【連弾ネット】松永晴紀著:「ピアノ・デュオ作品事典」補遺
カリヴォダ Kalliwoda,Johann Wenzel(1801~66)ボヘミア
交響曲 第1番 Op.7(4楽章)
Première symphonie[1826刊]
連弾(C.Czerny編)=Peters

★原曲は1825年にプラハで初演され,好評を博したカリヴォダの出世作で,特に旋律が魅力的。真摯な内容でありながらも親しみやすく,PとSとの対話や掛合いの機会も多く,連弾作品としても極めて効果的。なお,チェルニーはカリヴォダの交響曲の第4番までを連弾用に編曲している。

[第1楽章]へ短調 Largo-Allegro:Sによる音階的な上昇,Pによる下降という対立するモティーフで,緊張をはらんで静かに始まり,激しい付点リズムが落ち着くと,主部に入ってPのソロによる第1主題が登場する。この主題は序奏部の冒頭の音階的な上昇と下降の動きに,リズム的に巧妙な工夫を加えたもので,当時,将来を嘱望された初期のカリヴォダの創意がうかがえる。歌謡的な第2主題が,対位法的な伴奏から,より器楽的な伴奏への移行も,そして再現部での微妙な変化も印象的。(7'15")[S:4/P:4]

[第2楽章]変ニ長調 Adagio:タイトルはないが,その際立ってチャーミングな旋律は「ロマンス」にふさわしい。4手とも「歌」に満ちて始まり,PとSが楽しく,そして親密な,またある時は劇的な対話を繰り広げる。(9'40")[S:3/P:3]

[第3楽章]メヌエット Menuetto ヘ短調 Allegro:主部はPとSの力強いカノン。強弱の変化が急激で,悲痛な曲想。変イ長調のトリオは優美。(4'00")[S:2/P:3]

[第4楽章]終曲 Finale ヘ短調 Allegro molto:力強く,また悲愴な序奏部から第1主題と,表情豊かで穏やかな第2主題(4手ともに旋律を弾き弦楽合奏風)を持つ。長・短調間を頻繁に行き来し,第1主題のモティーフが重厚なカノンで登場する展開部を経て,第2主題の再現の後,第1主題が弱音で遠い思い出のように短く回想されると,あたかも現実に戻ったかのように,ヘ短調で疾走して終わる。(5'30")[S:3/P:3]
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ワルツ集 Op.27,169(全2曲)
Walzer[1858刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★どちらも快活で親しみやすく楽しい旋律が続く。Sはほとんど伴奏を担当し,反復部分が多くリズムもシンプルなだけに,気楽に弾いて楽しめる利点はある半面,冗長感は否めない。このペータース版は1959年ころまで出版されていたためか,ほかに格段に優れた作品があるにもかかわらず,A.ローリー(Rowley),ガンツェ&クシェ(Ganze, Kusche)の著作では,この作品のみが紹介されており,それがカリヴォダの連弾作品の正当な評価に繋がったかは疑問。

[1]ハ長調 Allegro con brio:華やかで力強い序奏の後,32小節目から登場する上昇する旋律には心も弾む。途中,幾度も現れるファンファーレ風の音型も華やかさに彩りを添える。(10'00")[S:2/P:3]

[2]ト長調 Vivace:前作と同傾向だが,より多彩で変化に富むため,冗長感は少なく,大いに楽しんで弾ける。(7'15")[S:2/P:3]
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喜遊曲 Op.28
Divertissement[1831刊]
連弾(オリジナル)=Breitkopf

★ヘ長調,6/8拍子,Andante の歌謡的な序奏で始まる。これは26小節と短いが,伸びやかな旋律を持ち,PとSの対話,Sによる多様な伴奏型,短調への転調,と極めて充実した内容を備えている。そして3/4拍子, Allegrettoの8+8小節の主題が登場し,5つの変奏とコーダヘと続く。変奏は実に華麗で快活,しかもSが主役となる第2変奏,ポロネーズの第3変奏,ニ短調の第4変奏といずれの変奏も変化に富み,両者の掛合いも実に楽しい。テンポの速まる快活なコーダで,絢爛豪華な終りを迎える。主題と変奏のほとんどが,前・後半とも反復される。(8'40")[S:4/P:4]
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序曲 第2番 Op.44
Seconde Ouverture[1843頃刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編)=Peters

★ヘ長調 Allegro vivace:SがPの両手の間で旋律を弾く,歌謡的な Poco Adagio の序奏に続き,Sの両手とPの左手による軽快な伴奏の上に,Pの右手による陽気で躍動的な第1主題が奏される。対照的に第2主題は,まさに「歌のような」旋律。Sは伴奏中心で,いかにも原曲が管弦楽曲らしく,トレモロや連打和音が多い。深遠な精神性などとは無縁だが,シンプルで愉快な作品で,いずれの旋律も心地好く魅力的であり,リズムも快調に進行する。伴奏の音が厚いので,リズムや響きが重くならないように注意する必要がある。(8'30")[S:3/P:3]
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アレグロ Op.162
Allegro[1851刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★ニ長調 Allegro risvegliato:「ワルツ Op.27」の4拍子版とも言える内容。精力的で楽しい期待感に満ちた序奏の後,まさに次から次へと快活で華やかな旋律が繰り出される。PとSとの掛合いや,Sが旋律を弾く機会も多く,楽しく弾ける連弾曲を作曲する手際の良さや,第2主題の再現部での転調やフレーズが反復される際の微細な変化といった誠実な姿勢に貫かれた職人業,生き生きとした心地好い旋律を産み出す能力には感心するが,楽しさと華やかさ満載の「娯楽的作品」としての長所が,同時に短所にも通じている。かなり長い作品にもかかわらず,全曲が同質な楽しさと華やかさに満ち過ぎていて,変化に乏しい印象を受ける。その理由の一端として,数多くの主要主題と副次的な主題に短調のものが無く,一時的に短調に転調しても,すぐに長調に戻る点と,新たな主題を導く経過句の部分で,わずか2小節間,Pがソロとなるだけで,それ以外の小節は常に4手が音を出し続けているために響きの変化が少ない点が挙げられる。(9'15")[S:4/P:4]
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大ソナタ Op.135(4楽章)
Grande Sonate[1846刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★「ト短調」という調性のためもあろうが,全曲が極めて激しい熱気に満ち,しかも切迫した焦燥感だけではなく,憧憬や敬虔さをも含む,深い感情の広がりを持つ。また豊かな幻想にも満ちた,充実した内容を持つロマン派の大ソナタ。交響曲の編曲を想わせるほど多彩な響きでありながら,極めてピアニスティックで華麗。PとSとの掛合いや,Sが旋律を弾く機会も多い。なお,この作品とOp.203,0p.227-2はウニヴェルザール版[1910刊]に所収されている。

[第1楽章]ト短調 Allegro non troppo:暗く激しい情熱と力強い迫力,推進感に満ちている。提示部の反復はなく,展開部では第1主題が十分に展開され,再現部では第2主題が先に登場し,緊迫したフガートによる第1主題へと続く。コーダでテンポを速めて燃えるように高まって終わる。パッセージ的な進行も多いが,第1,第2主題は密接に関連しており,構成的にも堅固でまとまりも良い。(9'00")[S:4/P:4]

[第2楽章]スケルツォ Scherzo ト長調 Allegro:対位法的な処理が目立つ楽章。PとSによる,精力的で活発な旋律のカノンで始まり,ト長調の軽妙で歌謡的な部分と交互に置かれる。2度目のカノンはS自身によるもので,Pによる新たな旋律を加えて展開される。(3'30")[S:3/P:3]

[第3楽章]ゆるやかに荘厳に Adagio maestoso 変ホ長調 Tempo di marcia:Sによって弾き出され,すぐにPが参加する心地好い旋律は格調高く,宗数的な気高ささえ漂う。その後,次々に現れる旋律は変化に富み,雰囲気も多様で飽きさせないが,練習番号4からの印象的なカノンの主題は,シューマンによる同時代の作品でデュオ愛好者にはお馴染みの「ベダル・ピアノのための(カノン形式による)練習曲 Op.56」(1845作)の第6番のものと酷似していて,特に興味深い。次の楽章に続く。(5'00")[S:2/P:3]

[第4楽章]終曲 Finale ト短調 Allegro assai:焦燥感に駆られて疾走するような第1主題と,息の長い伸びやかな旋律の第2主題を持つソナタ形式の楽章。ト短調のままテンポを速めて緊迫の度を増し,ピカルディ終止で終る。Sも伴奏ばかりでなく,左手で旋律を弾く箇所もある。(5'30")[S:4/P:4]
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喜遊曲 Op.203
Divertissement[1855刊]
連弾(オリジナル)=Peters

★ト短調,6/8拍子,Allegro appasionato の極めて感傷的な舟歌風の序奏部で始まり,ト長調,3/4拍子,Allegretto grazioso のレントラー風の主題,4つの変奏,コーダが続く。第1,第2変奏は生き生きとして実にきらびやか。ホ短調の第3変奏はかなり長く,第4変奏はト長調で軽快なポルカ風。「お気楽」な曲想とは裏腹に,コーダは徐々に音価が細かくなり,特にPは速いテンポでは技術的に難しい。華麗で楽しい作品には違いないが,同じフレーズの反復が多く,「彼の曲の多くは,流行の小ぎれいなだけのものを求める声に屈した,大衆音楽の部類」(「ニューグローヴ世界音楽大事典」より)という辛辣なコメントにもうなずける内容。(9'45")[S:3/P:4]
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祝典行進曲 Op.227-1
Festmarsch[1859刊?]
連弾(オリジナル)=?(Universal)

★ホ長調 Allegro con fuoco:全体的に音が厚く,楽しさいっぱいの明快で華やかな行進曲だが,決して武張った堅さ一辺倒ではなく,柔らかな弱音やロマンティックな和声の箇所も多く,なによりも数多くのPとSとの掛合いが楽しい。リズミカルなコーダ(Sに短いが心地好い対旋律が用意されている)を経て力強く終わる。前半に反復が多いものの作品そのものがコンパクトで,まとまりも良い。(4'40")[S:3/P:3]
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カルク=エーレルト Karg-Elert,Sigfrid(1877~1933)ドイツ
ワルツ=カプリス集 Op.16(全3曲)
WalzerーCapricen[1899頃]
連弾(オリジナル)=Friedrich Hofmeister

★3曲ともリズムや強弱,曲想の変化や転調が大胆で気紛れな要素が強く,まさに「カプリス」のタイトルにふさわしい。音が厚く,後期ロマン派風の濃厚な抒情に満ちて,色彩感豊かでピアニスティック。S も伴奏を担当するだけでなく旋律を担う機会が多い。

[1]ホ長調 Ruhig,behaglich:曲集中,最もロマンティックで明朗な曲想で親しみやすい。アンコール・ピースにも好適。(2'15")[S:3/P:3]

[2]変ロ長調 Missig rasch,sehr straff im Rhytmus:リズムや旋律,そして当然曲想も「硬」と「軟」の大きな振幅の間を揺れ,動く。(2'20")[S:4/P:4]

[3]嬰ハ短調-嬰ハ長調 Sehr lebendig und ungestüm:鬱屈した怒り,遥かな憧憬,絶望的な焦燥,甘美な思い出,陶酔的な激情といった多彩な要素が巧妙にまとめられたスケール豊かでピアニスティックな作品。P 自身の手の交差が多く,最後はPとSが手を交差させて輝かしいクライマックスに突き進む。(3'10")[S:4/P:4]
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キール Kiel, Friedrich (1821~85) ドイツ
フモレスケ集 Op.42(全4曲)
Humoresken[1865]
連弾(オリジナル)=出版情報:Walter Wollenweber(IMSLP無し)

★いかにもドイツ・ロマン派らしい親しみやすくロマンティックな曲想を持つ。連弾曲として極めて効果的に作曲され,1曲だけを取り出しても楽しめる上に,全4曲の構成も絶妙な変化と対照を示す。

[1]へ長調 Allegro ma non troppo:優雅で明朗な曲想だが,リズムが面白く,鶏の鳴き声のような旋律はユーモラス。Sはおもに伴奏を担当。(2'45")[S:2/P:3]

[2]イ短調 Andante con moto:全く感傷的ではなく,その歩みは着実で力強い。PとSのカノン風の動きも面白く,両者のリズム的な連携が緊密。(1'40")[S:3/P:3]

[3]イ長調 Andante:みずみずしい田園詩のような,のどかな旋律を持つ愛らしい作品。PとSとによる10度離れた音程の響きが魅力的。(1'30")[S:3/P:3]

[4]ニ短調 Allegro agitato:主部はリズミカルで軽快,活発な民俗舞曲風。変ロ長調の明朗な中間部は,雄大な山々にホルンの音が鳴り渡るかのよう。(3'15")[S:4/P:4]
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ワルツ集 Op.47(全10曲)
Walzer[1866]
連弾(オリジナル)=Simrock

★各曲が見開き1ページに収まる,短く変化に富むワルツ集。 P.3.4,つまり1曲目のPと2曲目のSのパートが欠落しているのは,作品が決して難しくない上に極めて魅力的なだけに誠に残念。10曲目以外は前半や後半,あるいは両方の反復が多く,各曲は独立してはいるが,本来は全曲の連続演奏が意図されており,その10曲目の最後は正格終止したのち,ワルツ1・2を反復する指示がある。

[3]ホ長調 Allegretto:Sの子守歌のような優しいリズムの伴奏に乗って,穏やかに始まるが,途中には大きな感情の動きがある。(0'40")[S:1/P:2]

[4]嬰ハ短調 Risoluto:激情に満ちてリズムや調性も頻繁に変化する。後半はPとSとの二重対位法。中間の反復の箇所で,SにPと同様の1拍分の小節(休符)を補う必要がある。次のワルツに続く。(1'25")[S:3/P:3]

[5]ホ長調 Più animato:Pは簡素で短いフレーズを反復するが,その都度,微妙な変化が加えられている。PとSとで反復の小節の相違に注意。(0'40")[S:1/P:2]

[6]卜長調 Allegro:Sは音が厚いが,軽快な運動性と輝かしさが特徴的。(1'10")[S:3/P:3]

[7]ハ短調 Maestoso:スフォルツァートやアクセント記号が多用され,力感に満ちて進行する。過度に厚い和音やオクターヴの進行の連続ではないが,輝かしく豪快に響く。(1'05")[S:2/P:2]

[8]Allegretto e animato:変イ長調で始まり変ニ長調で終わるが,途中の頻繁な転調が実に効果的。非常にロマンティック。(1'40")[S:2/P:3]

[9]嬰へ短調 Moderato:憂いと悲しみに沈む。減七の和音が悲痛。(1'40")[S:1/P:2]

[10]ニ長調:対位法的な書法による作品で,P・S間のカノンが見られる。静かで落ち着いた曲想で,強弱の変化が繊細に指示され,深い情緒に満ちている。(1'05")[S:2/P:3]
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レントラー集 1,2集 Op.66(全2曲)
Ländler Heft 1,2[1876刊]
連弾(オリジナル)=出版情報:Dohr(スコア形式)(IMSLP無し)

★楽譜の序文によるとヴィオラとピアノのための作品が原曲とのこと。そのためかPとSとの掛合いや役割の交替の機会が多い。1集と2集の様相はかなり異なっていて,1集は7曲の「レントラー」によって構成され,それらの1曲を取り出しても演奏可能だが,本来はまとめて演奏されるように意図されている。ピアニスティックな演奏効果も高く,曲想はロマンティックだが,単に素朴で気軽な民俗舞曲集ではなく,各曲の個性は際立っており,曲集としての内容も豊富でスケール豊かな作品に仕上がっている。1集は便宜上,各曲毎に解説を加えた。2集は1集と比べると各曲の独立性は弱く(拍子記号が最初のみにある),曲想も穏健な「レントラー」が多い。

<1集>

[1]嬰ハ短調 Allegro:深刻で悲劇的な物語風の序奏。「舞曲」が始まっても晴れやかな時間は短い。(1'30")[S:3/P:3]

[2]イ長調 Allegretto:中・低音域の3つの旋律のカノンによる「歌」に満ちた作品。特に後半は回顧的でとてもロマンティック。(1'20")[S:2/P:2]

[3]ホ長調 L'istesso tempo:3度重音で上昇する旋律。明るく軽快。(1'00")[S:3/P:3]

[4]ハ長調 Moderato:Pによる旋律のリズムは軽快だが,pesante(重く)の指示がある。Sの右手による雄弁な対旋律が特徴。(1'15")[S:2/P:2]

[5]へ短調 Agitato:行きつ戻りつする憂鬱なフレーズが反復される。手元の楽譜では,Sの右手は119小節(この曲のはじめ)~127小節の1拍目までト音譜表だが,へ音譜表の誤り。(0'40")[S:4/P:4]

[6]変ニ長調 Allegretto:弱音主体の,いかにも「レントラー」風の可憐な作品。(1'30")[S:2/P:2]

[7]嬰ハ短調 Tempo I:前半は[1]の再現。嬰ハ短調に移調された[5]に続き,次第にテンポを速めて大きく盛り上がり,決然と終わる。(1'10")[S:4/P:4]

<2集>

★ニ長調,Allegro risoluto の厚い和音を使った,堂々とした輝かしい序奏で始まり,多くは可憐な,またある時は哀愁を帯びた舞曲が続き,間奏曲風の謎めいた舞曲の後に再び冒頭の序奏と舞曲が登場し,華やかに盛り上がって終わる。各部の反復が多く,反復を除くと演奏時間はほぼ半分に短縮できる。(7'15")[S:4/P:4]
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若者のための10の連弾小品 1,2集 Op.74(全10曲)
Zehn vierhindige Klavierstücke für die Jugent Heft 1,2
連弾(オリジナル)= Bote & Bock

★全10曲ともP=生徒,S=先生と役割が決められており,Pは旋律を担当。1集(7曲)の大部分で,Pは両手がオクターヴ離れたユニゾンによるもので,1曲目は固定されたポジション群の5つの音による極めて易しい作品。そのPの運指も3曲目までで,「連弾小品集」のタイトル通り,初心者向けの漸進的な教則本の性格を持つものではない。2集(3曲)は中級程度の難度となり,完全にロマン派の性格的小品集。

[1]ハ長調 Poco Allegro:明朗な曲想でイ短調の中間部を持つ。前後の部分の微妙な変化が好ましい。(0'40")[S:1/P:1]

[2]へ長調 Allegretto:流れるような旋律を持ち,短調への転調が作品の陰影を増している。頻繁なポジションの移動に対し,運指は親切とは言いがたい。(1'00")[S:1/P:1]

[3]イ短調 Allegretto con moto:活動的な舞曲風。イ長調の滑らかな動きの中間部を持つ。運指は2箇所のみ。Pは左手を軽快に弾くのが難しい。(2'05")[S:2/P:2]

[4]カノン Canon ホ短調 Andante con moto:落ち着いた主題だが,リズムも旋律の動きも1集中では難しい作品。(1'05")[S:2/P:S]

[5]賛歌 Hymne ホ長調 Moderato:Pは終り近くに両手ともに和音奏がある。滑らかな旋律で響きは雄大。(0'50")[S:2/P:1]

[6]レントラー Ländler 卜長調:ロマン派の小品らしいロマンティックな風情がある。中間部の転調が魅力的。(2'00")[S:2/P:1]

[7]ロマンス Romanze ハ短調 Andante:濃厚な情緒をたたえた作品。この作品からPの両手はユニゾンの動きから離れ,独立して動く。特にSの音は厚く,両手の重音での進行が初心者には難しい。(2'50")[S:3/P:3]

[8]変ロ長調 Allegretto scherzando:躍動的で快活な民俗舞曲風。Pの左手の装飾音や手の交差,中間部のリズムは初心者には難しい。(2'10")[S:3/P:3]

[9]ト長調 Andante sostenuto:Pは両手とも和音の連続。祝祭的で堂々として輝かしい。(2'25")[S:3/P:3]

[10]タランテッラ Tarantelle 卜短調 Presto:Pの両手はほとんどユニゾンの動きで一気呵成に疾走する。Sの内声の下降する動きに特徴があり,幻想的な雰囲気に満ちた魅力に富む作品。(1'30")[S:3/P:3]
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クラーマー Cramer, Johann Baptist (1771~1858) ドイツ
大ソナタ Op.33(3楽章)
Grande Sonate[1815刊]
連弾(オリジナル)=Breitkopf & Härtel

★作品番号はマグロー(McGraw)による。クラーマーの連弾ソナタのマグロー評は,「無味乾燥で明確な表現法の個性に欠ける」とあるが,少なくともこの作品に関してはそれが正当な評価であろうか。第1,3楽章の「ピアノによるコロラトゥーラ」とでも呼びたいほどの,華やがで技巧的なパッセージ,第2楽章の,あくまで古典的な明晰さを保ちながらもコンチェルタンテな名技性を発揮する変奏は,クラーマーの魅力的な特質ではながろうか。容易に楽譜に接することができるようになった今,一部なりとも試奏してぜひその真価を見極めて欲しい。

[第1楽章]ト長調 Allegro spiritoso:歓喜のあまり走り出すような快活な第1主題と落ち着いて歌謡的な第2主題を持つ。両主題ともに装飾音が多く,特にあちこちにちりばめられたターンは,極めて華麗で優美な演奏効果を高めている。4手ともに素早く軽快なタッチが要求される。展開部のはじめに反復記号があり,曲尾にこれと対応する記号がないが,版刻時のミスではなく当時の記譜習慣かも知れない。演奏時間はこの記号を補って前・後半ともに反復した場合で,一般的な提示部のみの反復では約10分。(14'30")[S:5/P:5]

[第2楽章]アンダンテと変奏 Andante con variazioni ハ長調 Grazioso:愛らしい主題に8つの変奏が続く。第2変奏は互いにソロを弾き合い,第5変奏では主役と脇役の立場が交替する。第6変奏は「コラール」と題され完全な四声体で書かれているが,全変奏とも単純な伴奏型は見られず,見事な対位法的処理が光る。楽譜には疑問の箇所もあり,特に第5,6変奏あたりの反復記号は疑問。第8変奏のP,S同時のトレモロや第5変奏のSの響きには特に注意が必要。(9'45")[S:5/P:5]

[第3楽章]ロンド Rondo 卜長調 Vivace:楽しさ一杯の主題やクープレはP,Sともに16分音符の連続とスタッカートが多く,名技的で洗練されている。音が厚く,オーケストラ的な部分もあり,響きの透明度に注意が必要。(5'45")[S:5/P:5]
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大二重奏曲 Op.24(3楽章)
Grand Duet[?]
2台ピアノ(オリジナル)= Clementi, Banger, Hyde, Collard,& Davis,(I・II分冊)

★2台のピアノ,またはピアノとハープのための作品。残念ながら現在(2014.7) IMSLPにはIIのパートしかないため演奏不可能だが。モーツァルトの「ソナタ K.448」よりずっと易しく,その可愛らしく優美な曲想は弾いて楽しめるばかりでなく,教材としても最適なだけに誠に惜しい。以前,ニューヨークのガーランド社からの復刻版,"The London Pianoforte School"シリーズのXIX巻に所収されたこともあったが,IMSLPのファイルの方がより鮮明。ただしミスが多く読みにくい楽譜のため,ガーランド版の注記は極めて貴重。

[第1楽章]変ホ長調 Allegro:前・後半とも反復の場合。[11'20"](I:3/II:3)

[第2楽章]変ロ長調 Larghetto:[4'45"](I:3/II:3)

[第3楽章]ロンド Rondo 変ホ長調 Allegretto:[7'10"](I:2/II:2)
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クロンケ Kronke, Emil (1865~1938) ドイツ
小組曲 Op.73(全5曲)
Kleine Suite[1910刊]
2台ピアノ(オリジナル)=kistner

★いずれも親しみやすく,ロマンティックな曲想の初心者向きの楽しい小品集。2台のピアノ間での役割の交替や掛合いの機会も多いが,対旋律が魅力的,且つ効果的で全体が情緒豊かな「歌」に満ちており,特に2台ピアノの音が組合わさった豊かな響きを楽しむのに好適な作品。

[1]メロディ Melodie ト長調 Il tempo comodo, cantabile:タイトル通り,2台のピアノがおもに3度や6度離れた音程でロマンティックな旋律を弾くため,全体の響きは非常に豊麗となる。中間部のカノンも楽しい。(2'30")[I:3/II:3]

[2]ガヴォット Gavotte ホ短調 Il tempo comodo, ma preciso:主部は極めてロマンティック。中間部は軽快なアーティキュレーションで進行する。(1'45")[I:3/II:3]

[3]高貴なワルツ Valse noble ハ長調 Grazioso:優美なワルツ。対旋律が効果的。(1'50")[I:3/II:3]

[4]ゴンドラの船頭 Gondoliera ニ長調 Con moto lento:Iの主旋律もIIの対旋律も, いかにも「舟歌」らしく滑らかで穏やか。(2'25")[I:3/II:3]

[5]スケルツォ=カプリス Scherzo-Caprice 変ロ長調 Vivace, leggiero:スタッカートが多く,軽快で快活。中間部とコーダでのリズム的な掛合いが実に楽しい。(1'40")[I:3/II:3]
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グヴィ Gouvy, Louis Théodore(1819~98) フランス
ソナタ 第3番 Op.51(3楽章)
Troisieme Sonate[1868刊]
連弾(オリジナル)=S.Richault

★全楽章とも軽快な運動性に溢れ,加えて両端楽章は健康的な力強さと明るさに満ちている。マックグロウ(McGraw)の「無味乾燥で教育的な様式 dry instrudional style」の評には賛成できないが,「無味乾燥」が適訳ではないにしても,3曲の「ソナタ」中,濃厚なロマンや激しい感情のうねりとは最も縁が薄く,明晰な曲想はある意味,「古典的」でさえある。熟達した書法が駆使され,明るい音質と優れたテクニックを持つデュオにとっては,極めて効果的な作品と言える。ファイルの画質は良くないが,十分に解読可能。

[第1楽章]へ長調 Allegro con brio:終始,16分音符による軽快な動きに支配されており,この楽章が広く親しまれていたならば,「紡ぎ歌」というニックネームが付いたかも知れない。展開部での2つの主題の同時の使用と,PとSとの掛合いが面白い。Sは中~低音域での16分音符の動きが多いため,軽いタッチを要求されるが,音階的な素早い動きは少なく,トレモロが多いため技術的には難しくない。[8'30"](S:3/P:5)

[第2楽章]イ短調 Andantino xcherzoso:ソフト・ペダルが踏み通され,弱音とスタッカート中心でひっそりと進行し,素晴らしく優美な宮廷舞曲の趣がある。前後の楽章との対照も際立ち,アンコール・ピースとしても実に効果的で印象的な楽章。両者ともに,特にSには軽いタッチが要求される。[3'00"](S:3/P:4)

[第3楽章]へ長調 Allegro risoluto:第1主題はスタッカートを多用したメカニカルな動きを持ち,第2楽章の主題と関連が深く,後にフガート風に扱われる第2主題は第2楽章の主題と関連が深い。Sにも旋律的な動きが多く登場する。明晰さと力強さに満ちた,華麗で名技的な楽章。[5'45"](S:4/P:5)
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自作主題による変奏曲 Op.52
Varations sur un thème original[1869刊]
連弾(オリジナル)=S.Richault

★変ニ長調:主題と7つの変奏は,PとSとの連携が極めて緊密で,複雑・高度な性格変奏の連続ではないものの,各変奏は変化に富む。Sは伴奏を多く担当するが第4,7変奏では旋律的にもPと対等に活躍し,第6変奏では旋律的な主導権を持つ。Moderatoの主題はスタッカートが多用されたポツポツとした,しかし流れの穏やかな旋律を持ち,フレーズ構造は 4+4+6+6小節のユニークなもの。以後,第1,2変奏では流麗さを増し,軽快で優美な第3,力強い第4,可憐な第5,Pの伴奏が華やかな第6変奏と続く。長大な第7変奏は同一のリズムパターンが偏執的に反復されて雄大に盛り上がり,Pの短いカデンツァを経て主題の雰囲気が回想されて静かに終わる。全体的に明快でピアニスティック。[11'30"](S:4/P:4)
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フランスの歌による変奏曲 Op.57
Variations sur un air Français[1876刊]
連弾(オリジナル)=S.Richault

★ハ短調:前・後半それぞれ8小節(後半反復)による痛切な Moderato の主題は,四分音符の動きを中心とする落ち着いた歩みのもので,前半の途中での変ホ長調への転調が,主題に変化と深みを与える。第1変奏は和声がより複雑で豊かになり,伴奏の八分音符の動きにより流動性が増す。第2~7変奏は,偶数変奏のロマンティックな曲想が実に魅力的で,激烈,劇的で迫力に富む奇数変奏と見事な対照をなしている。ハ長調の第8変奏は軽快なリズムでさわやかに進行し,さまざまな長調を経て,既出の特徴的な伴奏型も織り込みながら,にぎやかに終わる。Sは伴奏を多く担うが,伴奏型は極めて多彩で,各変奏の調性やテンポが異なり,曲想の変化の振幅も大きい。[12'45"](S:4/P:4)
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6つの小品 Op.59(全6曲)
Six morceaux( ? )
連弾(オリジナル)=Alphonse Leduc

★全曲では演奏時間30分以上という大作だが,各曲は実に変化に富むうえ,輝かしい「前奏曲」で始まり,特徴的な曲を挟んで,優美な「主題と変奏」を経て明快な「ポロネーズ」で終わる構成は聴く者を飽きさせない。いずれも親しみやすい曲想を備えているので,1曲だけを取り出しても効果的。

[1]前奏曲 Pélude ハ長調 Allegro di molto:S,Pが交互に弾く素早いアルペッジョによる和音の響きの乗せて,複付点リズムを持つ旋律が,輝かしく壮快に歌わい交わされる。[3'15"](S:4/P:4)

[2]カプリス Caprice ホ長調 Allegretto:ユーモラスに,気紛れに動き回る軽快な旋律によるPとSとの戯れそのもので,両者間のリズム的な連携,旋律的な掛合いが極めて緊密。3つの部分で構成され,調性を変えて反復される。[6'15"](S:3/P:4)

[3]行進曲 Marche ハ長調 Allegro moderato:精力的で活気に満ちた曲想。全体的に音が厚く,音域も広く使われているため,響きも豊か。Sは伴奏を多く担うが,ドラムのロールが楽しい。ヘ長調のP自身による二重唱の旋律的なトリオを持つ。[5'20"](S:4/P:4)

[4]ムーア風舞曲 Danse mauresque イ短調 Allegro con brio:異国趣味の急速で活発な舞曲で,頻出する前打音がその趣を強める。Pの旋律は,両手とも連打を含む三度重音の動きがあり,軽快に弾くには優れたテクニックが必要。反復を要する長大な盛り上がりを経て,豪快に終わる。[4'502](S:4/P:5)

[5]主題と変奏 Thême varié イ長調 Andante com moto:平穏で優美な主題に3つの変奏が続き,コーダでは主題(イ長調から嬰ヘ長調への転調)と第1変奏が回想され,沈潜しつつ柔和な雰囲気で終わる。第2変奏までは曲想は次第に軽快,活発になり,Sは伴奏中心だが第3変奏ではSが旋律的な主役となる。3つの変奏は前・後半ともに反復され,全曲が優雅さに満ちている。[8'25"](S:3/P:3)

[6]ポロネーズ Polonaise ヘ長調 Allegro moderato:冒頭の軽快な主題は,PとSとのカノン風な掛合いによって,また別の主題はP自身による掛合いや模倣によって展開される。旋回するような音型が特徴的なトリオを含めて極めて明快で,華麗でピアニスティックなコーダを経て豪快に終わる。[5'00"](S:3/P:4)
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リリブルレロ イギリスの歌による2台のピアノのための変奏曲 Op.62
Lilli Bullèro Variations pour deux pianos sur un air anglais[1879刊]
2台ピアノ(オリジナル)=N.Gimrock(I・II分冊)

★変ト長調:古くはパーセルが「音楽のはしため 第2部」に「新しいアイルランドの調べ」として載せた旋律による。主題は基本的には前半の4小節と後半の8小節が,それぞれ反復されるもの。反復を利用して主題部ではIとIIが交互にソロで弾き,以降の変奏では互いの役割を交替する。そのためデュオとしての両者の音楽的,技術的な差異の発露の多寡が,誠に興味深い。反復が多いが,主題の親しみやすさ,各変奏の楽しさ,きらびやかな演奏効果によって冗長感は薄い。各変奏はテンポや拍子の変化が多く,特に18/8拍子の第2変奏での短いフレーズのカノン風の扱いや,第5変奏のリズム的な掛合いは弾いても聴いても実に楽しい。弾むようなリズムで快適に前進する第6変奏に続く,コーダに相当する華やかな第7変奏で終わる。[11'30"](I:4/II:4)
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行進曲 Op.63
Marche[1875]
台ピアノ(オリジナル)=Richault et Cie.

★変ホ長調 Allegro:生命力に満ち,明朗で華麗な行進曲。I・IIともにオクターヴが多用されるが,低音域の音は薄いので響きが明快で,旋律の心地好さと快適な前進感が際立つ。両者の急速なパッセージの掛合いが楽しく,技術的にはオクターヴや連打を含めて俊敏な動きが要求される。[8'10"](I:5/II:5)
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ソナタ Op.66(3楽章)
Sonate[1877]
2台ピアノ(オリジナル)=Richault et Cie.

★2台のピアノが対等に扱われ,ピアニスティックでスケール豊かな大作。重厚で熱気に満ちた第1楽章,ロマンティックな歌謡性に富む第2楽章,名技的で華麗な第3楽章と各楽章が特徴的で変化に富み,それらの対照も効果的。

[第1楽章]ニ短調 Largo maestoso - Allegro:序奏は重々しい和音と鋭い付点リズムが特徴的な,「いわくありげ」な幻想曲風で,主部の主要主題のモティーフを含んでいる。主部は嵐のような激しさと推進力に満ち,2台のピアノの役割が頻繁に交替する。展開部の前と,最後に序奏部が短く回想され,この楽章に深みと変化を増している。後のサン=サーンスに代表されるフランス風の明快さも感じられる。[10'10"](I:4/II:4)

[第2楽章]変ロ長調 Adagio cantabile:IIのソロにより,半音階的進行と転調が多用された歌謡性に富む旋律が弾き出され,Iのソロと交替する。中間部はややテンポが速まり,行進曲風の趣となる。2台のピアノ間のソロ,掛合い,協調が効果的に使われている。[7'00"](I:3/II:3)

[第3楽章]ニ長調 Allegro vivo:両者の短く軽快な応答の後に,無窮動的で華麗なパッセージが続く。第1楽章の特徴的なモティーフによる主題も登場し,両者が役割を交替しつつ活気に満ちて展開され,テンポを速めて大団円に向かって突進する。[4'55"](I:5/II:5)
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幻想曲 Op.69(3楽章)
Phantasie[1882刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Breitkopf & Härtel(I・II分冊)

★各楽章それぞれが,熱気と緊迫感,濃厚な抒情,軽快な運動性と特徴がある上にそれらの変化がバランスが良くまとまった,ロマン派の大曲。管弦楽版もあるが,デュオ作品としてピアニスティックな演奏効果も高い。IとIIの役割の交替も頻繁で,どちらにもソロの部分もあり,デュオの楽しさを満喫できる。

[第1楽章]ト短調 Grave - Allegro molto moderato:2台のピアノの応答による劇的で重々しい序奏に,トレモロが多用されて緊張感と迫力に満ちた主部が続く。主部では幅広い和音による重厚な主題と,流麗でロマンティックな主題の対照が効果的。「力任せ」の印象を避けるために,両者の揃った息の長い cresc.が必要。[10'00"](I:4/II:4)

[第2楽章]変ロ長調 Adagio:短い楽章ながら,ソロ,協調,掛合いといったデュオならではの書法が駆使されている。転調も頻繁で,ロマンティックで歌謡性に富んだ旋律を弾き交わすが,スコア形式でないため,両者揃ってのバランスと「間」の取り方はより難しくなる。次の楽章に続く。(3'20")[I:3/II:3]

[第3楽章]ト短調 Alla breve:IIのトレモロに乗って,歯切れ良い主題がカノン風に畳み掛けるように登場し,活発に展開される。音階的な伴奏上の滑らかな主題との対照も実に効果的。対位法的で軽快な動きのコーダが素晴らしい。[6'20"](I:4/II:4)
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スケルツォ Op.77-1
Scherzo[1885刊]
連弾(オリジナル)=Rieter-Biedermann

★ト短調 Allegro vivace:全2曲の「スケルツォとオーバード Op.77」の1曲目のみ,IMSLPにある。特にPが無窮動のように急速に動き回るヴィルトゥオーゾ的小品。繊細な銀線細工のような曲想は,PとSとのリズム的,旋律的な連携も極めて緊密で,両者ともに精密なタッチとリズム感を要求される。[5'30"](S:4/P:5)
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喜遊曲 Op.78(2楽章)
Divertissement[1883]
2台ピアノ(オリジナル)=Kistner(I・II分冊)

★タイトルにもかかわらず,第1楽章は真摯な曲想の変奏曲。楽章間は複縦線で区切られているが,完全に終止しているため,1楽章のみの演奏も可能。第2楽章の軽快な運動性と明るさに溢れる曲想は,第1楽章と大きな対照をなす。

[第1楽章]ハ短調 Andante con moto:弱音中心で落ち着いた歩みの主題は 8+12小節のもので,後半は反復される。4小節ずつIIとIが交替で弾き進み,最後の4小節は2人で弾く。突然の強音が刺激的な第1変奏,打ち寄せる波のような3連符の動きとトレモロが多用された第2変奏,更に速度を速めて後半の1小節毎のfとpの交替が一層激しさを増す第3変奏,一転してハ長調 Adagio となり,装飾音に彩られた繊細でロマンティックな旋律を互いにソロで弾き交わす第4変奏と続く。第5変奏は再びハ短調となり,幅広い和音,オクターヴの跳躍,上行する急速な音階,ffから p への移行が駆使される激烈な曲想。Iにはオクターヴ以上の和音も使われ,第6変奏では弱音主体で主題の雰囲気が回想される。後半の反復の省略により,4分ほど短縮可能。(11'40")[I:4/II:4]

[第2楽章]ハ短調 Lento‐ハ長調 Allegro vivace:11小節の序奏は次第に速度を増して主部に入る。主部の第1主題は,IとIIの細かいリズムの組合わせにより旋律が一体化されるもので,しかもその役割の交替も頻繁なため,表情豊かでスムーズな演奏のためには,両者の技術と音楽性はもとより,2台のピアノの音色や音量の一致が必要。短調の別の主題も登場して,終始,ピアニスティックで活気に満ちてきらびやかに展開され,速度を上げて明快に終わる。(5'00")[I:4/II:4]
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気紛れ Op.83(全8曲)
Ghiribizzi[1890頃刊]
連弾(オリジナル)=Kistner

★全2巻12曲のうち,8曲目までが IMSLPにある。「気紛れ」のタイトルながら真摯で多彩な曲想のロマンティックな小品集。小品ながらもスケールの広がりとともに,グヴィの作風の驚くべき多様さと高度に洗練された書法を示し,全曲の楽譜が揃わずに誠に残念。これら8曲は少なくとも初心者向きではなく,音楽的にも技巧的にも中程度以上。

[1]前奏曲 Prélude 嬰ヘ短調 Lento:PとSによる,オクターブ離れたカノンで進行する。曲想は深刻だが,旋律の流れは 9/8拍子のリズムに乗った動的なもの。特にPの右手には重音でのレガート奏法が要求される。次の曲に続く。[2'40"](S:2/P:4)

[2]シチリアーノ Siciliano 嬰ヘ短調 Andantino:一種の変奏曲で,重層的な旋律を持つ主題部はイタリア風の豊かな歌謡性に溢れている。第1変奏は繊細なスタッカートが素晴らしく効果的で,第2変奏ではカノン風に展開される。[3'00"](S:3/P:3)

[3]舟歌 Barcarolle イ長調 Moderato:極めて甘くロマンティックな旋律は,転調が効果的。Sは伴奏中心。後半は単なる反復ではなく,微妙な変化が施され,また転調もなされて凝った造りとなっている。[3'20"](S:3/P:3)

[4]ブルレスカ Burlesca ニ短調 Allegro vivace:短く歯切れ良い動機が,壮快でリズミカルな前進感を伴って展開される。PとSのリズム的な連携が緊密で,さまざまな調を巡る。特にPは両手が接近しがち。[3'40"](S:4/P:4)

[5]即興曲 Impromptu ニ短調 Vivace:極めて技巧的な作品で,Pの右手は急速な16分音符の連続による複雑なパッセージを休みなく弾き続ける。Sの右手は対旋律を弾き,主旋律よりは易しいが,軽いタッチが要求される。[1'05"](S:3/P:5)

[6]ファンファーレ Fanfare ヘ長調 Adagio - Allegro con brio:目覚めるようにゆったりと始まる序奏に.PとSの二重奏による快活でリズミカルな主部が続く。そのさまは2群に分かれた金管群が,壮快に気分良く吹きまくるよう。明快で力強い曲想はI巻の終曲にふさわしく,指定のテンポは速く名技的。[4'20"](S:4/P:4)

[7]バガテル Bagatelle ト短調 Allrgro:急速なガヴォット風の曲想でキビキビとしたリズムで進行する。後楽節での反復される小節と,瞬間的だが短二度の衝突による刺激が諧謔的な雰囲気を高めている。[2'40"](S:3/P:3)

[8]ポルトガルの歌 Chanson portugaise ヘ長調 Allegretto:この曲集には珍しく,Pは旋律,Sは伴奏と役割が固定されている。民謡風の旋律は伸びやかで温かく,重音が多用される。伴奏はギターを模したリズミカルなもの。歌声が風に乗って消え去るように,ppで終わる。[2'55"](S:3/P:3)
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グリエール(1874~1956)Leinhold Glière 露
12の小品 Op.48(全12曲)
12 Morceaux[1911刊]
連弾(オリジナル)=Jurgenson

★極めてロマンティックて親しみやすい連弾曲集。各曲は十分に個性的で変化に富み,全曲演奏(約18分)でも,また発表会やアンコールに1曲だけを取り上げても効果的。 88鍵をフルに使って4手による幅広い和音の轟音を響かせるタイプの曲ではなく,全曲中に pp は頻出しても ff は皆無。詩情に富み,繊細な旋律と和声,微妙な転調を備え,長調と短調の間を自在に移動する曲が多い。従来から広く親しまれている数多くの連弾曲集に,新たに加えられる価値と魅力を備えている。

[1]前奏曲 Prélude ロ長調 Moderato:ロマンティックな和声に彩られてゆったりと上昇する動きが,曲集への憧れに満ちた期待を高める。(2'00")[S:2/P:3]

[2]ワルツ Valse イ長調 Moderato:シュネラー(逆モルデント)のある軽快な旋律をP,Sともに弾き合う。短調に傾きがちで,心地好く感傷的。(1'10")[S:3/P:3]

[3]素描 Esquisse ニ長調 Vivace:5拍子による軽妙なトッカータ風の曲。(1'00")[S:2/P:3]

[4]嘆き Plainte 変ホ短調 Andante:上昇しようとする旋律と下降するモティーフの,派手な動きはないが激しい葛藤。上昇は下降に勝てずに終わる。Sの左手以外の3手は接近しがち。(2'00")[S:2/P:2]

[5]練習曲 Etude 変ロ長調 Allegro moderato:優美で軽快な動き。(1'00")[S:3/P:3]

[6]羊飼いの歌 Chanson bergère ヘ長調 Allegretto:5音音階による旋律は中国風でもある。見開き1ページの短い作品ながら,広々とした草原をイメージさせる。(0'40")[S:1/P:2]

[7]アラベスク Arabesque ハ長調 Animato:流れるような旋律とリズムを持つ音詩。転調してロ長調て終わる。(0'40")[S:1/P:2]

[8]夢 En rève 変イ長調 Andante:Sの揺れるようなリズムの伴奏に乗せて,Pが優しい子守歌風の旋律を弾く。途中,切迫して大きく盛り上がる。2拍子ではなく4拍子。(2'10")[S:3/P:3]

[9]マズルカ Mazurka ホ長調 Grazioso:Pによる旋律はシュネラーの多い運動性に満ちたもの。後半,PとSとのデュエットの箇所がいかにも連弾的。(1'20")[S:3/P:3]

[10]フゲッタ Fughetta ニ短調 Andantino:厳粛な主題による3声の小フーガ。(1'10")[S:2/P:2]

[11]スケルツォ Scherzo 変イ長調 Vivace:3部形式で,スタッカートを駆使して空高く飛び去るような軽快で華麗な主部を持つ。少しテンポを落とした中間部はPが歌謡的な旋律を弾く。(2'00")[S:3/P:4]

[12]オリエンタル Orientale Allegro:Pがフリギア旋法による神秘的な旋律を静かに弾く。幻想的な曲想は極めて印象深い。(2'00")[S:2/P:3]
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24の小品 Op.61(全23曲)
24 morceaux[1912]
2台ピアノ(オリジナル)=Muzgiz(スコア形式)

★これまでほとんど知られていなかったが,6曲ずつ4巻の曲集で,2台ピアノ作品として難しくなく,いずれもロマン的で極めて親しみやすい曲想を持つ。具体的なイメージを持ちやすいタイトルも多く,特にレッスンや発表会に最適な作品。17番の『Zourna ズルナ』(西アジア発祥のダブル・リードのオーボエ属管楽器のこと)のファイルがないのはいかにも残念。

[1]前奏曲 Prélude ロ短調  Allegro animato:冒頭はジグザグに動く2小節の活発なフレーズの両者による模倣で,やや硬質で重々しい印象を与える。中間部はppで始まるが,両者は対立するような反行的な動きとなり,緊張感が増して盛り上がる。(1'40")[I:2/II:2]

[2]創作主題による6つの変奏曲 Six variations sur un thème original ト長調 Andantino:可愛らしく明るい雰囲気の変奏曲。Ⅱの伴奏上でⅠによって弾き出される8小節の主題は,2/4と3/4拍子が混在し,スラーやスタッカートにより軽く区切られる。ホ短調の属和音で疑問符のように終止する。第1変奏は主題はⅡに移り,Ⅰの伴奏は半音階的進行が多用され,繊細に,色彩的な和声で彩られる。第2変奏は両者の役割が交代となり,より対位法的な豊かさが増す。第3変奏はⅡの両手がオクターヴ離れたユニゾンで力強く主題を奏し,Ⅰは両手の和音奏で伴奏するが,過度に厚い和音ではないので響きは常に輝かしい。静かな第4変奏はⅠに主題が移り,Ⅱの右手の素早く軽快な動きが主題を飾る。第5変奏もⅠは主題,Ⅱは伴奏となるが両者の両手のユニゾンの動きがマルカートやアクセントの指示と相まって,力強い行進曲風となる。第6変奏はⅡの右手が静かに主題を奏し,Ⅰは夢幻的な半音階的下降によって全曲を閉じる。(2'15")[I:3]/II:3]

[3]オスティナート Ostinato 変ロ短調 Allegretto:7/4拍子で,一方が草笛で奏されるかのような軽快な1小節のフレーズを反復し,他方は過去を懐かしむかのような,ゆったりと流れる趣深い旋律を奏する。束の間の長調の響きや最後の空虚5度の響きも印象的。(2'00")[I:2/II:2]

[4]夏の宵 Soirée d'été ヘ長調  Andante: 対位法的で旋律も和声も非常にロマンティックな歌謡的作品。内声の半音階的下降が,よりロマンティックな情緒を高める。(1'20")[I:2/II:2]

[5]民謡 Chant populaire ロ短調 Tempo giusto:快活な2小節のフレーズによる両者のリズミカルな応答で始まり,やがて両者はオクターヴ離れたユニゾンで一緒に弾く。途中,ロ長調や変ホ短調への転調やフガート風の処理もあり,多彩で飽きさせない。なお最後から4小節目のII右手パートのヘ音記号が欠落。(2'10")[I:3/II:3]

[6]民衆の踊り Danse populaire 変ホ長調 Vivace: シンプルで力強いリズム上で,4音,あるいは5音からなるフレーズがさまざまに調を変えて反復される爽快な舞曲。伴奏は同じ音型が反復されるので,持続低音の効果もあり,民謡風の雰囲気を高めている。ヨナ抜き音階による旋律は,どこか懐かしく東洋的に聞こえる。伴奏の音が厚いので特にバランスには注意が必要。(1'55")[I:3/II:3]

[7]森で Dans la forêt 嬰ハ短調 Molto tranquillo:終始,陰鬱で悲嘆に満ちている。両者のトリルやトレモロの16分音符群による葉擦れにも,煌めく陽光を散乱させる陽気なにぎやかさはない。(2'45")[I:3/II:3]

[8]ニンフ Les nymphes ホ長調 Scherzando:16分音符群によるトリルやアルペッジョが多用され,水の精たちの軽快で優美に遊び戯れる動きをイメージさせる。軽快なタッチが必要。(2'45")[I:3/II:3]

[9]夜想曲 Nocturne 嬰ト短調 Andante:暗い情熱が秘められた旋律を両者が歌い交わし,伴奏に3連符の動きが現れると,次第に音域も情熱も高まる。2度下降する2音による「ため息」の動きとの二重唱が,甘美に,そしてロマンティックに長調と短調の間を移ろう部分を経て最高潮に達したのち,再び暗く静まって終わる。(2'30")[I:3/II:3]

[10]小川のほとりで Près du ruisseau イ長調  Allegretto:一方が軽快なトリルを奏し,他方はさわやかな旋律を奏する。両者がオクターヴ離れたユニゾンでトリルを弾く箇所や,トリルを弾き継ぐ箇所もあり,2人がトリルを精密に合わせる練習曲としても有用。(1'30")[I:3/II:3]

[11]幻想的舞曲 Danse fantastique Poco pesante:全音音階によるグロテスクでユニークな舞曲で,旋律も伴奏も妖怪が跳梁するかのよう。主にIIが伴奏を担うが,2小節毎の4拍目のアクセントが不気味な雰囲気を強める。最後は妖怪が飛び去るかのように終わる。(1'10")[I:3/II:3]

[12]狩 La chasse ニ長調 Vivace=Poco meno:心が急(せ)かされるような前打音が付された,半音階的に上行する旋律がエネルギーに満ちて驀進するように展開され,長い半音階的上行の末に突然,獲物の恵みに,あるいは狩の無事に感謝するかのような,堂々とした晴れやかなコラール風の部分に飛び込む。臨時記号の欠落が散見される。(2'30")[I:3/II:3]

[13]東洋風前奏曲 Prélude orientale 嬰ヘ短調 Andantino:5/8という拍子,和声的短音階の増2度,装飾音のシュネラーが異国情緒を強調している。Iは旋律,IIは伴奏で始まるが,やがて異国情緒に満ちた旋律の二重唱となる。(2'05")[I:3/II:3]

[14]やつれた舞曲 Danse languide ト短調 Andante:Iの奏する異国風の旋律をIIがカノン風に追いかけて始まり,一方に息の長い旋律が登場すると,他方は短い半音階的な動きで答える。内声の半音階的な動きが気だるい気分を強める。(2'10")[I:3/II:3]

[15]ムアッジン Muezzin ニ短調 Quasi recitativo:タイトルはイスラム教の祈祷時刻告知係のこと。モスクの光塔(ミナレット)から1日5回,祈祷の時刻を告げる。Iは右手でレチタティーヴォ風の4小節のフレーズをf,mf,p,mf,fと音量を変化させながら5回繰り返し,左手とIIは和音を加える。4小節目の最初の音符の付点,最後から4小節目の6/8の拍子記号は欠落。(1'45")[I:1/II:2]

[16]東洋風舞曲 Danse orientale ロ短調 Animato: 前半はIIが鳴らし続ける嬰ヘの連打音上で,Iが快活な旋律を奏して始まり,中間部では滑らかに流れるような旋律をIIとIが交互に奏する。後半は前半での役割を交代する。(1'20")[I:3/II:4]

[18]モスクの近くで Près d'une mosquée ニ長調 Animato:活気に溢れた街の雑踏のような,明るい雰囲気で始まり,どちらも増2度音程を含む,順次進行で5度上行し下降する和音群と,くねるような動きの旋律が加わって賑やかに展開される。その後,15曲目の『ムアッジン』の4小節フレーズが2度登場し,冒頭の部分が Lentoで回想されて終わる。(3'30")[I:2/II:2]

[19]野原で Au champ ヘ長調 Andante:主部では一方が装飾音を含んだのどかな旋律を奏し,他方はさり気ない対旋律を含んだ伴奏を奏する。少しテンポを速める,やや陰りを帯びた雰囲気の中間部は,半音階的な下降と,それに反行して上行する繊細な連打和音が特徴的。Iの34小節の左手は,まだヘ音記号のままであろう。(1'55")[I:2/II:2]

[20]波打つ麦畑 Le blé flottant イ長調 Animato:Iは分散和音の,IIは和音の,それぞれ上の音によって,伸びやかな旋律を奏する。麦の穂が風でざわめくかのような重音のトリルとともに,上行するアルペッジョが反復され,いかにも広やかな麦畑の空に風が吹き渡る風情。臨時記号の欠落(と思われる)箇所も散見され,例えば,16小節のⅠの左手の1拍目(51小節のⅡも)は Disではなかろうか。(1'30")[I:4/II:4]

[21]矢車菊 Les bluets ホ長調 Andante:動きも響きもデリケートな一方の伴奏上に,他方は優しく可憐な旋律を奏する。両者ともに,ほとんど鍵盤の高音域側の半分しか使われないので,響きも極めて繊細で可愛いらしい。さまざまに転調する中間部の終わり近く,両者がカノン風に歌い交わす箇所や,主部の回帰での役割の交代も,実に好ましい。(2'05")[I:2/II:2]

[22]ひばり L'alouette ト長調 Andantino:明るい曲想で,軽く素早いトリルやシュネラー,32分音符が,鳴き声を模している。細かい音符や休符によるリズムを正確に把握した上で,両者のリズム的な掛け合いでは,特に2人の表現の方向性を一致させる必要がある。(1'30")[I:3/II:3]

[23]草刈り人の歌 Chant des faucheurs ニ長調 Allegro:民謡風の労働歌を眼前にする風情の力強く精力的な作品。4〜5小節の「かけ声」のような「前置き」の部分に続き,歌自慢の1人がおおらかな旋律を歌い終えると「かけ声」となり,次は別の歌自慢がヴァリアントを加えて歌うと,また「かけ声」となり,3度目は皆が声を合わせるかのように厚い響きとなり,堂々と終わる。(1'20")

[24]風 Le vent Allegro leggiero:半音階の進行を中心として全音音階による旋律や和音,減七の和音が連続し,主調は定かではない。両者が3度離れた半音階を,風の息のように奏する2台のピアノならではの作品。f の指示で風が強まる瞬間もあるが,弱音主体で ppppの指示もある。3度重音のバランスによって,響きも,そして表情も大きく変わる。(1'15")[I:3/II:3]
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グルリット Gurlitt, Cornelius (1820~1901) ドイツ
2つの性格的な小品(全2曲)
Zwei Characterstücke[1910刊?]
2台ピアノ(オリジナル)= Ries & Erler

★2曲とも親しみやすい。初心者向きの2台ピアノ作品。

[1]カプリッチョ Capriccio 卜短調 Vivace:まったく性格が異なる3つのセクションから構成されており,短いフレーズや長いメロディの掛合いが楽しい。高度ではないが,さまざまなテクニックが要求され,教材にも発表会にもお薦めの作品。(3'25")[I:3/II:3]

[2]ワルツ Valse 嬰ヘ短調 Vivace non troppo:感傷的な主題は魅力的だが,反復される部分が多く,やや冗長。(3'30")[I:3/II:3]
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ロンド ホ短調 Op.175-3
Rondo in E minor[1890]
2台ピアノ(オリジナル)=Schirmer(I・II分冊)

★ホ短調 Allegretto appassionato:初心者向きの2台ピアノ作品として有用な「3つのロンド」中の1曲で,1987年の同社のカタログには見当たらなくなっていたが,ここでの復活は嬉しい。グルリットの作品にしては珍しく激しい情熱に満ちた主題を持ち,長調の明朗なエピソードとの対照感も素晴らしい。2台のピアノ間の役割の交替も頻繁でリサイタルのアンコールとしても効果的な作品。レッスンには小節数を書き込んだ方が便利。(5'00")[I:3/II:3]
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ケクラン Koechlin, Charles(1867~1950) フランス

2つの性格的な小品(全2曲)
Zwei Characterstucke
2台ピアノ(オリジナル)=Ries & Erler

★2曲とも親しみやすい。初心者向きの2台ピアノ作品。

[1]カプリッチョ Cap riccio 卜短調 vivace:まったく性格が異なる3つのセクションから構成されており,短いフレーズや長いメロディの掛合いが楽しい。高度ではないが,さまざまなテクニックが要求され,教材にも発表会にもお薦めの作品。(3'25")[I:3/II:3]

[2]ワルツ valse 嬰へ短調 Vivace non troppo:感傷的な主題は魅力的だが,反復される部分が多く,やや冗長。(3'30")[I:3/II:3]
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ロンド ホ短調 Op.175-3
Rondo in E minor
2台ピアノ(オリジナル)=Schirmer(I・II分冊)

★ホ短調 Allegretto appassionato:初心者向きの2台ピアノ作品として有用な「3つのロンド」中の1曲で,1987年の同社のカタログには見当たらなくなっていたが,ここでの復活は嬉しい。グルリットの作品にしては珍しく激しい情熱に満ちた主題を持ち,長調の明朗なエピソードとの対照感も素晴らしい。2台のピアノ間の役割の交替も頻繁でリサイタルのアンコールとしても効果的な作品。レッスンには小節数を書き込んだ方が便利。(5'00")[I:3/II:3]
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ケクラン Koechlin, Charles(1867~1950) フランス
組曲 作品19(全5曲)
Suite[1896]
連弾(オリジナル)=Durand

★ケクランのピアノ・デュオ作品はフランス風の優美なエスプリと透明感に満ちた響きが魅力で,これもその典型例。 2,3の中間部,4ではPの両手が接近しがち。

[1]カノン Canon卜長調 Allegro, poco scherzando:ケクラン自身によると,「お揃いの服を着て.1人が他の後に続いて優美にスケートをする2人の少女の印象」とのこと。滑らかで息の長い主題をPが弾き出すと,1小節遅れてオクターヴ下でSが模倣して始まる。カノンの技法は次第に多様化し。模倣の音程やPとSとの順序が変化し,主題の逆行形や拡大形も加わり,副次的な声部も登場する。一部に手の交差もあるが,透明な明るさに満ちている。(3'30")[S:3/P:3]

[2]歌 Lied へ長調 Andantino:フォーレ風の温和な歌が優しく流れる。伴奏も対位法的。(1'10")[S:1/P:2] 

[3]アルバムのページ Feuillet d’Album ハ長調 Allegretto modelato:前後の部分はゆっくりとした散歩の気分でユーモラス。属七からIに解決しない進行が,目的地を定めない気楽さを感じさせる。卜長調の中間部では,民謡風のフレーズが反復されるが,その特徴的な装飾音は牧歌的な笛の音を連想させる。(3'00")[S:3/P:4]

[4]子守歌 Berceuse 卜長調 Andante tranquillo:狭い音程で優しく静かに上下する旋律を持つ。Sの左手以外の3手の動きは対位法的。最後は pppp。(2'10")[S:1/P:2]

[5]終曲 Final ハ長調 Poco maestoso - Allegro con moto:厚い和音とPによるグリッサンドを交えた堂々とした序奏部,快活な行進曲風の主部,そしてコーダも4小節の単一主題とそのモティーフが執拗に反復される。これまでと一転して豪快で活発。両者ともに素早く明快なタッチが必要。(4'50")[S:4/P:4]
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ゲッツ Goetz, Helmann (1840~76) ドイツ
ソナタ Op.17(3楽章)
Sonate[1865]
連弾(オリジナル)=Kistner & Siegel

★知名度こそ高くはないが,19世紀後半の連弾ソナタ中の屈指の傑作。真摯な作品ながらも全編に溢れる瑞々しいロマンと激しい熱気,巧妙な対位法的な書法,引き締まった構成が特徴で,厚い和音を使っていないにもかかわらず十分な迫力とピアニスティックな演奏効果を備えている。

[第1楽章]ト短調 Langsam - Sehr lebhaft:PとSのカノンによる,厳粛なバロック的な序奏で始まり,序奏の音型の一部を使った第1主題にごく自然に移り込む。特に熱烈な展開部は連弾としての多様な課題…同時にそれは魅力にも転じるが…に満ちている。(9'30")[S:4/P:4]

[第2楽章]変ホ長調 Mässig bewegt:PとSのデュエット。両者による「歌」は常にメロディアスでロマンティック。ゲッツの高度な対位法の確かさとメロディ・メーカーとしての資質が見事に発揮された楽章。(5'50")[S:3/P:4]

[第3楽章]ト短調 Langsam - Graziös, und nicht zu rasch:葬送行進曲風の序奏の後に優美な,しかし哀感の漂うワルツの主部が続く。葬送行進曲が短く再現された後,テンポを速めて疾風のように終わる。(7'00")[S:4/P:4]
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ゴルトマルク Gordmark, Károly(karl) (1830~1915) ハンガリー
3つの小品 Op.12(全3曲)
Drei Stücke[1891刊]
連弾(オリジナル)=Dunkl

★「舞曲集 Op.22」が伝統的なロマン派作品なのに対し,この作品は作品番号が前(出版は後?)にもかかわらず,あくまでも後期ロマン派の作風ではあっても,平行和音の使用や陶酔的な盛り上がりに非凡な個性が強く感じられる作品。その含蓄に富み,味わい深い曲想は,間違いなく「埋もれた傑作」であり,復活の価値があるが,特に半音階的進行の多い3曲目は臨時記号の欠落が多く,慎重な補填が必要。3曲とも三部形式。IMSLP のファイルのタイトルは「3 Piano Pieces」。

[1]ニ長調 Allegretto:楽譜にタイトルはないが,マックグロー(McGraw)の記述には「牧歌(Pastrale)」とあり,確かに穏やかでデリケートな明るさを持つ前後の部分の曲想にはその形容がふさわしい。また物語風に多彩に展開されるかなり長い中間部は,濃厚な抒情に満ちて短調と長調が頻繁に交替し,陶酔的に盛り上がる。Sは単純な伴奏に止まらず,Pとの連携が極めて緊密に書かれている。(5'20")[S:3/P:3]

[2]イ短調 Moderato:力強く重厚なポロネーズ。Sの伴奏中の半音階的な動きに憂鬱さが漂うが,それだけに音楽が奥深い。対照的に変イ長調~ホ長調のトリオは非常に滑らかで夢見るようにロマンティック。(2'30")[S:3/P:3]

[3]イ長調 Moderato:穏やかに始まるが,曲想も,そして当然強弱の指示も急激に大きく変化し,さまざまな感情が大きくうねる。PとSとの情熱的なデュエットや,ちょっとしたSのソロも用意されている。波乱に満ちた内容のバラード風の作品だが,最後は浄化されて天上に昇るかのように静かに終わる。(6'30")[S:3/P:3]
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舞曲集 Op.22
Tänze[1876刊]
連弾(オリジナル)=Schott

★ファンファーレ風の短い序奏の後に,まずニ長調のゆるやかなテンポのワルツが置かれ,その後,少しテンポを上げて(Mässiges Walzertempo),調性も曲想もさまざまな,いずれも親しみやすいウィーン風のワルツが続く。この作品は華麗さよりも優雅さが際立ち,後半になるに連れて少しずつ盛り上がり,自然にテンポが速まる性格のワルツが配置されているが,最後は落ち着きを取り戻し,変ニ長調で消えるようにppで終わる。Sは伴奏中心だが,Pとの掛合いや対旋律を弾く機会もある。各ワルツの旋律の多くは特に連弾に適したしたもので,細やかな表情の変化を付けることによって,それらの魅力が一層引き立つ。IMSLP のファイルのタイトルは「Hungarian Dances」だが,何かの誤りであろう。(6'25")[S:3/P:3]
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春に 序曲 Op.36
Im Frähling Ouverture[1889]原曲 管弦楽曲
連弾(オリジナル)=Schott

★イ長調 Allegro moderato:全編,待ち望んだ春の到来への,はじけるような喜びと瑞々しい明るさに満ちており,さながら「春への賛歌」といった風情。この作品以外にも IMSLP には代表作の「交響曲 第1番 田舎の婚礼」をはじめ,「序曲 シャクンタラー Op.13」「序曲 サッフォー Op.44」等の管弦楽曲の作曲者自身による四手版があるが,連弾として最も効果的なのはこの作品であろう。Sも伴奏の音型を担うだけでなく,重要な旋律やPとの掛合いも用意され,木管楽器による「鳥の鳴き声」を弾く機会もある。両者とも音が厚く,一部には重複を避ける配慮もなされてはいるが,なお重複する箇所は残る。(11'00")[S:4/P:5]
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スケルツォ Op.45
Scherzo[1894刊]原曲 管弦楽曲
連弾(自編)=Peters

★イ長調:半音階的にゆっくりと上昇した後に下降する序奏に,Allegro vivace の軽快な運動性を持つ主部が続く。主部はPによる急速な連打和音(弦楽器)の下で,Sがホルンの力強い第1主題を弾いて始まり,カノンも含めて両者の掛合いが多く,弾いて楽しめる作品。両者ともに軽快な運動性が必要で,特にPは急速な連打和音が多い。原曲はウィーン楽友協会の作曲コンクールの応募作品として1850年代に作曲された。(8'00")[S:4/P:4]
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