バーニー Burney, Charles(1726~1814) 英
4つのソナタ または二重奏曲 第1集(全4曲)
Four Sonatas or Duets Book 1[1777刊]
連弾(オリジナル)=R.Bremmer(スコア形式)

★著者は第1集の序文で,この作品集を「この種の連弾作品の史上初の印刷譜」と謳っている。imslp には第1集しかない(2018年4月現在, このファイルは通常のCompositions ではなく, Collections のページに置かれている)が、第2集[1779刊]の4曲も含め全曲が2楽章構成で,第1集の4曲は緩・急の楽章配置となっている。表紙には「ピアノまたはチェンバロのため」とあるが,細かく指示された多数の強弱記号はピアノのために書かれたことを示している。これらの作品は第2集も含め, 18世紀後半の連弾書法の特徴として,展開部は未発達で,後のシューベルトの作品に見られるような四手の独立した対位法的な動きの箇所は少ないが,それだけにシンプルで親しみやすい。古い楽譜のため近代の整った譜面とは異なり,読譜には「慣れ」が必要。1988年,Möseler 社から全8曲の復刻版が刊行され,それに基づくCD,"Burney Sonatas for piano four hands (Brillant Classics 95447) "は楽譜が読み難いだけに参考になろう。

ソナタ 第1番 Sonata No.1
[第1楽章]へ長調 Largo:Sによる落ち着いたソロで始まり,両者ともに伸びやかな旋律をたっぷりと弾き交わす。前・後半とも反復される。[7'20"](S:2/P:2)
[第2楽章]へ長調 Allegro:新たな主題が次々に登場するリズミカルで快活な楽章。両者が技を競って主役の座を奪い合うかのように旋律を弾きあい,短調への転調部分もあって飽きさせない。提示部,展開部に相当する前半と中間部が反復される。生き生きとした活力が魅力的。[8'10"](S:3/P:4)

ソナタ 第2番 Sonata No.2
[第1楽章]ニ長調 Affettuoso:装飾音がちりばめられた情緒たっぷりの4小節のフレーズをP,Sが弾き継いで始まる。以下,Pによる旋律にSが旋律的に応答しながら伴奏を加えて展開される。終止部の複縦線に反復記号の点々があるが,表記の演奏時間は後半を反復しない場合。[4'35"](S:3/P:2)
[第2楽章]ニ長調 Allegro:18小節に及ぶSのソロで始まる。主題は旋律的にも和声的にも変化に乏しく,やや冗長。展開部に相当する中間部はロ短調中心。[6'55"](S:3/P:2)

ソナタ 第3番 Sonata No.3
[第1楽章]変ロ長調 Affettuoso:Sによる冒頭の小節のモティーフをPがフーガ風に5度上で模倣して始まり,落ち着いた雰囲気の主部が2度繰り返された後,トレモロや急速な音階が多用されるラプソディックな中間部に入り,主部の一部が短く再現される。両者の模倣や応答の機会が多い。[3'40"](S:3/P:3)
[第2楽章]変ロ長調 Allegro moderato:Pによる25小節に及ぶ晴れやかで元気の良いソロにSもソロで答え,その後、両者が協奏する。一方の主旋律に他方が対旋律を加える機会が多く,前述の2曲の「ソナタ」のホモフォニックな書法中心に対し,ここではよりポリフォニックとなる。前・後半とも反復される。[6'45"](S:3/P:3)

ソナタ 第4番 Sonata No.4
[第1楽章]ハ長調 Affettuoso: 序奏部として,6/8拍子の優美な旋律の,PとSによる10小節ずつの「問い」と「答え」のソロが置かれ,活気に満ちた伴奏部を持つ,より動的な主部に入る。ト短調の情熱的な中間部を経て主部が再現される。反復部がなく,コンパクトな印象を受ける。[4'10"](S:3/P:3)
[第2楽章]ハ長調 Allegro:連打(和)音が多用されて強い推進力を備え,楽しい歌劇の序曲のような活力と明快さに溢れた楽章で,特にPは軽快で俊敏なタッチが必要。展開部ではPとSの模倣の動きが多い。前・後半とも反復され,Perdendosiで静かに終わる。[12'15"](S:3/P:4)
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バルギール Bargiel, Woldemar (1828~97) ドイツ
ソナタ Op.23(3楽章)
Sonate[1862]
連弾(オリジナル)=R.Bremmer(スコア形式)

★ロマンティックな瑞々しさ,陶酔的で濃厚な抒情,響きの豪快さを併せ持つ佳品。PとSとの連携が極めて緊密で,技術的にも難しくなく,連弾作品として弾いても聴いても楽しめる。楽譜にはP,Sそれぞれに重複する音が散見される。

[第1楽章]卜長調 Moderato:冒頭の第1主題からPによる伸びやかな旋律と,半音階的に下降するSによる対旋律が登場し,連弾の醍醐味を満喫できる。第2主題の連打和音上でのPとSの対話も大いに楽しめる。七の和音の多用がロマンティックな気分を高め,オクターヴや厚い和音の使用が迫力を増している。[6'50"](S:3/P:3)

[第2楽章]変ホ長調 Lento:4小節半のフレーズの,弦楽四重奏的な書法による崇高な主題がSによって静かに弾き出され.Pも旋律的な動きで加わる。心ざわめく感傷的なト短調の部分や,大きな盛り上がりを経た後,静かに収まって終わり。次の楽章に続く。P.17で本位記号のいくつかが欠落と思われる。[6'20"](S:2/P:3)

[第3楽章]ト長調 Allegro molto - Allegro grazioso:16小節のリズミカルで軽快な経過句を経て,やはり軽快で流れるような主部に入る。快活に疾走する楽しい楽章で,ホ短調の歌謡的な中間部を挟む三部形式。後半は転調もコーダもなく,形式的にはシンプル。[4'05"](S:3/P:3)
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レントラー Op.24-1
Ländler[1864刊]
連弾(オリジナル)=G.Schirmer

★イ長調 Moderato:Rieter-Biedermann社から初版が刊行された「3つの舞曲 Drei Tänze op.24」の1曲目だが,IMSLP のファイル名は "3 Dances brillantes" で,後世の連弾曲集からの抜粋。ゆったりと旋回するようなメロディを持つ親しみやすい小品でSも対旋律を弾く。へ長調のトリオはホルン5度を持つ牧歌的なもの。[3′40″](S:1/P:2)
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フィールド Field, John(1782~1837) アイルランド
人気のロシアの歌による二重奏曲
Duet on a Favorite Russian Air[1808刊]
連弾(オリジナル)=Jos.Aibl

★イ短調 Moderato:"Air russe varié(ロシアの歌による変奏曲)"のタイトルの楽譜もあり,即興的で自由な形式の変奏曲。感傷的な8小節の旋律を反復する16小節を主題とするのが妥当であろう。その主題に4つの変奏とコーダが続く。もとより深遠な内容の作品ではないが,ピアニスティックで変化に富んで親しみやすく,ロマンティックな雰囲気をたたえ,両者の手の交差もあって気軽に楽しめる作品。おもにPに頻出する連打音はバラライカを模し, Sはほとんど伴奏を担う。主題はリヴォフとプラーチの共編による『旋律付きロシア民謡集』中の『どれほど私があなたを苦しませたのか』に基づくとされている。[4′45″](S:2/P:3)
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フックス Fuchs, Robert (1847~1927) オーストリア
5つの小品 Op.4(全5曲)
Fünf stücke[1872刊]
連弾(オリジナル)=Kistner

★まったく性格の異なる5曲による,典型的なロマン派の連弾小品集。 P,S間の連携がリズム的にも旋律的にも緊密で,響きが多彩で美しく,ピアニスティック。また作品の質そのものとは関係がないが,各ページの小節の配置に譜めくりの便が考えられている。IMSLPのファイル名,"4 Pieces for Piano 4-hands"の曲数は誤り。

[1]へ長調 Mässig bewegt:付点リズムが多用された,軽快で快活な作品。ユーモラスな雰囲気がある。[2'25"](S:3/P:3)

[2]ニ短調 Lebhaft:連打和音による伴奏とスタッカートによる旋律が,力強い前進感を高めている。[2'00"](S:3/P:3)

[3]変口長調 Ruhig:牧歌的な明るさと穏やかさを持つ。[1'30"](S:2/P:2)

[4]ニ長調 Gemüthlich:付点リズムの多用による弾むような旋律が,PとSとのカノン風の動きで展開される。温かく気楽な雰囲気に満ちている。[1'50"](S:2/P:2)

[5]へ長調 Kräftig:「力強く」と指示されたリズミカルで精力的な作品。指定のテンポが速くないために,落ち着いた行進曲風だが,主題の気紛れで道化た性格が実に個性的でユーモラス。急激で大幅な音量の変化かおもしろく,随所で豪快な響きを発する。[3'45"](S:4/P:4)
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6つの小品 Op.7(全6曲)
Sechs stücke[1872刊]
連弾(オリジナル)=Kistner

★3曲ずつ2集に分けられているが,曲の番号は1~6の通し番号。どちらか1巻ずつの演奏でも曲想や調性の変化が適度にあり,曲集としてのまとまりが感じられる。ロマンティックで親しみやすく,効果的な小曲集。全体的にテンポ指示は遅め。

[1]ト長調 Etwas langsam:32分休符で区切られた,付点リズムを多く含む軽妙な旋律を両者が弾き合う。気楽な散歩のような快適さに満ち,両者のリズム的な連携が非常に緊密。[2'25"](S:3/P:3)

[2]ホ短調 Leicht bewegt:リズミカルな伴奏上に,スタッカートを多用した繊細で神経質な旋律が軽快に流れる。多声的な旋律はP自身や,PとSとによって弾かれる。[2'30"](S:3/P:3)

[3]ハ長調 Äusserst ruhig:Pによる多くは6度,または3度重音の旋律が,滑らかに歌われ,極めてロマンティックな情緒に満ちている。[2'25"](S:2/P:3)

[4]イ短調 Krätig,nicht zu rasch:主部はP,Sともにオクターヴでの動きや厚い和音が多用され,前進感に溢れた決然としたリズムと相俟って壮快な響きを持つ,劇的な物語風の作品。極めて遅いテンポの嬰ハ短調,3/8拍子の中間部は,哀調と慰めを含んだ旋律が滑らかに歌われ,葬送の雰囲気。[5'20"](S:3/P:4)

[5]ホ長調 Langsam,breit:穏やかで宗教的な崇高感さえ持つ賛美歌風の佳品。[2'40"](S:1/P:1)

[6]ハ長調 Mässig bewegt:1集の3曲目と同様,Pによる精力的な旋律は6度や3度重音が多用されるが,こちらは軽快でリズミカルな舞曲風。 P,Sともに両手はオクターヴ離れたユニゾンの動きが多く,力強く豪壮に終わる。[2'50"](S:3/P:4)
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セレナード 第2番 Op.14(4楽章)
Serenade No.2[1874]
連弾(自編)=Kistner, Universal

★フックスの親しみやすい「セレナード」は,当時大変な人気を博していた。全5曲の「セレナード」のうち,IMSLPには1~4番までの作曲者自身による連弾用編曲のファイルがあるが,総合的に連弾でも最も効果的な第2番を取り上げた。原曲に忠実で4手が接近しがちな編曲。Sは伴奏部をより多く担当するが,旋律を奏する箇所やPとの掛合いもある。

[第1楽章]ハ長調 Allegretto:Sによるスタッカートの軽快なリズムの伴奏上に,Pが心弾む楽しげな旋律を奏する。Pの旋律は重音(おもに3度)による動きが多い。[2'50"](S:3/P:4)

[第2楽章]ホ短調 Larghetto:主題は短調だが,単なる感傷に止まらない奥行きと深さを備えている。繊細に揺れ動くような中間部を経て,ホ長調での主題の再現部はスケール豊かで雄大だが,その後,収まってホ短調で静かに終わる。一部に両者の手の交差がある。[5'30"](S:3/P:3)

[第3楽章]ハ短調 Allegro risoluto:弦楽器群の総奏による精力的な主題や,短く区切られたアーティキュレーションによる軽快な音型,旋回するような音型の多用が,力強い民族舞曲的な雰囲気を高める。[3'00"](S:3/P:3)

[第4楽章]ハ長調 Presto:軽快,快活なタランテッラ。 P,Sともに連打(和)音が多く,Sも一部は旋律を弾く。[4'00"](S:4/P:4)
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ワルツ集 Op.25(全24曲)
Walzer[1880刊]
連弾(オリジナル)=Kistner

★12曲ずつ2集に分けられた,ごく短いワルツの曲集。最も長い曲でも各パート1ページ半ほどで,技術的には易しい曲が多いが各曲の表情の変化は大きい。フックスの作品には,同一のモティーフやリズムパターンが反復されることが多いが,こうした短い作品ほど,魅力的な効果を高めている。1集はいかにも「ワルツ」らしい優美で甘美な曲が多いが,2集は長い曲が多く,また技術的にもやや高度で曲想もより多彩となり,「ワルツ」の優美さからは遠い作品も含まれる。ブラームスの「ワルツ集Op.39」への敬意であろうが,類似の音型があちこちに現れる。

■第1集 Heft 1■

[1]嬰へ短調 Ländler tempo:深い悲しみ。明るくなりかけて暗く沈み込む最後が秀逸。[1'40"](S:1/P:2)

[2]嬰へ短調:悲哀に満ちて,もの寂しい。[0'45"](S:1/P:2)

[3]イ長調:Sの右手による半音階的な対旋律が特徴。長調だが「明朗」には届かない。[0'50"](S:2/P:2)

[4]ニ短調:決然として激しい情熱を叩きつける。[1'20"](S:2/P:3)

[5]二長調:滑らかに流れる優美な旋律を持つ。[1'15"](S:1/P:2)

[6]卜長調:悠然とした旋律の,PとSとによるデュエット。[2'40"](S:2/P:2)

[7]ロ短調 Etwas bewegter:鍵盤を幅広く使い,激烈で雄大。転調を経てロ長調で静かに終わる。[1'20"](S:3/P:3)

[8]二長調 Ruhiger:感傷的に始まり,ロマンティック。[1'05"](S:1/P:2)

[9]ト長調 Etwas bewegter:軍隊ラッパの伴奏と,悠々とした旋律を,PとSとが役割を交替しながら弾く。スケール豊か。[1'25"](S:2/P:2)

[10]口長調 Etwas langsamer:弱音中心で密やかでロマンティック。転調が特徴的。[1'40"](S:1/P:2)

[11]変ト長調 Wie Anfangs:変ホ短調で始まる。甘美な追憶。[1'45"](S:1/P:2)

[12]変卜長調 Langsamer:PとSとが,ほぼ全曲でオクターヴ離れたユニゾンで旋律を奏するしみじみとした終曲。[1'15"](S:2/P:2)

■第2集 Heft 2■

[1]ハ長調 Walzer - Tempo:全24曲中,最もきらびやかで洒落ている。ポリリズムが軽やかに舞い翔ぶような効果を上げている。[1'30"](S:2/P:3)

[2]変イ長調 Ländler-Tempo:静かに揺れるリズムが穏やかな抒情をかもし出す。[1'10"](S:1/P:2)

[3]変イ長調:PとSとがオクターヴ離れたユニゾンで郷愁を誘う旋律を優しく歌う。Pの右手による高音域の装飾的なアルペッジョが効果的。[1'00"](S:1/P:2)

[4]へ長調 Etwas langsamer:大胆に歩みを進める堂々とした作品。意外な転調がおもしろい。[2'20"](S:1/P:2)

[5]イ短調 Ländler-Tempo:揺れ動くPと,憂鬱なSとのデュエット。[2'30"](S:1/P:2)

[6]イ短調:響きの薄い箇所でさえ,両手のオクターヴ離れたユニゾンの動きにより,ffで激烈に突き進む。[0'45"](S:2/P:2)

[7]イ長調 Ruhiger:8分音符の連綿とした静かな流れを持つ繊細な曲想。[2'00"](S:2/P:2)

[8]二短調:情熱が籠った,粘性に富む旋律を持つ。[0'50"](S:1/P:2)

[9]二長調 Langsam,sehr getrangen:誇らしい旋律を高らかに歌い上げる。後半はPとSとのデュエット。[1'00"](S:1/P:2)

[10]ロ短調 Bewegt:活発で力強い民族舞曲風。ロ長調に転調して終わる。[1'20"](S:3/P:2)

[11]変ホ長調 Langsam:SからPに連なる旋律を持つ。ロマンティックで甘美。[1'30"](S:2/P:2)

[12]ト短調 Mässig bewegt:暗い情熱に満ちて驀進する。急激な音量の変化やSによるsfが興奮の度を一層高める。[1'45"](S:3/P:3)
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とても易しい小品集 Op.28(全12曲)
Sehr leichte stücke[1880頃]
連弾(オリジナル)=Max Brockhaus

★Pは親指を軸としたポジションの移動なしに弾ける連弾曲集。ただし,一つの固定されたポジションの5音のみで1曲を弾き通すのではなく,フレーズの切れ目などでポジションの移動があるため,Pには運指の表記がある。そのため1曲目から楽譜上の運指に従って鍵盤上での手の移動に注意を払う必要が生じ,また前半の6曲は両手がオクターヴ離れたユニゾンの動きだが,後半の6曲は両手が独立した動きとなるので,「とても易しい」というタイトルだが,後半は「バイエル」後半程度の難易度となる。Sによる伴奏は,和声も転調も凝ったもので,曲としてのおもしろみが大いに増すが,Pの強弱記号が抜けている箇所もある。初歩からの漸進的な教材として意図された曲集ではないようだが,ロマン派の連弾小品集としての価値がある。以下に4曲を取り上げてコメントを付した。

[7]変ホ長調 Maestoso:国家的な式典にふさわしい威厳と栄誉を備えた堂々とした曲。Sが張り切り過ぎると,全体のバランスを崩しがち。[1'30"](S:3/P:1)

[8]変口長調 Andantino:繊細でロマンティックな舟歌。[1'10"](S:2/P:1)

[10]ハ長調 Andantino sostenuto:詩情豊かで,創意と変化に富む和声付けの好例。[1'40"](S:2/P:1)

[11]ト長調 Un pocp lent:SとPとの,トリル音型の掛け合いの楽しい作品。速いテンポでは「二匹の蜜蜂」とでもいったタイトルが似合うかわいらしい曲となるが,この速度の指示は実に意外。和声の変化に耳を傾けつつ,指の平均と独立への注意を促すためであろう。[2'30"](S:2/P:1)
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ウィンナ・ワルツ集 Op.42(全20曲)
Wiener Walzer[1886刊]
連弾(オリジナル)=Simrock

★10曲ずつ2巻に分けられているが,曲の番号は通し番号。最後の20番のみ見開き2ページだが,他はすべて見開き1ページというごく短いワルツ集。前・後半とも,あるいは一方を反復する曲がほとんど。技術的には易しい曲が多いが甘やかで洒落た旋律と,それを支える豊かで多彩な転調が実に魅力的な傑作。1巻の方がいかにも「ウィンナ・ワルツ」らしい曲が多く,2巻はテンポの指示からも分かるように,各曲の曲想はより多彩となる。Sも伴奏のみを担当する曲は少なく,主旋律や対旋律を弾く機会を多く持つ。数曲を抜粋しても,また1曲をアンコール等に取り上げても極めて効果的。

[1]ニ長調 Tempo di Valse moderato:前半の半音階的になだらかに上昇する曲線的な旋律と,スタッカートによる軽快な後半が対照的。ppからffまでの急激な盛り上がりが陶酔的。[1'45"](S:2/P:3)

[2]ト長調 Poco meno:両者が手を交差させながら旋律と対旋律を弾き出す。甘美で濃密なロマンに満ちている。[1'40"](S:2/P:3)

[3]ロ短調 Più mosso:激しい情熱が籠められ,転調を経て口長調で終わる。[1'00"](S:2/P:3)

[4]ホ長調 Tempo I ma sonore:スケール豊かで堂々とした曲想。Sも低音域で力強く旋律を歌う。[1'45"](S:3/P:3)

[5]変イ長調 Tranquillo e dolce:ためらうように半音階的に下降する繊細な旋律が,PとSによるカノンで登場する。親密な語らいの風情。[1'30"](S:3/P:3)

[6]嬰ハ短調 Vivace:運動性に富んだ,軽快に旋回するような旋律をPが弾く。その両手は終始,オクターヴ離れたユニゾンの動きで,重音も含むため流暢に颯爽と弾き切るには相当なテクニックが必要。頻繁な短・長調間の転調を経て,変ニ長調で終わる。[1'00"](S:2/P:4)

[7]変ニ長調 Tranquillo:静かに,子守歌風に揺れるリズム。強調する音の選びかたによって表情が大きく変わる。[1'55"](S:1/P:3)

[8]嬰へ短調 Più mosso e con fuoco:押さえ切れない激情がsempre ffで噴出する。[0'55"](S:2/P:4)

[9]ニ長調 Più tranquillo:いかにもウィーン風なリズムを備えた優美で魅力的なワルツ。[2'25"](S:2/P:3)

[10]口長調 Teneramente:弱音中心で,穏やかで落ち着いた抒情に溢れる。[1'40"](S:1/P:3)

[11]変ホ長調 Walzer-Tempo:オルゲルプンクトとホルン的な響きが,スケール豊かな田園的広がりを感じさせる。[2'55"](S:2/P:2)

[12]卜長調 Sehr langsam und innig:Sによる,表情豊かで雄弁な旋律で始まる。手を交差させながらPによる旋律も加わり,より多声的に処理されて終わる。[1'55"](S:2/P:3)

[13]変ホ長調 Ländler-Tempo:軽快なリズムとユーモラスな旋律が実にチャーミング。長調と短調の間を滑るように移り変わる。[1'20"](S:2/P:3)

[14]変イ長調 Ruhig und innig:優美で小刻みなステップによる舞踏のよう。[2'10"](S:2/P:3)

[15]嬰ハ短調 Langsam,sehr ausdrucksvoll:暗い情熱に満ち,粘性に富む旋律と重々しいリズムは,まるで「ハンガリー舞曲」の一節。ためらうような優雅な中間部を持つ。[2'00"](S:2/P:2)

[16]イ長調 Walzer - Tempo:穏やかな明るさに満ちて,8分音符の連続により,よどみなく流れる。[1'55"](S:2/P:2)

[17]ホ長調 Langsam und ausdrunckvoll:主役のSが,高貴で悠然とした旋律を担う。[2'45"](S:2/P:2)

[18]ニ短調 Bewegt:連打音を多用した軽快な旋律を持つ個性的な作品。[1'00"](S:3/P:4)

[19]嬰へ長調 Ländler Tempo:P自身が伸びやかな旋律をデュエットで歌い交わす。[1'55"](S:2/P:3)

[20]ト長調 Mässiges Walzertempo:両者が一緒にオクターヴ以上に上昇しては下降する息の長い旋律を弾く。終曲らしい華麗さと豪華さを持つ。[1'35"](S:3/P:3)
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夢の絵 Op.48(全7曲)
Traumbilder[1890刊]
連弾(オリジナル)=Peters(1~3), Schirmer(4のみ)出版情報:Kunzermann(全曲)

★舞曲的な性格の曲が多いが,各曲とも転調が巧妙,多彩で,スケールの大きさとともに豊かな幻想に満ちた,真摯で充実した作品。

[1]ハ短調 Un poco con moto,ma passionato:リズムは3拍子の民族舞曲風だが,「増三四の和音」の強調による屈託ありげな響きが幻想的な雰囲気を強める。音が低・中音域に集中する二長調の中間部は,深々とした豊かな抒情が極めて魅力的。[4'55"](S:3/P:3)

[2]変イ長調 Allegretto grazioso,con espressione:主部は,静かにゆったりと揺れるワルツ,またはレントラー風で,Pは大部分でオクターヴ離れたユニゾンの旋律を弾く。中間部では,旋律が希望を求めるように長調で上昇するが,希望はついえて短調に変わる。[6'15"](S:3/P:2)

[3]へ短調 Vivace:主部は憂鬱な雰囲気の急速なタランテッラ。へ長調の中間部は滑らかな動きで明るい雰囲気だが,不安定な3小節フレーズのため前進感が強い。[3'10"](S:3/P:3)

[4]ニ短調 Allegro scherzando:3拍子の軽快な民族舞曲風だが,スタッカートが多用された歯切れ良く軽快な旋律からは北欧風の冷気が感じられる。[3'10"](S:2/P:3)

[5]二長調 Andante sostenuto:半音階的な動きが多く,PとSとがゆったりとした情緒豊かな旋律をデュエットする。[2'40"](S:2/P:2)

[6]変口長調 Allegro con espressione:洒落て華やかなワルツ。[2'00"](S:3/P:3)

[7]二長調 Vivace:主部は2拍子の精力的な舞曲風,または速い行進曲風で,両者の両手とも,素早い音階的な動きが要求される。平静で滑らかな動きの中間部は,主部との著しい対照が印象的。[5'15"](S:4/P:4)
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ヘルツォーゲンベルク Herzogenberg, Heinrich von(1843~1900) オーストリア
主題と変奏曲 Op.13
Thema und Variationen[1869]
2台ピアノ(オリジナル)=J.P.Gotthard(スコア形式)

★変ニ長調:主題は、Ⅱによって低音域で悠々と歌われる、4分音符による深々としたもの。親しみやすく変化に富んだ、2台のピアノのための「変奏曲」の大作であるが、主題の「聖歌」風の性格や変格終止(加えて第1変奏の変ニ音を中心とした内声の動きも)が、この作品の宗教的な雰囲気を高めている。オクターヴによる進行と幅広い和音が連続する第2変奏や、嬰ハ短調でrfz、sfz、アクセント記号が頻出するドラマチックな歩みの第3変奏も過剰な表面的効果は伺えない。ヘ短調の第5変奏では主題を定旋律のようにバスに置き、付点リズムを多用した旋律で擬バロック的な効果を出し、変ニ長調に戻る第6変奏はほぼ鍵盤の右半分の音域で軽妙に奏され、その響きは澄んで天上的。第7変奏は両者のカノンで始まる、濃密な情感をたたえた夜想曲風の非常にロマンティックな変奏。反行する旋律とバスが実に魅力的で、2台のピアノによる「愛の二重唱」の趣。この後、一転して活発な無窮動風な第8変奏、「堂々と」と指示され、両者の両手ともにオクターヴの進行が多用される第9変奏で全曲を閉じる。各変奏は創意に溢れ、変化も多彩で、書法も極めて精緻。[18'20"](Ⅰ:5/Ⅱ:5)]

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ブラームスの主題による変奏曲 Op.23
Variationen über ein Thema von Joh.Brahms [1875]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann
※この楽譜のファイルはimslpにはないが、Walter Wollenweber社から入手可能。

★イ短調:間奏的な部分を含む、8つの変奏とコーダ。主題は、ブラームスの『6つの歌 Op.7』の5曲目の、寂しく暗澹とした『喪に服する女』(1852作)による。作品番号も、ブラームスの『シューマンの主題による変奏曲 Op.23』(1861作)が意識されており、ブラームス宛の1876年8月1日の手紙に「今回送った作品は、あなたの主題による変奏曲の史上初の作品」と書いている。作品は主題が極めて自由に扱われており、各変奏ごとにテンポが異なり、変化の振幅も非常に大きい。Andanteの主題は第1変奏でいきなりAdagioとなり、主題はバスに移り、対位法が駆使されて各声部のリズムは複雑に組み合わされる。それ以後も単純な装飾的変奏はなく、主題のシンプルな和声は多様な変化を見せる。敬愛するブラームスの主題を扱うだけに、ヘルツォーゲンベルクが全力を傾注したであろうことは容易に想像でき、第5変奏での主題は、Pの左手はSの左手1/3の音価で進み、反行の動きも随所にあり、嬰ハ短調の弱音主体だが熱気に溢れた第7変奏では二重対位法が使われる。ブラームスはこの作品に対して「幻想的変奏曲と呼ぶべきで、厳格に展開された変奏曲と区別して欲しい」として積極的な評価をしなかったが、逆にこの作品の幻想的で自由な発想こそ、この作品の持つ真価と魅力であろう。[12'30"](S:4/P:5)
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アロットリア Op.33 第1集 (全3曲)
Allotria Heft 1.[1881]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★珍しいタイトルは古代ギリシア語が語源で、ここでは「珍奇なもの」「ナンセンスな楽しみ」といった意味。第1集はそれぞれに拍子が異なる、三部形式による多彩な曲想の小品集で、第1、2集とも両者の音が厚い書法なのでバランスには注意が必要。

[1]イ長調 Allegro:音量の幅広い変化を伴う主部は、活発で気紛れなスケルツォ風。旋律に現れる6連符がいかにもユーモラス。やや柔らかな雰囲気の中間部はニ長調~ヘ長調に転調し、Pのデリケートなパッセージに彩られながら、Sが旋律を弾く。[2'45"](S:3/P:3)

[2]ヘ長調 Allegretto:主部は3度重音を多く含む、狭い音程を順次進行する旋律をPが、次にSが奏する。fの両者のユニゾンを伴い、音量が急激に変化する中間部を持つ。「間奏曲」の趣。[1'40"](S:3/P:3)

[3]ロ短調 Allegro agitato:6/8拍子の生き生きとしたタランテッラのリズムだが、伴奏は決して単調なものではなく、対位法が生かされ、嬰ヘ短調の中間部も含めて、ドラマチックで叙事的な物語性を感じさせる。[3'35"](S:4/P:4)
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アロットリア Op.33 第2集 (全3曲)
Allotria Heft 2.[1881]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★第1集に比べ形式的により自由で、3曲目はスケールも大きい。

[4]ハ短調―ハ長調 Allegretto:民族舞曲的な軽快なリズム上で歌われる繊細な旋律は、カノン風の扱いを含めて多声的。短調の部分はやや憂鬱な雰囲気だが、最後のハ長調の部分はハ音のオルゲルプンクトを伴い、明るく牧歌的。[2'00"](S:3/P:4)

[5]ト長調 Andante maestoso:壮麗なオルガン曲、または合唱曲の雰囲気。指の速い動きはないが、レガート奏とバランスが難しい。[3'20"](S:3/P:2)

[6]ハ長調 Allegro commodo:第1の部分の「子守唄」のように静かに揺れ動く主題は、半音階的に下降する内声を伴い、どこか懐かしい雰囲気も備えているが、この部分の後半は穏やかなだけでなく、転調も含め、ヘミオラや頻出するsfやアクセント記号が激しさも感じさせる。第2の部分はイ長調で、16分音符群の動きによる軽快な牧童の笛の音のような旋律が両者のカノンにより展開される。Sの左手によるイ音のオルゲルプンクトが牧歌的な雰囲気を高めている。その後、第1の部分の前半、ロ長調に移調されて短縮され、カノンの主題が少し変形された第2の部分、第1の部分の後半、弱音中心のコーダを経て掻き消えるように終わる。[6'00"](S:4/P:4)
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ワルツ集 Op.53 (全6曲)
Walzer[1887刊]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★各曲がそれぞれ変化に富み、極めて親しみやすく楽しいワルツ集。3、6以外はP、Sが見開き2ページに収まる小品集。本来は続けて演奏されることが想定されているようだが、各曲とも完全に終止していて、1曲だけ取り出すことも可能。ヘミオラの多用がリズム上も変化をもたらし、Sも伴奏の役割だけに止まらず、魅力的な旋律を弾く機会が多い。

[1]ハ長調 Allegro comodo:旋律のスラーで結ばれた8分音符2個のリズムが歯切れ良く生き生きとして、輝かしく明朗な曲想。後半のSによる和音も幅広く、響きに重量感もある。[0'50"](S:2/P:2)

[2]ヘ長調 L'istesso tempo:休符が挿入されて一息入れる旋律が特徴的。滑らかな旋律と、より滑らかな旋律のPとSによる二重唱。[1'15"](S:3/P:3)

[3]ニ短調 Agitato e grazioso:Pの右手のみにより単音で「薄く」歌い出される感傷的な旋律が装いを変えて3回登場し、その間に厚い和音群による切迫したリズムを持つ部分が置かれる。[1'50"](S:3/P:3)

[4]ト長調 Tempo Ⅰ:あたかも旋回する動きような民族舞曲風の旋律を持ち、両者の手の交差、カノン、ppからffまでの幅広い音量の変化が特徴。Sは右手の重音の進行がやや難しい。[1'55"](S:4/P:3)

[5]ハ長調 Poco maestoso:1拍目のsfと連打和音が宮廷風の威厳を感じさせる。[1'45"](S:3/P:3)

[6]ヘ短調―ハ長調 L'istesso tempo:さざ波のような動きの旋律を持ち、ロマンティックでデリケートな曲想。続いてコーダに移り5、2、1曲目が短く回想されて華やかに終わる。[2'40"](S:3/P:3)
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ワルツ集 Op.83(第2組)(全7曲)
Walzer(Zweite Folge)[1895]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★各曲がそれぞれ変化に富む、ロマンティックで洗練されたワルツ集。第2、5曲は次への短い「ブリッジ」を持ち、全曲続けての演奏が想定されているが、1曲だけ取り出すことも可能。対位法的な書法が多用され、ヘミオラの多用がリズム上も変化をもたらし、Sも伴奏の役割だけに止まらず、Pと手を交差させて魅力的な旋律を弾く機会も多い。

[1]変ロ長調 Allegro comodo:レントラー風だが優美な曲想。内声に半音階的な動きが多く、Sによる低音域の和音の動きが、さわやかな空気の明るい景色の中に、小さな、しかし濃い影を落とす。[1'00"](S:2/P:2)

[2]変ホ長調:一方が2度下降する2音、「ため息」の音型の連続を、他方は静かに上昇する旋律を奏する。郷愁に満ち、懐かしい昔を回想する二重唱。エコーのようにppで反復される小節も、変ト長調への転調もロマンティックな気分を高める。[2'45"](S:2/P2)

[3]ハ長調 Vivace:連打(和)音やff、sfが目立ち、華々しく力強い曲想で豪快な響きを持つ。[0'45"](S:2/P:3)

[4]ヘ短調 Moderato:Sによる重々しい冒頭や、旋律の装飾音からはハンガリー風の趣が感じられる。変ニ長調の中間部では両者の手を交差させてSが気楽で優美な旋律を弾き、Pがそれを弾き継ぐ。[2'10"](S:2/P:3)

[5]変イ長調 Allegro comodo:両者が手を交差させてSは穏かな半音階的な旋律を、Pは1曲目と関連のある繊細な動きの旋律を弾く、表情豊かな二重唱。中間部はヘミオラの連続。[1'20"](S:3/P:3)

[6]ハ短調 Vivace:スタッカートによる軽快で俊敏な旋律を持つ。曲集中、最短の曲だが中間部はつかの間の明るさと甘美さがある。[0'30"](S:2/P:4)

[7]変ロ長調 Più lento, e con sentimento:長調と短調の間を微妙に移ろい、弦楽合奏風のゆったりとして粘性の強い旋律が多声的に歌われる。両者の手の交差のある半音階的進行による深刻な部分の後では、PとSとで旋律が入れ替わる二重対位法が使われている。その後、テンポを速めて1曲目が再現されて力強く華やかに終わる。[2'25"](S:3/P:3)
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変奏曲 Op.85
Variationen[1895]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★変ロ長調:明朗で落ち着いた雰囲気の、スラーとスタッカートによって軽く区切られた行進曲風の8小節の2/4拍子の主題前半は、Sのソロで弾き出されると、次にSの伴奏上でPによって反復され、続く8小節の主題後半では変ロ短調〜変ホ短調と一時的に転調する。第1変奏では16分音符群の登場によって動きが出ると同時に多声的に展開され、ややテンポを緩める第2変奏ではS、P間の親密な対話となり、第3変奏は6/8拍子となりシンコペーションやヘミオラを含む大胆なリズムと跳躍の多い旋律が躍動する。第4変奏は3度と6度による重音の進行で先の変奏とは一転して柔和な響きとなる。2/4拍子の第5変奏はSの右手が主旋律を弾き、Pの両手とSの左手が組み合わされて一貫した3連符のリズムによるデリケートな対旋律を伴う。ここでのPの両手はリズミカルに、快活に鍵盤上を上下する。変ロ短調の第6変奏はSのソロで始まり、バスで主音に流れ込むシュライファーのような3音の急速な動きや、アクセント、sf、シンコペーションのリズムが激しい熱気を噴き上げる。6/8拍子の第7変奏も変ロ短調に始まり、熱気を保ったまま歯切れ良く和音を刻み、ヘミオラによって気分を変えて変ロ長調と2/4拍子を準備する。夜空に星々をまき散らすかのような、スタッカートによる軽快で開放的な第8変奏を経て、最後の第9変奏は回帰した主題が対位法的に処理され、重厚に盛り上がった後、静かに終わる。親密な優しさ、スケールの豊かさ、ロマンティックな激情、多彩な変化と確実な書法を備えた、正に「巨匠」の手による作品。[11'40"](S:4/P:5)
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変奏曲 Op.86
Variationen[1896]
連弾(オリジナル) =Rieter-Biedermann

★ニ短調:8小節の主題は、2/2拍子、AndanteでSのソロで奏され、音階的に重々しく下降し、半音階を交えて5度上昇するシンプルなもので、これがバッソ・オスティナート(固執低音)となり、後に17の変奏が続くパッサカリア的な変奏曲。Sの左手はひたすらこの主題を奏し続け(例外的に第15、16変奏は主題がPに移る)、第9変奏のMeno mosso、最後の変奏のLargo以外はテンポの変化の指示はないが、全曲は変化に富む上に統一感もある。第5変奏での両者の掛け合いは連弾の楽しみを高め、第7、8変奏では運動性が増し、第9変奏でテンポを緩め、その後、終曲に向かって悲愴な激情がうねるように盛り上がる。コンパクトにまとまり、極めてロマンティックで親しみやすい変奏曲。[6'00"](S:4/P:4)
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ポルディーニ Poldini, Ede(Eduard) (1869~1957) ハンガリー
風俗的小品集 Op.12(全5曲)
Genrestücke[1896刊]
連弾(オリジナル)=Julius Hainauer

★各曲の曲想,音域,音量の変化の振幅が大きく,弾いても聴いても気軽に楽しめる,極めて親しみやすい,色彩的で洒落た音による細密画集。アンコールに1曲だけを取り出すのも効果的。ハイナウアー社の楽譜の表紙を眺めるのも楽しい。

[1]湖畔にて Am See 変ホ長調 Andantino: 6/8 拍子の典型的な「舟歌」。主部のPによる伸びやかな旋律が特徴。Sが旋律を担う中間部では転調に伴って心も波立つ。[4'00"](S:3/P:2)

[2]滑稽な物語り Curious Geschichte イ長調:半音階的に下降する4小節のフレーズが,調を変えながら変奏される愉快な作品で,リムスキー=コルサコフらによる「24の変奏曲と終曲」を連想させる。音域やテンポ,音量の変化が大きく,最後はfffで鍵盤の最低音のA音が登場。[1'30"](S:3/P:3)

[3]人形のワルツ Puppenwalzer 変ホ長調 Tempo di valse:有名な「踊る人形」の姉妹編とも言うべき作品で旋律も似ているが,よりメカニカルな曲想からは,いかにも人形の動きが感じられる。低音域の音が少なく,響きもかわいらしい。(2'25")[S:2/P:2]

[4]ボスポラスの夜曲 Nachtmusik am Bosporus ホ短調 Allegretto:ソフト・ペダルを踏み通し,ほぼ全曲に渡ってSはppp ,Pはppの指示がある。デリケートでエキゾチックな響きの軽快な小品。8小節ずつのA-B-A-B-Aのシンプルな構造で,Sが同じ和音を弾き続けるBでは右ペダルも踏み通す。[1"35"](S:2/P:2)

[5]ジプシー風 Zigeunerisch イ短調-ハ長調 Con fuoco - Più lent : 活力に満ちた情熱的な旋律を持ち,Pによるグリッサンドが華やかさを添える。反復が多く,効果的な演奏には演出上の工夫が必要。[3'30"](S:2/P3)
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5つの演奏会用小品 Op.13(全5曲)
Fünf Vortragstücke [1896刊]
連弾(オリジナル)=Julius Hainauer

★5曲中,2曲が異国趣味の作品であることも含め,前述の「風俗的小品集 Op.12」と同傾向の作品。

[1]小姓の歌 Pagenlied ハ長調 Allegretto:Sによる軽快で活気に満ちたリズム上に,Pが陽気な旋律を奏する。その楽しい旋律の魅力は,ポルディーニが数々の人気オペレッタの作曲家であった事を十分に納得させ得る。[1'40"](S:2/P2)

[2]アンダルシアの女 Andalusierin ホ短調 Vivo - Tempo di Mazurka:弱音中心のひっそりとした曲想で,中間部の旋律にはスペイン情緒が漂う。[2'40"](S:2/P:2)

[3]キルギスの剣舞 Kirgisischer Waffentanz イ短調 Allegro moderato:力強いリズムの勇壮な舞曲。Sの左手のオクターヴの進行,右手の厚い和音が迫力を増している。[2'00"](S:3/P:3)

[4]屋根の上の雀たち Die Spatzen auf dem Dache へ長調 A11egretto mderato:主部は軽快なスタッカートのかわいらしい曲想で,PとSとの掛合いが楽しめる。中間部はSのシンコペートされた和音による滑らかな伴奏上に,Pが晴れやかな旋律を奏する。[2'40"](S:2/P:2)

[5]紡ぎ歌 Spinnlied 変イ長調 Vivo:Sが素早く軽快で旋律的な動きを奏し,Pは伸びやかな旋律を柔和に奏する。中間部ではPも一部で素早い動きに参加する。[4'05"](S:3/P:2)
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2台のピアノのための練習曲(シューベルトの即興曲 作品90-2による)
Studie für 2 Klavier (über das Impromptu von Fr. Schubert, Op.90 No.2)[1902刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Julius Hainauer

★変ホ長調 Allegro:2台のピアノ間の掛合いが楽しい上,原曲の素早い動きの旋律にオクターヴや3度,6度を重ねた響きが華やかさと色彩感を増す。口短調の部分で,はじめの(変ホ長調の)動きを転調させて2つの旋律を同時に出したり,「さすらい人幻想曲」の第3楽章の旋律を加える等の仕掛けも実に効果的で面白く,この種の編曲としての成功作。原曲そのものに素早く精密な動きが要求されるため,I,IIともに少なくとも原曲が弾ける力が必要。タイトル通り,細かい動きと表情をきちんと合わせるための実に有益な練習曲だが,単なる練習曲と見なしてしまうのは,誠にもったいない佳品。[4'00"](I:4/II:4)
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