の部分(へ長調)はロマンティックな旋律を豊麗に歌い上げ,ここを展開部と見れば曲全体を「ソナタ形式」とみなすこともできる。終わり方は,まるで楽しい「オペラの序曲」のよう。(7'00")[S:4/P:4]

[3]ロ短調 Allegretto tranquillo:第1部は連打和音上に,ラプソディックな民謡風の旋律が歌われて始まる。この第1部は非常にユニークで,印象主義音楽に接近しており,(半)音階的に上昇して,徐々に川の水が増えて溢れ出すように盛り上がると,のどかな旋律が牧歌的に歌われる第2部に入る。新たな主題も織り込みながら,基本的には第1部と第2部が反復された後,コーダに相当する短縮された第1部(主要主題が逆順で登場)での長いトリルに導かれてロ長調で明快に終わる。(8'30")[S:3/P:3]
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シュット Schütt, Edouard (1856~1933) 露→オーストリア
創作主題による変奏曲 Op.9
Variationen über ein Originalthema[1880刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Cranz

★嬰ト短調:主題に10の変奏が続き,主題の回帰で終わる。Andante の創作主題は哀調を帯びた子守歌風のもの。第1変奏はその主題が高音域で歌われ,夢の中で遠く聞こえる子守歌の感があり,続く変奏のオクターヴによる進行のリズムの力強さ,重量感に満ちた響きとは実に対照的。第3変奏は変イ長調に転じて優美で軽快なワルツ。第4変奏は嬰ト短調に戻り,IIによる旋律はハンガリー風に長調と頻繁に交替し,Iはツィンバロム風の装飾的なパッセージを奏する。ここでのIは,まず不規則な連符の数を数える必要がある。続く変奏は,Iが重音を含むアルペッジョを滑らかに奏する上に,IIがスタッカートによる軽快な変奏を弾く。第6変奏は嬰ハ短調の荘厳な葬送行進曲。ホ長調の第7変奏は明朗で牧歌的。嬰ト短調の第8変奏は嵐のような両手のオクターヴ進行。響きが非常にロマンティックなフガートの第9変奏に続き,終曲としてかなり長い躍動的なタランテッラが置かれ,主題が変イ長調で平和に再現された後,タランテッラのリズムで疾走して終わる。シュットの多くの小品の特徴となっている甘美さは乏しいが,半音階的な和声進行や大胆な転調が多い意欲作であり,極めてロマンティックで各変奏の対照感が際立つ真摯な大作。(14'00")[I:4/II:4]
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田園の情景 Op.46(全4曲)
Scènes champêtres[1895刊]
連弾(オリジナル)=Simrock

★「4つの性格的小品」の副題が示す通り,単に親しみやすいだけでなく,各曲の曲想はそれぞれに性格的=個性的で極めて変化に富み,また4曲とも三部形式で主部とは対照的な性格の中間部を持つ。

[1]小屋で Dans la cabane イ短調 Andante sostenuto イ長調 Allegro:エレジー風の主部の深々とした情感が印象的。中間部は快活な民俗舞曲風で力強く盛り上がる。再現部では両者の旋律が交じり合う。(3'45")[S:3/P:3]

[2]草原で Dans la prairie ニ長調 Allegretto grazioso:主部の旋律は軽快なリズムの民謡風のもの。しかし「粗野」な性格とはほど遠く,優雅で洗練されている。Sの左手は,不規則なアルペッジョを滑らかに,しかも表情豊かに弾く必要がある。変ロ長調の中間部の旋律はのどかな安らぎに満ち,ここではSも旋律を担う。(3'00")[S:3/P:3]

[3]森で Au bois 変イ長調 Poco moto:主部は牧歌的で穏やかだが,フリギア旋法風の旋律(一部だが),大胆な動きの旋律によるカノン,低音域のトレモロが印象的な中間部は,深い森の奥での異国の民による踊りを見るかのよう。(2'50")[S:3/P:3]

[4]村で Au village 変ロ長調 Allegro risoluto ed animato:鍵盤のほとんどを占める広い音域を使って,精力的なリズムで快活に展開される舞曲風の主部を持つ。対照的にSのソロで始まる変ト長調の中間部は,歌謡的で甘美。終曲としての華麗さと豪快さを備えている。(3'35")[S:4/P:4]
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ワルツの夢 Op.54a(全3曲)
Walzer - Märchen[1897刊]
連弾(オリジナル)=Simrock

★Op.54はピアノ,ヴァイオリン,チェロのための三重奏曲版だが,この連弾版でもPとSの連携が非常に緊密であり,P=旋律,S=伴奏のように役割が単純化された作品ではない。シュットの得意分野であるワルツだが,単に気楽で心地好い旋律をしゃれた和声と軽快なリズムに乗せたものではなく,豊かな情緒と興味深い転調に満ちた洗練されたワルツ集。テンポの変化の指示とともに特にIでは "espressivo" の指示が極めて多く,この作品の魅力を発揮させるためには,それらの指示を巧みに生かす必要がある。

[1]イ短調 Allegro moderato:闇に少しずつ光が差し込むかのような,かなり長い幻想的な序奏の後,懐かしさと諦観に満ちたワルツの旋律が静かに流れ出す。序奏の旋律を挟みながら,さまざまな調を経てイ長調で華やかに終わる。(5'00")[S:4/P:4]

[2]ニ長調 Allegretto:軽快で短い序奏の後,テンポを少し落としてロマンティックで可憐なワルツが登場する。豊富な対旋律が作品の情緒に濃さと彩りを添えている。練習記号Gからはテンポを速めて別のワルツが登場し,I以降,2つのワルツの旋律が同時に奏され,穏やかな光が消えていくように終わる。手の交差がある。(3'30")[S:3/P:3]

[3]イ長調 Allegro vivace:極めて快活で躍動的なワルツとテンポの遅い滑らかな旋律のワルツが交互に置かれている。2曲目の旋律も短く登場した後,輝かしく力強く終わる。(5'30")[S:4/P:4]
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ロココ風即興曲 Op.58-2
Impromptu - Rococo[1899刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Simrock

★へ長調 Allegro grazioso:厚い和音(I・IIともに左手にはオクターヴ以上の和音も使われる)が多用されているが,曲想は極めて軽快で優美。I・IIの対話や模倣の機会も多く,変ロ長調 Moderato con moto の中間部では,情緒豊かな旋律を両者が歌い交わし,伴奏の幅広いアルペッジョは華麗でピアニスティック。両手のオクターヴや厚い和音進行によって堂々と終わる。(5'00")[I:4/II:4]
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思い出のワルツ Op.61(全5曲)
Souvenir = valses[1901刊]
連弾(オリジナル)=Simrock

★長いものでもS・P見開きで計4ページという短いワルツ集。ロマンティックで親しみやすく技術的に難しくはないが,作品の魅力を発揮するために「粋」に弾くにはそれなりのセンスが必要。

[1]ニ長調 Allegro energico e vivo:軽快。Pは旋律,Sは伴奏の役割。ほとんどの部分が反復される。(1'40")[S:2/P:3]

[2]変ト長調 Moderato un poco moto:旋律も和声も,そしてリズムも耽美的でノスタルジック。派手さはないが,その繊細で微妙な美しさはまさに小さな宝石。(1'30")[S:2/P:3]

[3]イ長調 Allegro grazioso:いかにも連弾らしく。二人が優美な旋律と対旋律を弾き交わす。(1'45")[S:2/P:2]

[4]ト短調 Poco Allegro cantabile:Sの両手による反行する短いモティーフの特徴的な伴奏に乗せて,Pが透明な響きの悲哀に満ちた旋律を奏する。(1'45")[S:2/P:2]

[5]ニ長調 Allegro energico e vivo:1曲目が再現され,Sのトレモロを伴うコーダでテンポを速めて華やかに終わる。(1'00")[S:2/P:3]
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アンダンテ・カンタービレ Op.79-1
Andante cantabile[1907刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Simrock

★ホ長調 Andante cantabile:主部は穏やかな雰囲気の旋律が静かに,しかし豊かな和声に彩られて語られる。中間部は動きを増した旋律と頻繁な転調が,不安と希望が交錯して心を乱すかのようであり,主部の再現では I が旋律を悠々と,II は音階的な動きによる伴奏を奏し,両手の厚い和音やトレモロによって雄大に盛り上がった後,コーダではスクリャービン風の和音の香りも発しながら静かに収まって終わる。ミスプリントの疑いもあり,II の15小節の4拍目のバスの Ais は H?P.5の3段目の1小節目から3小節間,I の下段はへ音記号か。(4'00")[I:4/II:4]
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ロシア民謡
Russian Folk-Song[1922刊]
連弾(自編)=Simrock

★ニ長調 Moderato - Con poco moto:シャーマー版の表紙によればシュットはこの旋律をピアノ独奏用にも編曲している。甘く切ない郷愁を誘う穏やかな旋律がPやSによってしみじみと歌われ,派手さはないが実に効果的なフィギュレーションの伴奏が,旋律を見事に引き立てている。聴衆の心を落ち着かせ,うっとりとさせるアンコール・ピースとして最適の作品。なお,ロシアで長く活躍したヘンゼルトは同じ主題を使い,ピアノ独奏曲「楽しく,そして悲しい O.K.クレムによるロマンス」を残している。(2'00")[S:3/P:3]
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シュミット Schmitt, Florent (1870~1958) フランス
7つの小品 Op.15(全7曲)
Sept pièces [1901刊]
連弾(オリジナル)=Alphonse Leduc

★洗練された響きでロマンティックな「歌」に満ち,常に複数の「歌」が聞こえると言っても過言ではない。そのため全体的に音が厚く,微妙な転調に伴う繊細で多彩な色彩感の表出と的確なバランスが難しいが,またそれがシュミットの連弾作品の魅力に通じている。Sはより多く伴奏を担うが,単調な伴奏型は見られずPとSとの連携も緊密。両者の手は接近しがちで,交差も度々あるが,鍵盤上での手の重複を避ける工夫も丁寧に記されている。初期の作品だが,経験豊かなデュオのための,演奏会用の極めて充実した大作。

[1]まどろみ Somnolence ホ長調 Très calme : ロマンティックな主部では,SとPに交互に現れる3連符を含んだ穏やかに揺れるリズムが安らかな眠りを誘う。カノンの動きで転調を繰り返す中間部は,とりとめのない夢の気分。両者の手が接近する。(3'10")[S:3/P:3]

[2]リボーピエールの思い出 Souvenir de Ribeaupierre へ長調 Trèès paisible:弦 楽四重奏的な書法により,タイトル通りのノスタルジックな旋律が紡がれる。技術的には易しい。アルザスのリボヴィレにはリボーピエール家が所有した中世の古城跡があり,シュミットの生地,ムルト=エ=モーゼル県のブラモンにも近い。(3'45")[S:2/P:2]

[3]きらめき Scintillement ホ長調 Vif:急速な3拍子の,軽快で華やかなスケルツォ風。変ニ長調に転調する流麗な旋律を持つ中間部を持つが,一方でそこではP,Sともに急速で軽快なリズムの伴奏を担当する。Pの左手とSの右手の交差の箇所は2人がキーの奥と手前を弾くことで容易に解決できるが,両者ともに敏捷な指の動きと軽快なタッチが必要。後半の一部でSの4小節がPの1小節に相当する記譜法を使用。(3'15")[S:4/P:4]

[4]乙女の願い Souhaits de jeune fille ハ長調 Lent:穏やかな曲想だが,不規則なフレーズ,ppからfやffへの急激な音量の変化によって,夢想的で移ろいやすい印象が強まる。前半,Pは音域的には片手で弾けるほど両手が接近する。技術的には易しい。(2'45")[S:2/P:2]

[5]池の散歩道 Promenade a l'étang 変ホ長調 Assez retenu:旋律そのものはシンプルだが,その和声付けや伴奏型はまさに「洗練の極致」。Sは16分音符が続く伴奏を静かに弾くために,タッチには絶妙なコントロールが必要。(4'10")[S:4/P:3]

[6]北の祭り Fête septentrionale 卜短調 Animé:伴奏以上に,旋律そのものがいかにも民俗舞曲風のリズムを持つ活動的な部分と,ロ長調の歌謡的な中間部を持つ。舞曲は後半では熱狂的に高まって終わる。舞曲は技術的に難しいが,中間部での息が長くフレキシブルなリズムの旋律を,スムーズに,しかも表情豊かに弾くためには相当な演奏力が要求される。(4'10")[S:5/P:5]

[7]幸福な航海 Traversée heureuse 変ニ長調 Nonchalamment rythmé:静かに揺れるリズム上での,PとSによるノスタルジックでゆったりとして抒情豊かな旋律のデュエット。伴奏型のリズムが細分化されるに連れて情緒が深まるが,次第に収まってpppで静かに終わる。(4'30")[S:3/P:3]
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旅芸人の音楽 Op.22(全6曲)
Musiques foraines [1901]
連弾(オリジナル)=Hamelle

★旅芸人のにぎやかな出し物の描写的な音楽だが,その夢と幻想に満ちた曲想は,その時代の風俗の簡素なイラストなどではなく,巨匠の筆による芸術的な絵画の感がある。全体的に音が厚く,転調が頻繁で書法も複雑なため,単純明快な解放感や万人向きの親しみやすさにはやや乏しいが,極めてピアニスティックで色彩的なうえ,曲想は奥行き深い。「限られた素材に基づく多様な変化」の見本のような曲が多いだけに,各部の変化が十分に生かし切れないと,特に全曲演奏の場合,単に執拗で冗長な作品に感じられる危険があり,そこにこの作品の魅力と背中合わせの難しさがある。

[1]客寄せ Parade 二長調 Animé:快活で輝かしい2拍子の行進曲風の音楽で,心躍る楽しい期待感とユーモラスな雰囲気に溢れている。曲想は変化に富み,ある部分では夢見るように美麗。(4'35")[S:4/P:4]

[2]道化師の口上 Boniment de clowns 変ホ長調 Mouvement modéré de Valse:ロマンティックなワルツ。同一のフレーズの変化の妙が魅力。(2'30")[S:2/P:3]

[3]美女ファティマ La belle Fathma イ長調 Très lent:近東や北アフリカのエキゾチックな民族衣装で着飾った,ベリーダンスのダンサーなどの女芸人。旋律もバスの動きも同一の音型が静かにゆっくりと反復される。(3'30")[S:2/P:2]

[4]芸達者な象たち Les éléphants savants イ短調 Avec quelque solennité:巨体の象たちによる力強い動きは重々しく圧迫感がある。芸達者な象たちがさまざまな芸を披露するかのように,転調も,そして曲想も多彩。(4'30")[S:4/P:4]

[5]女占い師 La pythonisse 卜長調 Sans lenteur:女占い師が優しい口調で語るのはロマンティックな未来のようだが,断言ではなく,神秘的な pp の四重トリルの後,ppp の最弱音で言葉を濁すように終わる。同一フレーズが幾多の転調と微細な変化を伴って反復される,ゆったりとしたワルツで,書法は対位法的で複数の旋律が同時に奏されるため,占い師の言葉は多義的に聞こえる。四手が接近しがちで両者の手の交差もある。(4'30")[S:3/P:3]

[6]回転木馬 Chevaux de bois 変ニ長調 Mouvement de valse vite:第1主題はロンドのリフレインのように幾度も現れるが,その伴奏は万華鏡のように千変万化し,再現部では別の主題と同時に奏される。曲集中,最も華麗で輝かしいワルツで,大胆な手の交差もあり,アンコール曲にも最適。(5'10")[S:4/P:4]
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気晴らしの小品集 Op.37(全3曲)
Pièces récréatives [1907]
連弾(オリジナル)=Hamelle

★シュミットによる4組の「5つの音」による作品集の2組目で,3曲とも短く軽妙。特に2,3曲目の乾いた抒情は「新古典主義」的。全曲,Pは固定された一つのポジションの5つの音で書かれ,調号はなく派生音は臨時記号を使って書かれている。 IMSLP の楽譜はなぜか偶数ページのみだが,欠落した小節はない。

[1]カドリーユ Quadrille へ短調 Animé : 通常のように55つの部分からなる舞曲ではなく,力強い足取りの快活な民謡風の旋律が変形されたり,さまざまに転調されて反復される。Sに臨時記号の誤りがあるが,容易に見出せよう。(1'30")[S:3/P:1]

[2]ガヴォット Gavotte へ長調 Très modéré:スタッカートが多用された軽快で歯切れの良い旋律を持つ。微細な変化を伴うが各部の反復が多い。(1'30")[S:2/P:1]

[3]行進曲 Marche 卜短調 Assez animé:切迫する4小節の序奏にスタッカートが多用された軽快な主部と,少しテンポが緩むトリオ風の柔和な部分が続き,それらが反復される。Sの右手はPの両手の間で弾く箇所がある。(1'20")[S:3/P:1]
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8つの短い小品 Op.41(全8曲)
Huit courtes pièces[1909刊]
連弾(オリジナル)=Heugel

★シュミットによる4組の「5つの音」による作品集の3組目。全曲,Pが5つの音で書かれている。「学生の現代音楽(musique moderne)への準備のため」とあり,当時の学生たちの耳にはさぞ斬新に聞こえたことであろう。それから100年以上も後の今では,まったく難解ではなく,新鮮で親しみやすく,ユーモラスにも聞こえる。Pによる旋律は5つの音に限られるが,シュミット得意の転調が巧妙で単調さを感じさせず,PとSとの掛合いも面白い。

[1]序曲 Ouverture ハ長調 Mouvt de Marche:Pによる旋律は5つの音に限られているが,旋律線がSに続く箇所もあり,堂々として晴れやかな広がりさえ感じさせる。Pは音の長短,強弱や硬軟などのニュアンスの表現に集中でき,教材としても優れている。(3'30")[S:3/P:1]

[2]メヌエット Menuet イ短調 Modéré:歯切れの良いフレーズと歌うような抒情的フレーズ,pとffのフレーズの対比に乾いたユーモアが漂う。Sによる対旋律が魅力的。(2'00")[S:3/P:1]

[3]歌 Chanson ハ長調 Presque lent:Pは子守歌のような旋律をゆっくりと静かに歌う。Sの両手の動きも「歌」に満ちている。(2'30")[S:3/P:1]

[4]セレナード Sérénade ハ長調 Animé,sans exagération:景気の良い序奏に軽快なワルツが続く。ワルツはロマンティックでノスタルジックな雰囲気の中に軽い皮肉を秘める。(1'50")[S:4/P:1]

[5]ヴィルレー Virelai 卜長調 Gai et sans précipitation:ヴィルレーは中世フランスの世俗歌曲の一形式。スタッカートを多用した歯切れの良い旋律を持つ,軽快で活発な舞曲風の作品。(1'10")[S:3/P:1]

[6]ボレロ Boléro へ長調 Très modéré:リズミカルな旋律はP,Sによって交互に奏され,両者の掛合いが特に面白い。コーダでの Lent のレチタティーヴォ風の箇所が全体に絶妙な変化を与えている。(3'15")[S:3/P:1]

[7]哀歌 Complainte ニ短調 Lent:15/8 (小節は破線によって9/8と6/8に分けられている)と9/8による変拍子の作品。タイトル通りの素晴らしい哀感が込められていて,両者とも技術的には難しくないが,的確な表現は極めて至難。演奏時間は任意の反復を行った場合。(3'10")[S:2/P:1]

[8]行列 Cortège イ長調 Un peu solenne1, sans lenteur:4/4 ,3/4 ,2/4 ,7/4とさまざまに拍子が変わるに連れて,伴奏型も旋律のニュアンスも刻々と移り変わる。堂々 として晴れやか。(1'50")[S:3/P:1]
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セレナード
Sérénade[1911刊]
連弾(オリジナル)=Pierre Rafitte

★ニ長調 Animé:雑誌"Album Musica No.108"に所収。Pは固定されたポジションの5つの音のみを弾く。 6/8から3/4拍子に変え,音価と小節数を倍にしたため,視覚的には異なる印象が強いが,実質的には「眠りの精の一週間(ヤルマールの夢)Op.58」の5曲目,「ふぞろいな文字のロンド」と同一曲。乾いた皮肉と優しい抒情の間を揺れ動く。恐らくこの「セレナード」が「ロンド」の原曲であろう。(1'20")[S:3/P:2]
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ユモレスク Op.43(全6曲)
Humoresques[1912刊]
連弾(オリジナル)=Philippo(スコア形式)

★単に「滑稽」な作品ではなく,全6曲の曲想は多彩な変化に富み,それぞれは豊かなイメージに満ちているが,多くの曲中で,音量の変化の意外性に面白さがある。第1,2,5曲はシュミットの作品中では特にPの書法が薄いため響きが明快であり,技術的に弾き易いだけでなく,このピアニスティックで機知に富んだ曲集の親しみやすさを増している。

[1]軍隊行進曲 Marche militaire ハ長調 Très rythmé:華麗なファンファーレで始まり,軍楽隊が遠くから近づき,眼前を通ってはるか彼方に去ったかと思いきや,クレッシェンドして ff で終わる様子がユーモラス。「ラ・マルセイエーズ」の香りがする。(3'10")[S:3/P:2]

[2]ロンドー Rondeau ト長調 Assez animé:活発,明快で途中の3拍子と2拍子の交錯が,いっそう熱狂的な前進感と面白さを増す。一気呵成に進行するが,その和声は極めて繊細でロマンティックであり,速いテンポで通り過ぎるのが惜しいほど。(1'25")[S:3/P:2]

[3]牧歌 Bucolique ホ長調 Paisible:冒頭のPの上声に現れ,その後は中声部やバスに現れる半音下がって終わる短いフレーズや,ゆらゆらと揺れるように下降するフレーズが多く,フォーレ風の優しく穏やかな抒情と微妙に揺れ動く感情に満ちている。テンポの変化や転調も多く,音が厚い。(4'30")[S:4/P:4]

[4]小スケルツォ Scherzetto ハ長調 Vif:主部の旋律はスタッカートが多用された軽快なもので,タイトル通りひょうきんな性格。変イ長調の中間部でのはじめはSに,次いでPに現れる流麗な旋律は,極めてロマンティック。音量の急激な変化が特徴。(2'20")[S:4/P:4]

[5]感傷的なワルツ Valse sentimentale 変ト長調 Pas vite:優美でロマンティックな旋律をPとSとが歌い交わし,後にはカノンを含むデュエットとなる。シュミットの数多くの連弾作品中でも,最も伝統的なロマン派の作風に近くて親しみやすい上,技術的にも易しい作品の一つ。(3'00")[S:2/P:2]

[6]グロテスクな踊り Danse grotesque イ短調 Animé,sans éxagration, et avec quelque lourdeur:指示は「誇張なしに,いくらか重く」だが,音量の変化の幅が広く,誇張なしでも巨大で鈍重な熊の踊りのような印象を受けよう。さまざまな転調を経て最後はイ長調の性格が強まるが,終わりから2小節目の変ロ音でその明るさを中和するところが,いかにもシュミットらしい。(2'20")[S:4/P:4]
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リートとスケルツォ Op.54
Lied et Scherzo[1910]原曲 室内楽曲
連弾(自編)=Durand(スコア形式)

★原曲は2組の管楽五重奏のための作品。Sによる,徐々に発育する植物の芽のような「問い」のモティーフに,Pが急速でリズミカルな「答え」を弾く謎めいた序奏に続き,Sの伴奏と手を交差させながら,Pによる Lent のノスタルジックで透明な悲しみを秘めた3/4拍子の「リート」が登場する。この魅力的な「歌」は,はじめの「問い」から派生したもの。その後,Pのグリッサンドに導かれて,そのリズムが「答え」から派生している12/8拍子の行進曲風の快活な「スケルツォ」部分に続く。リズムの読み易さのためにPとSで拍子の異なる箇所もあるが,遅い部分での旋律の表情付けや複雑なリズムが難しく,両者の手の接近,交差も頻繁で後半にはSの右手がPの両手の上の音域を弾く箇所もある。熟練したデュオ向きの,繊細さとスケールの大きさを併せ持つ洗練された大作。(10'00")[S:5/P:5]
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シンディング Sinding, Christian (1856~1941) ノルウェー
変奏曲 Op.2
Variationen[1889刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Wilhelm Hansen

★変ホ短調,Andante の極めてシンプルな4小節フレーズを,IとIIが弾き交わす主題部に9つの変奏とコーダが続く。力感に溢れ,2台のピアノが発する豪快な響きと迫力が特徴のロマン派の巨人的大作だが,オクターヴ以上の和音はごくわずか。2台のピアノが対等に扱われているだけに,両者ともに強大なスタミナと各種の高度なテクニックが要求され,特に第1変奏での両手それぞれの繊細なトリルの連続や,第2変奏でのオクターヴと和音の連続は至難。リズミカルな第4変奏から第5変奏にかけての驀進するような盛り上がりも極めて効果的だが,決して力技一辺倒ではなく,可憐な第3変奏や明るいロマンに満ちた第7変奏,「葬送」と題されてはいても歌心に富んだ第6変奏が作品に豊かな変化を与えている。演奏される機会は少ないが,晦渋な変奏は皆無で親しみやすく,ともに変ホ長調の長大な行進曲風の第9変奏と短いコーダで,輝かしく豪快に終わる。単に「騒々しいだけ」に感じさせない工夫が必要。[17'00"](I:5/II:5)
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組曲 Op.35a(全4曲)
Suite[1896刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★後に「騎士道的エピソード Épisodes chevaleresque op.35b」として管弦楽化されたが,楽譜の表記は両版とも Op.35 。 管弦楽化も当然と思えるほど音が厚く,多声的でリズムも複雑であり,そのリズムや伴奏型は創意に満ちて実にユニーク。重厚な響きに満ちた,スケール豊かな典型的な後期ロマン派の大作で,全体的に音が厚く,バランスが難しいうえに4手とも動きが複雑なため,技術的に極めて高度。

1]へ長調 Tempo di marcia:2拍子の快活な楽章だが,2,3,4小節フレーズが混在しているので流動的な前進感が強い。3小節フレーズによる変イ長調の中間部にはSの長いソロが用意されている。短いフレーズの反復進行で徐々に盛り上がる箇所はヴァーグナー的。[5'00"](S:5/P:5)

[2]変口短調 Andante funebre:他に類例がないほど壮麗な葬送の行進。Sは,厚い音の中で喇叭が聞こえ,ドラムのロールが重々しく鳴り響く。Sの8小節のソロに導かれる中間部は,極めて甘美でロマンティック。[9'50"](S:4/P:4)

[3]変イ長調 Allegretto:高貴で豪華な宮廷舞曲風の楽章。旋律の細かい装飾的な動きが優雅さを強調するが,Sの左手によるバスの動きはオクターヴが多く,重苦しい響きにならないように弾く必要がある。Sが旋律を担う中間部は,音が厚いが常にppの指示があり,Pによる素早い音階的な伴奏の動きがユニーク。[3'50"](S:3/P:4)

[4]終曲 Finale へ長調 Allegro moderato:Sのソロによる歯切れ良く快活な舞曲風の主題で始まり,Pに主題が受け渡されて華やかに展開される。テンポを落とした中間部は,やはりSのソロで始まり,後にPが旋律を奏するが,ここでの両者の伴奏の動きもユニーク。Sによる低音部のトレモロを伴って大きく盛り上がった後,この「組曲」中では珍しく音の薄いコーダに入り,次第に盛り上がって終わる。[6'00"](S:4/P:5)
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二重奏曲 Op.41(全2曲)
Duette[1898刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Wilhelm Hansen

★2曲は別々の楽譜で出版され,楽譜冒頭の上部には「2つの二重奏曲 Zwei Klavierduette」と書かれ,それぞれ Op.41a と 41b の作品番号が記されている。2曲とも幅広い和音やオクターヴを駆使して豪快にピアノを響かせ,1曲目は2台のピアノが2つの旋律を弾き合うさまが,2曲目は2台のピアノ間でのフレーズの応酬が,いかにも「デュエット」のタイトルにふさわしい。オクターヴ以上の和音も多く,独特の伴奏部やグリッサンドの多用が実にユニーク。

[1]変ホ短調 Andante:IIによって静かに歌い出される主題は,「五木の子守歌」との酷似に驚かされるが,Iによる伴奏部は旋律と素早いアルペッジョが組み合わされた個性的なもの。両者が役割を交替しつつ展開され,長調の主題は幅広い和音を豪快に響かせて壮大に盛り上がり,変ホ長調で堂々と終わる。ドビュッシー風に聞こえる箇所もある。[5'30"](I:5/II:5)

[2]ハ長調 Deciso ma non troppo allegro:主部は,リズミカルで祝典的な短いフレーズの2台ピアノ間での応酬が執拗に反復され,中間部では転調を伴うものの,同一のフレーズが反復され,特に後半の16小節間は同じ和音進行が続く。冒頭と中間部の2つのフレーズの反復によって,ほぼ全曲が構成されているといっても良く,ヴァーグナー風の壮麗な展開に心酔,共感できるかどうかが評価の判断基準となりそう。ピアノ・デュオ作品中,最も多くグリッサンドが使われる作品で,離れた音域への急速な跳躍も頻発する。[7'40"](I:5/II:5)
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ワルツ集 Op.59(全7曲)
Walses[1903刊]
連弾(オリジナル)=Wilhelm Hansen

★シンディングのデュオ作品中では,音が薄く,ffの指示は一つもなく,サロン風の軽妙さと親しみやすさを持つロマンティックなワルツ集。転調が効果的で興味深く,技術的には易しい曲が多い。テンポの指示はなく。1集4曲,2集3曲に分かれているが番号は通し番号。

[1]ハ長調:Pによる,伸びやかに上昇しては半音進行を多く含んで下降する主題が魅力的。変ホ長調のワルツはSのソロで登場し,2度目にはPが華やかな装飾を加えるのがいかにも連弾らしく,愉悦感に満ちている。[4'05"](S:3/P3)

[2]イ短調:重々しく粘性に富む旋律を持つ。PとSとがデュエットを続ける。[2'45"](S:2/P:2)

[3]卜長調:Pの両手がオクターヴ,あるいは2オクターブ離れたユニゾンで,可憐な旋律を弾く。Sは伴奏のみ。[1'50"](S:1/P:2)

[4]ホ短調:情熱的な旋律をPが弾き出した後,Sがその旋律を受け持つとPは装飾的な動きを加える。中間部はト長調で華やか。[1'55"](S:2/P:2)

[5]変ニ長調:主部は優美な旋律を持つ。中間部はSのソロで始まり,Pが旋律を担当すると即興であるかのような変化と転調が加わる。(2'30")[S:3/P:3]

[6]変イ長調:主部は明朗で精力的。へ長調で始まって転調を続ける中間部は,PとSとの掛合いがおもしろい。[2'35"](S:2/P:2)

[7]変ホ長調:アルペッジョ付きの和音が2拍子で上昇するSの動きが極めて優雅だが,Pによる旋律には,その動きやリズムに軽いユーモアが感じられる。中間部はP,Sともに3度重音が多い。高音域の響きが華やかだが,味わい深い弱音のコーダを経て終わる。[3′00″](S:3/P:3)
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