マスネ Massenet, Jules (1842~1912) 仏
小品集 組曲 第1番 Op.11(全3曲)
Pièces 1re suite[1866]
連弾(オリジナル)=Durant, Schnænewerk & Cie.

★緩・急・緩の対照的な楽章からなる連弾小曲集。随所にマスネらしい流麗な旋律が聴けるだけでなく,対位法的な書法が多く使われ,PとSの対話の機会も豊富。なお3と2は「チェロとピアノのための2つの小品」(1867刊)の編曲。

[1]へ長調 Andante:Sの右手により,つぶやくように歌われるデリケートな旋律上に,PがSの動きを忠実ではないまでも,拡大した旋律を伸びやかに歌う。Pの旋律はフレーズの終りに decresc.と dim.が重ねて記され,まるで賛嘆の「ため息」のよう。対位法的に書かれながらも堅苦しさは微塵も感じられず,中間部のSからPに受け渡されるアルペッジョの進行も極めて魅力的。最上のフランス風の優雅さと甘美な抒情に溢れた逸品。(2'10")[S:3/P:3]

[2]卜長調 Allegretto quasi allegro:連続する付点リズムを備え,装飾音に彩られた旋律を持つ快活な舞曲で,曲想はバロック風でもあり,また民謡風でもある。中間部は厳密ではない3声のカノン。(3'10")[S:3/P:3]

[3]変ニ長調 Andante:見開きわずかに2ページの小品でPが穏やかな主旋律を奏し,時折Sが対旋律や合いの手を加える。(1'00")[S:2/P:2]
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過ぎ去りし年(全12曲)
Année passée[1897刊]
連弾(オリジナル)=Heugel et Cie.

★「夏の午後 Après-midi d'été」「秋の日々 Jours d'automne」「冬の夕暮れ Soirs d'hiver」「春の朝 Matins de printemps」の4集(各3曲ずつ),全12曲で四季を綴った全曲の演奏時間約30分の大作。マスネの連弾曲はフランス風の軽妙で優美な作品ばかりという誤った先入観を打破する,迫力に富む重厚な作品も含まれている。極めて変化に富む各曲は完成度が高く,知名度こそ低いが,ロマン派の連弾作品の傑作であることは疑いない。

[1]木陰にて A l'ombre イ長調 Assez lent et mystérieux:風に揺れる木々の下で繊細に明滅する木洩れ日の光と影と緑のグラデーション。音階的な,あるいはアルペッジョの急速な動きの上に穏やかな旋律が歌われる。(3'00")[S:3/P:3]

[2]麦畑にて Dans les blés イ短調 Modéré:鄙びた旋律による自由な変奏。カノンに続き劇的な変奏が登場し,この場所で起こった重大な出来事を想像させる。(3'00")[S:3/P:3]

[3]大きな太陽 Grand soleil 二長調 Avec ampleur:赤々と燃えながらゆっくりと沈む壮大な夏の太陽。Sは基本的には下降する重厚な旋律を奏し,Pは幅広い和音を連打する。和音の変化は微妙な旋律を伴い,最後の和音は両者ともに ffff。(1'30")[S:1/P:3]

[4]黄ばんだ葉 Feuilles jaunies 変ニ長調 Assez lent:3手のための作品。Pは右手で単音の旋律を弾くのみだが,頻繁に転調するその旋律はSの対旋律ともども,いかにもマスネらしい風情をたたえ,極めて優美でロマンティック。(1'40")[S:2/P:1]

[5]11月2日 Deux novemble 嬰へ短調 Triste, assez lent:この日は「万霊節」。Sによる遠い鐘の音で始まり,重々しい聖歌風の旋律が聞こえる。少しテンポが速まる嬰ヘ長調の中間部では,束の間,明るさが増すが,再び死者への思い出に沈む。(3'50")[S:2/P:2]

[6]楽しい狩り Joyeuse chasse 二長調 Très animé:躍動的なリズムに満ち,力強いホルンの音がこだまする。いわゆる「狩の歌」でP,Sともに水が流れるようなモティーフの使用は個性的。(2′55″)[S:4/P:4]

[7]クリスマス Noël 変ホ長調 Très modéré:4手のユニゾンによる敬虔な合唱で始まる。宗教的な喜びが込められた変奏では,対位法的処理によって自由に動く声部が加わる。(2'00")[S:2/P:3]

[8]夢見ながら En songeant へ短調 Très lent:深刻で痛切な旋律と和声は,S~P~Sと弾き継がれる幅広いアルペッジョを挟んで続く。Pの最後に登場する旋律は「マノンヘの愛の動機」。(2'40")[S:3/P:3]

[9]人々はワルツを踊って… On valsait… へ長調 Mouvt.de valse:優雅で華麗なワルツ。Sも旋律を弾く機会が多い。(2'15")[S:3/P:3]

[10]初めての巣づくり Les premiers nids ハ長調 Vif,alerte et gai:軽快に鳴き交わすつがいの小鳥。リズムも旋律もPとSとの掛合いが多く,ざわめくような中間部は木々を揺らす風でもあろうか。(3'05")[S:4/P:4]

[11]リラの花 Lilas 卜長調 Très modéré et caressant:16分休符で繊細に区切られる甘美な旋律からは花の香りが匂い立つかのよう。それぞれの左手は右手を越えて短いアルペッジョで軽く伴奏を加える。個々の技術的以上に,堅苦しくならずに優美に弾いてピタリと合わせるのは非常に難しい。(1'15")[S:3/P:3]

[12]復活祭(大ミサの散会) Pâques(Sortie de la Grand' Messe) 二長調 Modéré:鳴り渡る鐘の音と,高らかに歌われる歓喜に満ちた旋律。快活なフガートを挟み,豪壮に盛り上がって全曲を閉じる。Sには88鍵の最低音が頻出する。(2'20")[S:4/P:4]
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マルトゥッチ Martucci, Giuseppe (1856~1909) 伊
変奏曲 Op.58
Variazioni[1902刊]
2台ピアノ(オリジナル) =Ricordi

★変ホ長調:IMSLPのファイル名は “Tema con Variazioni”(ピアノ独奏曲)で,2P版を編曲としているが,改編の度合いがかなり大きい事もあり,ここでは「オリジナル」とした。2台のピアノの音響のパワーを駆使し,明晰さと楽天的で豪快な力強さを特徴とする大作。IIのソロによる,弦楽合奏がふさわしい穏やかな性格の Andantino の主題部は,8小節の旋律が2度現れる。2度目は変ホ短調で登場し,転調を経て主調に戻るので,主題部自体が変奏曲的性格を持つ。第1変奏はIのソロにより,主題が5連符の流れに溶け込んでいる。第2変奏からは2台のピアノが共奏し,短いリズム的モティーフの掛合いの中に2小節の流麗なソロが置かれる。この作品は2台のピアノの対等な扱いも特徴の一つで,前半と後半では掛合いの先と後,ソロの分担が逆になる。第3変奏は深々とした響きで悠々と歌われる旋律に,他方がリズミカルで華やかな伴奏を添える。ここでも半音階的に下降するソロがテンポを落として登場し,幻想的な雰囲気を高める。第4変奏は力感と活気に満ちた「狩の歌」風のリズムで,第5変奏はスタッカートの輝かしい分散和音の部分とレガートな旋律が交互に置かれる気紛れな気分なもの。6/4拍子の第6変奏は半拍ごとに変化する和音による瞑想的な部分と,微風のように軽快な動きの部分が交替する。第7変奏はI・IIそれぞれが両手交互のリズミカルで軽快な和音奏。第8変奏は「ショパン風に」と書かれ,一方の厚いバス音上に他方が幅広いアルペッジョとノクターン風の極めてロマンティックで陰影に富む旋律を奏する。しかし神経質で線の細い曲想ではなく,9/4拍子で1ページに2小節ずつという配置のためもあり,視覚的にも骨太で雄大な印象を受ける。最後の第9変奏は両手交互の打鍵によるエネルギッシュなトッカータ風なもので,コーダでは厚い和音とオクターヴの多用によって主題が再現され,豪壮に曲を閉じる。(12'30")[I:5/II:5]
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モシェレス Moscheles, Ignaz (1794~1870) チェコ
協奏的大二重奏曲 Op.20(4楽章)
Grand Duo Concertant[1812頃刊]
2台ピアノ(オリジナル) =Artaria(I・II分冊)

★M.Giuliani(マウロ・ジュリアーニ イタリアの名ギター奏者で作曲家)との共作で,楽譜の表紙には「ピアノ(フォルテ)とギター,または2台のピアノのために」とあるために「オリジナル」としたが,ギターでこの楽譜を使って演奏するとは考えられず,「ピアノとギター用」の楽譜から,ギターのパートをIIとして,ピアノ用にモシェレス自身が手を加えたのであろう。それでもなおIIにはギターに適した音使いが随所に見られるところが誠にユニーク。タイトルの示す通り,2台のピアノが協奏的に対等に扱われ,華やかで楽しい旋律が次々に繰り出される親しみやすい作品。現在のピアノと違い,当時の楽器はギターとの二重奏でも違和感は少なく,ジュリアーニはウィーンに住んだ時期もあり,フンメルとも共作で同種の作品を残している。

[第2楽章]イ長調 Allegro maestoso:決然としたリズムの和音に続き,両者が短い会話のようなパッセージを弾き交わして始まり,やがて行進曲風だがかわいらしい第2主題に至る。これに続くIの華麗で繊細なパッセージや,IIのいかにもギター的なカデンツァが聴かせどころ。展開部では少しテンポを落としてイ短調の感傷的な主題が登場し,両者が主役の座を競うように弾き合う。形式的にも自由度が高いだけに,堅苦しい演奏では作品の魅力が半減する。(14'00")[I:4/II:4]

[第2楽章]イ長調 Allegro maestoso:決然としたリズムの和音に続き,両者が短い会話のようなパッセージを弾き交わして始まり,やがて行進曲風だがかわいらしい第2主題に至る。これに続くIの華麗で繊細なパッセージや,IIのいかにもギター的なカデンツァが聴かせどころ。展開部では少しテンポを落としてイ短調の感傷的な主題が登場し,両者が主役の座を競うように弾き合う。形式的にも自由度が高いだけに,堅苦しい演奏では作品の魅力が半減する。(14"00")[I:4/II:4]

[第3楽章]イ短調 Largo espressivo:付点リズムの重々しい短い序奏の後,Iの左手による荘重な連打音に乗せて,両者が16分音符が連なる旋律を弾く。その旋律の動きは過度に感傷的ではなく抑制が利いている。(3'30")[I:3/II:3]

[第4楽章]牧歌 Pastorale イ長調 Allegretto espressivo:IIによって弾き出される旋律がカノン風に扱われる冒頭は,静かに吹き鳴らされるアルペンホルンの響きが山々に谺する,まさに牧歌的な風情だが,おもに使われる音符が8分音符の3連符~32分音符と細分化されるに従って,Iは急速なパッセージが鍵盤上を奔放に駆け回り,IIはギターのトレモロを模した音型が目立つようになる。IIの終り近くには,ジュリアーニの「24の練習曲 Op.48」の24番が使われている。それぞれの楽器の名手が優れた腕前を披露するための名技的で華麗な楽章。(10'00")[I:5/II:4]
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華麗なロンド Op.30
Rondo brillant[1814刊]
連弾(オリジナル)=Hofmeister

★イ長調 Allegretto:楽しい旋律が転調を伴って次々と現れる快活な作品。冒頭の主題がとてもユーモラス。Pは急速に,そして流暢に動き回る箇所が多く,Sは伴奏が中心だが,主題や対旋律を弾く機会もある。P.11のPの下段のテープの修復で隠された部分は,恐らく休符であろう。Pはかなり高い音域に達し,それが作品の輝かしさを増している。(7'40")[S:4/P:5]
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トリオ付きの6つのワルツ Op.33(全6曲)
6 Walzes avec trio[ ? ]
連弾(オリジナル) =Artaria

★モシェレスによる易しい教育的作品の好例。技術的に易しく,優美で落ち着いた雰囲気の旋律は変化に富み,Sも伴奏を担うばかりでなく旋律を弾く機会もある。8小節や16小節等の各フレーズは反復され,曲尾に D.C. は書かれていないが,「トリオ」の後,冒頭に戻り(フレーズの反復なしで),「トリオ」の前で終わるのが一般的であろう。

[1]ハ長調:トリオの後半はイ短調に転調してハ長調に戻る。(1'40")[S:1/P:1]

[2]へ長調:1曲目よりも旋律の動きもリズムもやや複雑になる。主部の力強いファンファーレと二短調のトリオの繊細な旋律の対照や,トリオでのPとSとのカノン風の動きが興味を引く。(2'45")[S:2/P:1]

[3]変口長調:トリオはP,Sによるffの和音と,弱音の優美な旋律が交互に現れる。(2'15")[S:2/P:2]

[4]卜短調:熱情的で鬱屈した主部を持ち,卜長調のトリオの伸びやかな民謡風の旋律が印象的。トリオの中間部,Sが旋律を弾く二長調の箇所でのSのオルゲルプンクトとPの右手による長いトリルが実に効果的。(2'40")[S:1/P:2]

[5]ホ短調:これまでの4曲と比べ,急に時代が前に進んだ感があり,甘美でメランコリックな曲想はいかにもロマン派の小品らしい。ホ長調のトリオでの半音階的進行と,PとSとの対話がおもしろい。(4'50")[S:2/P:3]

[6]ハ長調:旋回するような華やかな旋律の主部を持つ。トリオでは力強くファンファーレが鳴り響く。(3'40")[S:2/P:3]
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大二重奏曲 Op.35(4楽章)
Grand Duo[1815]原曲 室内楽曲
2台ピアノ(編曲者不明) =Hofmeister(I・II分冊)
連弾(自編) =Hofmeister

★「ピアノ六重奏曲」の編曲で,2P版は原曲のピアノ・パートをIとして,他の楽器のパートをIIに編曲したもの。当然,2P版のほうが原曲への忠実度は高いが,連弾版も音域的な制限のために旋律線を変えたり,オクターヴを単音にした箇所が一部にあるものの,ほぼ原曲に忠実。PとSとのリズム上の噛み合わせが面白い部分もあるが,やはりSは伴奏的な動きが多い。

[第1楽章]変ホ長調 Allegro con spirito:清々しくおおらかな明るさと軽快な運動性を持つ。同一のモティーフの反復箇所が多く,畳み掛ける迫力を持つ反面,冗長感は否めない。ホ長調の部分でのテンポの変化は連弾版のみに見られる。(12'15")[I:4/II:4][S:3/P:4]

[第2楽章]メヌエット Menuetto ハ長調 Molto moderato:主部は厚い和音とffが多用されて力強く進行する。原曲ではチェロとホルンが,2P版ではIIが旋律を奏するヘ長調のトリオでは,終り近くの同一リズムの反復が極めて魅力的。この楽章では,IとSの右手は連続する16分音符によって和音を充填する箇所が多く,その流れをニュアンス豊かに,同時にうるさくないように弾く必要がある。表記の演奏時開が長いのは各部の反復が多いため。(7'00")[I:3/II:2][S:2/P:2]

[第3楽章]変イ長調 Adagio:原曲でもピアノによる,特徴ある印象的なトレモロの序奏部に,情緒纏綿とした素晴らしい旋律が続く。この旋律を連弾版では両者が手を交差させてオクターヴ離れたユニゾンで弾く。2P版でははじめはIIが担当するが,後半の細かい装飾的な動きはIの担当。次の楽章に続く。(5'40")[I:3/II:2][S:2/P:3]

[第4楽章]変ホ長調 Allegro non troppo:音階的な動きを多く使った旋律が続く明るく軽快で優美な楽章だが,同じ音型の連続が多く,提示部の反復を省略してもいささか長い。特にPの右手には流暢な運動性が要求される。2P版では両者の掛合いが楽しい。(12'00")[I:4/II:3][S:3/P:4]
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大ソナタ Op.47(4楽章)
Grande Sonate[1853刊]
連弾(オリジナル) =Cranz

★20代前半の作品で,その当時は人気が高く,モシェレスは1839年にショパンとともにこの作品を演奏した。このCranz版は2~4楽章の一部がカットされた改訂版。モシェレスのデュオ作品は冗長と思える作品もあるが,この作品はカットなしでもまったく冗長さを感じさない。古典派の落ち着いたたたずまい,初期ロマン派の新鮮な抒情,溢れる熱気と迫力,そしてピアニスティックな華やかさを併せ持つ傑作。

[第1楽章]変ホ長調 Allegro spiritoso:晴れやかで堂々とした第1主題と旋律的でマーチ風の第2主題を持つ。第1主題に続いて,長調に変えられてはいるが,モーツァルトの「交響曲 40番」の冒頭の有名なモティーフが出現する。第2主題の魅力的な転調はシューベルトを予感させる。特にPとSの連携が緊密で,華麗でピアニスティックな演奏効果を発揮する,迫力に富む楽章。(11'00")[S:4/P:4]

[第2楽章]卜短調 Andantino quasi allegretto:民謡風の主題に長調の技巧的な2つの変奏が続く。変奏に至る前の半音階的な下降が幻想的。伴奏の音が厚く,バランスには注意が必要。(4'45")[S:4/P:4]

[第3楽章]ホ長調 Adagio:劇的な短い序奏に続き,Pが左手で安らぎに満ちた旋律を弾き始め,右手の旋律とデュエットとなる。楽譜に記された「四分音符=92」の指示は速すぎるように思う。次の楽章に続く。(2'40")[S:2/P:2]

[第4楽章]変ホ長調 Allegro:力強さと軽快で素早い動きが特徴的な終曲。連打音による旋律がユーモラスであるとともに華やかさを増している。速度が上がるコーダは特に技巧的。(6'00")[S:5/P:5]
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美しい結合 序奏付きの華麗なロンド Op.76
La belle union  Rondeau brillant précédé d'une introduction
[1828頃刊]
連弾(オリジナル) =Probst

★Largo の序奏は短いが重々しいファンファーレの後,歌謡的な旋律が次第に緊張の度を高め,半音階的な下降を経て変へ長調を通って変ホ短調を準備する。そして両者の短いカデンツァ間に変ホ長調に向かい,Allegretto grazioso のロンドが続く。主題は軽快で極めて優美なもので,変ハ長調のクープレは特に優しく甘美に響く。主題は調性や装いを変えて幾度も登場するので,作品としての統一感も強い。対位法的な部分も多く,PとSとの連携も極めて緊密で,Sもシンプルな伴奏は少なく多くの技巧的な見せ場を持つ。迫力あるストレットで緊迫した後,ハ長調の室内楽的な部分でテンポを落として落ち着くが,その後はヴィルトゥオーゾ的に盛り上がって終わる。両者の,特にPの右手には軽快で急速な動きが要求される。(12'00")[S:5/P:5]
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協奏的二重奏曲 ヴェーバーのメロドラマ「プレチオーザ」のジプシーの行進曲による華麗な変奏曲 Op.87b
Duo Concertant  Variations brillantes sur la marche bohémienne tirée du mélodrama Preciosa de C.M.de Weber[1833]
2台ピアノ(オリジナル) =Kistner(I・II分冊)
連弾(オリジナル) =Schlesinger

★ハ短調 Andante maestoso ハ長調 Allegretto:メンデルスゾーンとの共作で,ヒンソン(Hinson)によれば序奏と第1,2変奏はメンデルスゾーンが,第3,4変奏はモシェレスが作曲し,終曲は2人による合作。2台のピアノとオーケストラのための版もあり,2P版の表紙には「任意のオーケストラ付き」と書かれ,オーケストラの部分の音符には各楽器名も記されている。ハ短調の序奏は複付点音符の和音により重々しく始まり,いかにもメンデルスゾーンらしい感傷と情熱とに満ちた旋律をIが,あるいはPが担い,明るく軽快なハ長調の主題に続く。第1変奏は2人が素早い動きのパッセージを華麗に弾き合い,IIが主役の第2変奏は,分散オクターヴによるハ短調の情熱的なもの。再びハ長調となる第3変奏はIが主役となり,重音やオクターヴによる軽快な動きを披露し,第4変奏はテンポを落として前半は音階的な動きを弾き合い,次第に高揚して Allegro vivace の名技的で華麗な終曲に続く。連弾版は2P版の音をわずかに簡略化してあり,また2P版の第1変奏では特にIIが広い音域を弾くのに対し,Sのアクロバティックな奏法を避けるために狭い音域の動きに変えている。両版はアーティキュレーションや強弱記号も微妙に変えられ,反復の箇所も同じではないが,大きな違いは終曲で,小節数でほぼ3/4に縮小され,登場する主題も異なるが,決して簡略化ではなく,むしろヴァリアンテの性格が強く感じられる。両版ともに華麗で輝かしく,ピアニスティックで名技的な演奏効果を発揮する。(16'20")[I:5/II:5], (15'00")[S:4/P:4]
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序曲 オルレアンの少女 Op.91
0uverture Die Jungfrau von Orleans[1835刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編) =Kistner

★へ長調:シラーのロマン的悲劇による。序奏は2段構えで,まずへ長調,Andante religioso で平静に始まるが,しだいに短調へ傾斜し,悲しみと不安の度が増すと,Tempo di marcia, moderato の部分に入る。この部分もヘ長調だが,やはり短調への傾斜と減七の和音の多用で緊迫感が強まる。続く Allegro spiritoso の主部は,それまでとはまったく対照的に明朗で活力に満ち,ハ長調の流麗な第2主題も魅力的な上,ピアノでも効果的。その後,行進曲の部分と主部が再現されるが,最後は序奏のはじめの部分がヘ短調の葬送行進曲となって現れ,無垢な魂が天上に召されるように上昇するトレモロによって終わる。P・S間の連携が緊密で,また多様でもあり,両者の掛合いの機会も多く,曲の内容も変化に富む上に,気高い雰囲気がある。(10'00")[S:4/P:4]
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ヘンデルを称えて Op.92
Hommage à Händel[1822]
2台ピアノ(オリジナル) =Steingräber

★卜短調 Andante patetico ト長調 Allegro con fuoco:1822年,クラーマーが「ソナタ」の第1,2楽章をモシェレスに見せ,終曲に相当する楽章の作曲をモシェレスに依頼した。それに応えてモシェレスが急いで作曲した楽章を加えた作品が,同年の5月9日にロンドンで初演され,その後モシェレスはこの楽章に序奏部を加えて独立した作品,「ヘンデルを称えて」とした。序奏部は,フランス風序曲的な複付点リズムの重厚さと甘美な和声が絶妙に融合されている。主部はヘンデル風の力強い晴れやかさに満ち,序奏にも登場する旋律がさまざまな調で展開され,その疾走感が素晴らしく魅力的。作品はチェルニーに献呈され,モシェレスはこの作品をメンデルスゾーンとも演奏しており,昔日の巨匠たちの共演にふさわしい華麗な傑作。(12'00")[I:4/II:4]
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お伽話 Op.95-5
Un conte d'enfant[1893刊]原曲 ピアノ独奏曲
連弾(編曲者不明) =Armand Colin

★変ホ長調 Allegretto grazioso:IMSLP のファイルに作品番号等の記載はないが,「12の新しい性格的大練習曲 Op.95」(1836作)の5曲目の編曲。この「練習曲集」はシューマンによって高く評価された。原曲は,おもに右手の3~5指で明るくさわやかな旋律を弾きながら,1~3指で敏捷,軽快に内声のロマンティックな和音を充填する練習曲。この編曲は旋律やバスの一部をオクターヴ化した以外は原曲に忠実で,2手用の音符を4手に配分したため。原曲の難しさは大きく軽減されるが,Pの両手とSの右手は接近しがち。原曲もこのタイトルを持ち,メカニカルな練習曲ではなく完全にロマン派の性格的小品。(3'10")[S:3/P:3]
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ヴェーバーを称えて オイリアンテとオベロンの動機による大二重奏曲 Op.102
Hommage à Weber Grande duo sur des motifs d'Euriante et d'Oberon
[1842刊]
連弾(オリジナル) =Kistner

★ヴェーバーの歌劇,「オイリアンテ(以下E)」と「オベロン(以下O)」のさまざまな動機に基づく華麗なショー・ピースだが,歌劇の有名な旋律を単にピアニスティックに飾り立てた作品ではなく,動機を展開したり,2つの動機を同時に使い,また「大二重奏曲」の名の通り,Sにも旋律を担当させるだけでなく両者の手の交差も用意されている。全体は,大別すると続けて演奏される5部から構成され,各部のテンポも急-緩-急-緩-急と変化に富む。冒頭はEの「序曲」や両オペラの有名な旋律が使われ,輝かしく活気に満ちた序曲的な性格を持ち,続く第2部はEのアドラーの甘美なロマンツェ,「花咲く巴旦杏(はたんきょう)の下で」が実に豪華に,そしてピアニスティックに装飾され,最後はOのレチア姫の躍動的な歓喜の旋律で豪壮に幕を閉じる。颯爽と弾くにはP,Sともに高度なテクニックが必要。Eの1幕の最後,王女オイリアンテの「楽しい調べ」に基づく第4部(約2分)は省略も可。(14'10")[S:5/P:5]
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交響的大ソナタ Op.112(4楽章)
Grande sonate symphonique[1846刊]
連弾(オリジナル) =Schlesinger-Brants

★タイトル通り,交響的な偉容と響きを特徴とする大ソナタで,全曲の演奏時間は30分を越える。"The Piano duet"の中でルービン(E.Lubin)は「大ソナタ Op.47」とともに高く評価しているが,「Op.47」と比べるとピアニスティックな要素が少なく,技術的にも難しいだけでなく,変化を伴うものの同一フレーズの反復と新たに展開される楽想が多く,まとまりがなく冗長になりがち。 P,S間の,特にリズム的な連携が非常に緊密に書かれているが,説得力のある演奏のためには,デュオとしての極めて高度な実力が必要。

[第1楽章]口短調 Andante patetico Allegro agitato:トレモロと付点リズムによる重々しく,かなり長い序奏は転調と曲想の変化を経て,6/8拍子の主部に続く。主部は軽快な騎行するリズムに始まるが,主題や経過句はオーケストラ的な性格が強い。コーダは極めてピアニスティックで迫力に富む楽章。(10'30")[S:4/P:4]

[第2楽章]二長調 Andante espressivo:Sの多彩な伴奏に乗せて,Pが付点リズムによる息の長い旋律を弾く。この旋律は,時にはSも担当するが,転調やテンポの変化を伴いながら,無限に続くかのよう。非常に美しいが,飽きさせないように弾くのは難しい。(6'30")[S:4/P:4]

[第3楽章]卜長調 Allegretto Scherzoso alla tedesca antica:「古いドイツ舞曲風に」の指示だが,無骨な曲想ではなく,繊細な動きを持つだけに軽快に弾くのは技術的に難しい。より流麗な舞曲風のトリオを持つ。 P,Sともに頻出する両手の重音を滑らかに弾く必要がある。(4'30")[S:4/P:4]

[第4楽章]終曲への序奏 Introduction al finale Andante patetico tempo I,終曲 Finale 口短調 Allegro con brio:[第1楽章]の序奏が回想され,コラール風の主題も堂々と登場する。「終曲」は大胆なリズムで力強く始まり,「序奏」のコラール風の主題から派生して更に拡大された主題も登場し,まさに雄大なスケールの「交響曲」の感が強まる。技術的にも極めて難しい。(10'00")[S:5/P:5]
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滑稽な変奏曲,スケルツォと祝典行進曲 Op.128
Humoristische Variationen Scherzo und Festmarsch[1856]
連弾(オリジナル) =Kistner

★二長調:「メヌエットのテンポで」と指示された主題は付点リズムを多く含み,急激な強弱の変化が滑稽感を高めている。第1変奏はPとSとのリズミカルな対話が続き,第2変奏は半音階的な和声の上に連打音による旋律が乗る。ト短調の第3変奏は熱気に満ちて粘着質。再び二長調の第4変奏はオクターヴによる付点リズムで堂々とした進行で始まるが,しだいに穏やかさを増して収まり,「スケルツォ」に続く。この部分はそれぞれが2ページ半の短いもので,3拍子の明快で歯切れの良い主題,2拍子の軽快でやはり歯切れの良い主題,そして「変奏曲」の主題が交互に登場する独特なもの。後半は3拍子の主題が旋律的に拡大され,ファンファーレが鳴り響く活力に満ちた「祝典行進曲」に入る。ここでは幅広い和音が頻出し,その迫力と前進力,そして高音域を駆使した輝かしい響きが取り柄。「変奏曲」と「スケルツォ」はP・S間のフレーズのやり取りの機会が極めて多い。(14'30")[S:4/P:4]
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踊り シラーの詩による性格的小品 Op.129
Der Tanz Charakterstück nach Shiller's Gedicht[1858]
連弾(オリジナル) =Breitkopf & Härtel

★ニ長調 Allegro vivace:輝かしく短い序奏の後,6/8拍子の活力に満ちた渦巻くような旋律が現れ,途中に少しテンポを落とす箇所もあるものの,終始,快適なリズムで前進する開放的で楽しい小品。Sも伴奏ばかりでなく,快活な旋律を弾く。楽譜の表紙には「2手版がオリジナル」との表記があるが,アルトマン(W.Altmann)の目録ではオリジナル連弾作品に分類されている。(4'30")[S:3/P:3]
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ドイツ民謡による交響的英雄行進曲 Op.130
Symphonisch-heroischer Marsch über deutsche Volkslieder[1860刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編) =Kistner

★卜長調 Allegro moderato:1797年に初演されたハイドンの歌曲「神よ,皇帝を護りたまえ」(弦楽四重奏曲「皇帝」の第2楽章の主題にも使われ,一時はオーストリア国歌となり,現在のドイツ国歌としても使われている)の有名な旋律が,重厚,華麗に展開される。この旋律はハイドンによる完全な創作ではなく,クロアチア北部の民謡に基づいている。音が厚い編曲で,Sも旋律を弾く機会があり,Pとの連携も緊密。(6'30")[S:3/P:3]
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かわいいおしゃべりさん Op.142-1
Die Kleine Schwätzerin[1900刊]
連弾(オリジナル) =Schirmer

★変ロ長調 Allegretto grazioso:「3つの性格的な連弾曲」の第1曲。Pによるスタッカートの明るく軽妙な旋律が,いかにも小さな子供の楽しい「おしゃべり」のよう。Sが滑らかな旋律を弾く箇所では,Pはやはりスタッカートによる「合いの手」を入れる。(3'15")[S:3/P:3]
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モシュコフスキ Moszkowsky,Moritz (1854~1925) ポーランド
ワルツ集 Op.8(全5曲)
Walzer[1875]
連弾(オリジナル) =Peters

★全5曲がワルツでありながら,各曲の曲想は極めて変化に富む。明かるさの中にも,あちらこちらから甘美な憂愁が浮かび上がり,初期の作品ながらいかにもモシュコフスキらしい魅力を備えている。

[1]イ長調 Allegro moderato:4手による幅広い和音の,輝かしく堂々として祝祭的な響きで始まる。対照的に中間部の旋律は柔和で優美。[2'30"](S:2/P:3)

[2]イ短調 Pesante e lugubre:Pの左手とSの右手により,オクターヴ離れたユニゾンで弾かれる憂愁に沈んだワルツが3回登場する。このワルツの旋律は半音階的に下降するもので,3回はそれぞれf,mp,ppと指示され,それらの適切な表現が肝要。その間に挟まれて2度,より感傷的なワルツが奏されるが,ここではSの右手による,やはり半音階的に下降する対旋律が印象的。両者ともに弱音の精妙なコントロールが要求される。[2'20"](S:2/P:2)

[3]ホ長調 Allegro grazioso:Pが弾き出す軽妙な旋律を,1小節遅れてSが追い掛けるカノンによるワルツ。こうした技法によりながらも曲想はあくまで優美で洗練されていて,モシュコフスキの優れた作曲技法を示す好例。中間部の旋律の民族的な色合いも味わい深い。Pの両手はオクターヴ離れたユニゾンの動きが多く,左手にも素早い動きが要求される。[3'00"](S:3/P:4)

[4]ト長調 Vivace assai:活力に満ちた華麗なワルツ。主部のワルツの3拍目のアクセントが,一層活気を増す。[2'00"](S:1/P:3)

[5]ニ長調 Pomposo ed energico,ma non troppo allrgro:4小節のファンファーレに,Sの厚い和音上のPによる直線的に屈折した儀式張った旋律が続く。流れるように優美で柔和なヘ長調の中間部を持ち,Sのトレモロで堂々と全曲を締めくくる。Pは両手のオクターヴ離れたユニゾンの動きが多く,重音を多く含むので,左手にも器用さが必要。[3'00"](S:3/P:4)
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3つの小品 Op.11(全3曲)
Drei stücke[1876]
連弾(オリジナル) =Hainauer

★3曲とも異なる舞曲のリズムを持ち,連弾作品としては「ワルツ集 Op.8」と有名な「スペイン舞曲集 Op.12」の間に位置するが,それら2作と比べ,やや大掛かりで技術的にも難しく,凝った作風を示す。

[1]ポロネーズ Polonaise 変ホ長調 Brioso ed energico:Sによる伴奏はオクターヴのバスと厚い和音が多用されて力強く進行し,Pの旋律はオクターヴ離れたユニゾンによって活力と迫力に満ちている。ロ長調のトリオではバスや和音の動きも,そしてリズムも凝ったもので,華麗な演奏効果を発揮する力作。[4'30"](S:3/P:4)

[2]ワルツ Walzer ハ長調 Allegro grazioso:調性や曲想が異なる3つに区分されるワルツが続いた後,はじめの部分が再現されコーダが付されて終わる。前曲とは対照的に,薄く繊細な響きで,旋律も和声も極めてロマンティックで洒落ており,遠い過去を静かに回想するかのようなワルツが多く表れる。[6'20"](S:2/P:3)

[3]ハンガリー舞曲 Ungarischer Tanz ロ短調 Allegro con fuoco:Sによる伴奏の力強いリズム上に,Pが旋回するような急速な旋律を奏する,典型的なチャールダーシュ。[2'30"](S:3/P:4)
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4つの連弾小品 Op.33(全4曲)
Vier vielhändige Klavierstücke[1883]
連弾(オリジナル) =Hainauer

★シューマンの「12の連弾小品 Op.85」と同じく,行進曲が1曲目に置かれるが,シューマンとは違い,2曲目以降が急激に難しくなる。これほど難易度の異なる作品群を曲集としてまとめた例も珍しい。

[1]子供の行進曲 Kindermarsch へ長調 Allegro:元気一杯で,また可愛らしい曲想が微笑ましく,PとSとの頻繁なリズム的応答が楽しい作品。曲集中,この曲のPにはオクターヴの和音が皆無(Sにはわずかにある)なのは,「子供の小さな手」が意識されているためであろう。[3'10"](S:2/P:2)

[2]フモレスケ Humoreske 二長調 Allegretto:おもにSによる伴奏部分のリズムのオスティナートが特徴で,Pによる旋律は伸びやかで明朗なもの。 con grazia からcon fuoco,pからff,スタッカートからレガートといった大きな振幅の表情の変化がユーモラス。[3'10"](S:3/P:4)

[3]タランテッラ Tarantelle ト短調 Allegro molto:ヴィルトゥオーゾ的で活気に満ち,Sも伴奏の和音を弾くだけでなく,対旋律を弾く機会も多い。ト長調の快活な中間部の後半ではffで豪快に盛り上がる。[4'30"](S:3/P:4)

[4]紡ぎ歌 Spinnerlied イ長調 Vivo:Pによる和音の上の音を繋げた軽快な旋律は,両手に分けて続けられるために,メロディ音とそれ以外の音のバランスも,旋律の自然で流暢な繋がりも非常に難しい。Sは無窮動的な16分音符の連続に終始する。スリリングなヴィルトゥオーゾ的難曲でありながら,その表情は優美と洗練の極み。[3'20"](S:4/P:5)
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組曲 第1番 Op.39(全5曲)
Première suite[1886刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編) =Hainauer

★美しく極めてピアニスティックな響きと管弦楽的な多彩さを併せ持つが,各曲が長く(特に1曲目は実質26ページで「ワルツ集 Op.8」全曲のページ数と同じ),連弾曲として効果的,印象的に聴かせる演出が難しい。優れたデュオによる「発掘」を待ち続ける「隠れた名曲」と言える。 IMSLPの「2台ピアノ用編曲」の表記は「連弾用編曲」の誤り。ミスブリントも散見されるが,IMSLPにはスコアもあり対照できる。

[1]へ長調 Allegro molto e brioso:全編が心地好い前進感に満ち,快活で力強い第1主題と流麗で極めてロマンティックな二長調の主題の対照が素晴らしい。波が寄せ返すようなゼクエンツ(反復進行)がロマンティックな陶酔感を高める。[9'00"](S:3/P:4)

[2]二短調 Allegro giojoso:2拍子の軽快なリズムの伴奏上に,スタッカートと半音階的進行を多用した繊細な旋律が奏される。一部に両者の手の交差もあり,Sは伴奏だけでなく歌謡的で息の長い旋律も担当する。"giojoso" は見慣れない発想標語(スコアも同じ)だが,"gioioso "の誤り?[6'10"](S:3/P:4)

[3]主題と変奏曲 Tema con variationi イ長調 Andante:原曲では木管群と弦楽器群によって開始される主題は,穏やかで粘性に富み,8つの変奏に続く。各変奏はテンポも性格も異なり,なかでもイ短調の第5変奏は「ハンガリー風 All'ongarese」と書かれ,劇的で躍動的なチャールダーシュであるのが,いかにも異国趣味の音楽を得意としたモシュコフスキらしい。続くへ長調の第6変奏は大きく性格を変え,「ノクターン」あるいは「ロマンス」といった風情となり,最後の第8変奏では回帰した主題が対位法的に一層豊かに処理され,しみじみと歌われて静かに終わる。[11'50"](S:3/P:4)

[4]間奏曲 Intermezzo イ長調 Allegretto con moto:主部は優雅な3拍子の宮廷舞曲のステップを思わせる。イ短調の中間部ではシンコベーションの和音上に感傷的な旋律が歌われてセレナードの趣。ここではSが多く旋律を担う。[5'30"](S:2/P:3)

[5]無窮動 Perpetuum mobile へ長調 Vivace:タイトル通り,ヴィルトゥオーゾ的なスピード感が特徴の軽快無比の爽快な作品。4手とも素早く軽快で精密な動きが要求される。[5'45"](S:4/P:5)
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2つの小品(行列とガヴォット)Op.43(全2曲)
Deux morçeaux(Cortège et Gavotte)[1887]
連弾(オリジナル) =Peters

★2曲とも短調を基調とし,極めてピアニスティックであると同時に色彩的だが,寒色系の色合いが強い。演奏される機会は少ないが,まとまりが良く迫力に富む充実した傑作。「行列」には自身によるオーケストラ版もある。

[1]行列 Cortège イ短調 Allegro ma non troppo:スタッカートや連打音,半音階的進行の多用が冷たい感触を際立たせる一方,練習記号Cの少し前から滑らかな旋律が現れ,トレモロを伴って熱く盛り上がる辺りはヴァーグナーを連想させる。2つの主題の雰囲気の対照が実に見事で効果的。[5'15"Prime;](S:3/P:3)

[2]ガヴォット Gavotte イ短調 Moderato:スタッカートを多用した旋律は,冷たく取り澄ました表情だが,高音域の音が少なく,中・低音域での動きが多いので落ち着いた響きを持つ。イ長調の中間部ではSのオルゲルプンクト上に,Pが歌謡的な息の長い旋律を奏する。[4'50"](S:3/P:3)
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たいまつの踊り Op.51
Fackeltanz[1893刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編) =Peters

★変ホ長調 Allegro molto moderato:Sによるバスも,Pの旋律もオクターヴの重複が多く,堂々とした響きの力強い舞曲で,そのリズムはポロネーズに似る。しかし細かな動きを持つ繊細な主題も多く,Sの左手からPの右手へと4手で弾き継ぐ旋律や,Sによる旋律もあり,PとSとの連携が巧妙なため,連弾作品として両者ともに弾いて楽しめる。コーダではSの左手によるトレモロを加え,華やかに,そして豪壮に終わる。[6'10"](S:3/P:4)
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万華鏡 Op.74(全7曲)
Kaleidoskop[1904]
連弾(オリジナル)=Peters

★内省的で真摯な曲想,多彩でありながら繊細な響き,そして豊かな幻想に満ちた内容の濃い傑作。各曲はまったく異なる気分を持ち,それらの対照も素晴らしく,PとSとの連携も極めて緊密な魅力的な小品集。「ピアノ連弾のための細密画」のサブタイトルを持つ。

[1]変ホ長調 Molto Allegro e con fuoco:Pによる滑らかに上昇して曲線を描く旋律は,やはりSによる旋律的な動きの伴奏に支えられる。中間部の旋律は連打音が特徴だが,主部に戻る箇所のスケール豊かな広がりは比類がない。熱気に溢れて盛り上がり,堂々と曲を閉じる。[1'30"](S:3/P:4)

[2]ト短調 Presto:Sによる軽快な伴奏に乗って,アルペッジョで下降するPによる繊細な旋律は「木の葉の舞い」を連想させる。[1'10"](S:3/P:4)

[3]二長調 Andante:「ロマンス」風の豊かな抒情と幻想に満ち,「『スペイン舞曲集』の作曲家」のイメージを一新する傑作。すべての声部が「歌」による対位法的な作品だけに,表情豊かに滑らかに弾き切るのは至難。[2'30"](S:3/P:4)

[4]嬰へ短調 Allegro moderato e grazioso:憂愁を含んだ旋律を持ち,短調と長調の間を微妙に移ろう。ボレロのリズムが明瞭となった後にSのソロが置かれる。嬰へ長調に転調するが消え去るように終わる。[3'00"](S:3/P:4)

[5]口長調 Allegro con spirito:連打音を多く含む,スタッカートによる軽快な旋律を持つ。[2'20"](S:3/P:4)

[6]ホ短調 Mesto:単なる感傷を越える悲痛なマズルカ。反復が多く,飽きさせない演奏には演出上の工夫が必要。[3'15"](S:3/P:4)

[7]イ長調 Tempo di Valse:優美を極めたワルツ。凝った転調やリズムの変化が興味深い。[2'20"](S:3/P:4)
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先生と生徒 Op.96(全8曲)
Le maître et l'élève[1920]
(オリジナル) =Enoch

★S(生徒)は,全曲で固定された一つのポジションの5つの音のみでバスを弾く教育的作品で,その動きはオクターヴ離れたユニゾンか,片手のみに限られる。一方P(先生)にはペダル指示があり,旋律とほとんどの曲で多声的な動きによる伴奏部を弾く。Sの音だけからは想像を越えるほど充実した魅力的な小品集となっている。

[1]前口上 Prologue:ハ長調 Allegro brioso:Sはいかにも「指の練習」的な音の動きで始まる。明朗な曲想の堂々とした響きの小品。[1'45"](S:1/P:3)

[2]楽興の時 Momento musical ハ短調 Molto Moderato:哀しく,また優しい歌。Pは3声の動きがかなり複雑。[1'20"](S:1/P:3)

[3]メロディ Mélodie 変ホ長調 Allegro Moderato:シューマン風の優しく繊細な抒情に満ちている。[1'45"](S:1/P:3)

[4]舞踏曲 Air de ballet 卜短調 Andante con moto:きびきびとした動きの主部とト長調の優美な中間部を持つ。[1'40"](S:1/P:3)

[5]アラベスク Arabesque 変口長調 Allegretto animato: 軽快なリズムの優雅な動き。16分休符で区切られる旋律は,宙を舞い飛ぶ感がある。[2'00"](S:1/P:3)

[6]子守歌 Berceuse 二長調 Andante:シンプルなバス上に,重音による柔らかな響きの旋律が歌われる。微妙な転調が魅力的。[2'15"](S:1/P:4)

[7]ワルツ Valse イ長調 Tempo Moderato:ゆったりとしたテンポの優雅なワルツ。薄明りの中に次第に消え去るかようなコーダが印象深い。[2'00"](S:1/P:3)

[8]タランテッラ Tarantella ハ長調 Molto vivace:力強く快活に進行する。曲集中,最もテンポが速いがPの伴奏は最も単純。[1'00"](S:1/P:3)
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