アルカン Alkan, Charles Valentin (1813~88) フランス
終曲 Op.17
Finale[1838頃]
連弾(オリジナル)=Costallat&Cie.

★ニ短調―ニ長調 Assez vite:力強く快活な軍隊行進曲風の曲想で,Sも力強い旋律を弾く。4手ともに連打音が頻出し,4手は接近しがち。(3'00")[S:4/P:4]
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「ドン・ジョヴァンニ」による4手のための幻想曲 Op.26
Fantasie à 4 mains sur Don Juan[1844刊]
連弾(オリジナル)=Bureau Central de Musique

★リストによる数々の作品に代表される,人気の高いオペラの旋律に基づく華麗なパラフレーズは19世紀中に広く流行したが,この作品は数あるパラフレーズ中でも,最も技巧的な作品のひとつ。Pの両手による厚い和音によるトレモロと,Sの両手によるトリルと音階の進行という,「地獄」の雰囲気を彷彿とさせる劇的なホ短調の序奏に始まり,モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の1幕の終りの舞踏会の場面で,レポレッロによって歌い出される「さあ,こちらへおいで下さい」のテーマ(ハ長調)に基づく5つの変奏に続く。イ短調の第1変奏からPには至難な技巧が要求され,特に速い動きと器用さが必要。へ長調の第2変奏ではP,Sともにオクターヴの技巧が要求される。二短調~二長調の歌謡的な第3変奏では技巧的な面は後退するが,変ロ長調の第4変奏はまさに「連弾のための至難な練習曲」で,大半が4手ともにユニゾンによる急速な動きの連続。卜短調の第5変奏は深刻な曲想となり,再びハ長調に転じて「酒の歌」による終曲が軽快に始まり,徐々にテンポと音量を上げて壮絶で巨大なクライマックスに到達する。最後には41小節間に渡ってペダルを踏み続ける指示もある。音が多くて厚く,技巧的にもバランスの取り方も非常に難しい。特殊な調号の書き方にも注意が必要。(13'00")[S:5/P:5]

***imslpには上記のほかに「サルタレッロ Saltarelle」(「チェロとピアノのための協奏的ソナタ Op.47」の終曲のアルカン自身による連弾用編曲)のファイルがあるが,誤って P.11が2回スキャンされているため P.13が欠落しており,ここでの記述を見送った。
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アレンスキー Arensky, Anton (1861~1906) ロシア
リャビーニンの主題による幻想曲 Op.48
Fantasia on themes of Ryabinin [1899] 2台ピアノ(自編)=Jurgenson
【原曲】ピアノと管弦楽

★ホ短調 Andante sostenuto-Allegretto-Tempo I: ロシアの英雄叙事詩ブィリーナの歌い手,イヴァン・リャビーニンの歌をモスクワで聞いたアレンスキーが,その旋律を書き留め,後にこの作品の主題とした。重々しいオーケストラ(II)に続き,ソロ(I)による幅広く華麗なアルペッジョに乗せた,いかにもロシア風の濃厚な抒情に満ちた感傷的な主題が登場する。中間部はリズミカルで軽快。後半はさらに盛り上がり,ソロによる鍵盤の幅一杯のアルペッジョに乗って,はじめの主題が II によって堂々と奏される。Iは連続オクターヴや幅広いアルペッジョのほか,素早い動きが必要とされる。(9'00")[I:5/II:3]
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12の小品 Op.66(全12曲)
Douze pièces [1903]
連弾(オリジナル)=Jurgenson

★晩年の傑作。この曲集中の作品には,旋律の進行によって二度の響きが生じる場面が多く,それがある瞬間には甘美に懐かしく,またある瞬間には痛切に悲しく響く。健康面や生活状況の悪化からであろうか,曲想は枯淡の境地に達している。「中くらいの難度」の表記がある。レッスンや発表会に,またリサイタルのアンコール・ピースとしても効果的。

[1]前奏曲 Prélude ホ短調 Adagio:バロック風のスタイルによる,とてもロマンティックな曲想。哀愁と孤独が色濃く感じられる。(2'30")[S:2/P:2]

[2]ガヴォット Gavotte 卜長調 Allegro non troppo :繊細で優美。陽射しとその温もりが流れる雲によって遮られるように,長調と短調の間を滑らかに移ろう。(1'30")[S:2/P:2]

[3]バラード Ballade 卜短調:前後の部分は歯切れのよい行進曲風。対照的に中間部は伸びやかな旋律を持つ。(2'45")[S:2/P:2]

[4]メヌエット Menuetto 変ホ長調 Allegro non troppo:可憐な旋律を持つ。中間部のPとSによるカノンの動きが面白い。(1'30")[S:2/P:2]

[5]エレジー Elégie ハ短調 Andante:二度の甘美で痛切な響きが際立つ。中間部の耽美的な和音は,2台のピアノのための「組曲 第4番」に通じるところがある。(2'40")[S:2/P:2]

[6]慰め Consolation ト長調 Allegretto:極めて繊細に澱みなく流れる即興曲風。(0'45")[S:3/P:3]

[7]ワルツ Valse ハ長調 Allegro non troppo:明るく優美な中にも,透明な憂いが混じる。生命力が昇華しつつ減衰していく風情。(3'20")[S:2/P:2]

[8]行進曲 Marche 卜長調 Allegro:活発で精気に満ちている。中間部のSは,ショパンの「英雄ポロネーズ」の左手のオクターヴの進行さながらの迫力。(3'00")[S:2/P:2]

[9]ロマンス Romance ハ長調 Andante:曲線的でロマンティックな旋律。完全に四声体で書かれ,1手が1声を担当するので,バランスや表現の格好の練習にもなる。(1'00")[S:2/P:2]

[10]スケルツォ Scherzo ハ短調 Allegro:2台のピアノのための「カノン形式の組曲」中の「小スケルツォ」と主題のリズムに共通点がある。主部の中間部の夢見るような変ハ長調の部分が印象的。 (5'00")[S:2/P:2]

[11]子守歌 Berceuse 変口長調 Andantino:限りない優しさに満ち,柔らかに下降する動きが穏やかな眠りを誘う。(3'00")[S:3/P:3]

[12]ポルカ Polka へ長調 Allegro non troppo:リズムや旋律が軽快なだけでなく,響きも明るく澄んでいる。(1'00")[S:2/P:2]
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アーン Hahn, Reynaldo (1874~1947) フランス
アイルランドの歌による3つの前奏曲(全3曲)
Trois préludes sur des airs Irlandais[1895]
連弾(オリジナル)=Heugel

★イギリスの作曲家,指揮者のチャールズ・スタンフォード編による歌集 "Songs of old Ireland:A collection of fifty lrish melodies "(1882刊)中の作品に基づく。

[1]小さな赤いヒバリ The little red lark ト長調 Allegretto moderato:主題はシンプルだが,その扱いは極めて入念で響きもピアニスティック。(1'05")[S:2/P:3]

[2]私の恋人はイチゴノキ My love’s an arbutus ロ長調 Grazioso:アルフレッド・グレーヴスによる歌詞は,キラーニー地方のイチゴノキに例えて,その恋人を称えている内容。民謡に伴奏付けしただけの作品ではなく,短い作品ながらも幻想曲風の自由な扱いが光る。(1'30)[S:3/P:3]

[3]柳の木 The willou tree ハ短調 Presque lent,avec un sentiment très pathétique:ゆっくりとした旋律,哀調を帯びた和声。 P,S ともに個々の技術的には全く難しくないが,連弾曲として効果的に弾くのはかなりの経験が必要。(1'30")[S:2/P:1]

アリアと牧歌の形式による小品
Pièce en forme d'aria et bergerie[1896刊]
連弾(オリジナル)=Heugel

★あたかも「前奏曲とトッカータ」のような擬バロック的小品。短調,Molto adagio の前半は,おもにP自身でメランコリックなカノンを弾く。特にこの前半は,非常にロマンティック。卜長調,Quatre fois plus vite の速い後半も,やはりP自身によるカノンの動きが多く対位法的。P,Sともに素早く軽快な動きが必要。(3'00")[S:4/P:4]

メランコリックなカプリス
Caprice mélancolique[1897]
2台ピアノ(オリジナル)=Heugel (I・II分冊)

★嬰へ長調 Andantino poétique:タイトルからは運動性に富んだ気紛れな曲想を想像するかもしれないが,「ロマンティックなファンタジー」とでもしたほうが,ふさわしように思う。一方のピアノがとてもさわやかでロマンティックな旋律を弾き,他方が美しい響きのアルペッジョやトリル,対旋律などで優美な装飾を加える,とりとめのない素敵な夢のような作品。2台のピアノの対話や掛合いの機会がこれほど多い作品も珍しいほどで,ピアノ・デュオにこうした楽しみを求めるのに最適。(3'40")[I:4/II:4]

子守歌集(全7曲)
Berceuses[1904刊]
連弾(オリジナル)=Heugel

★親密で穏やかな雰囲気の,繊細な子守歌の曲集。全曲中,f の指示は2曲目に一箇所登場するのみ。カノン風の動きが多く使われている。

[1]雲のない日の子守歌 Berceuse des jours sans nuages イ長調 Andantino:2/4拍子でメッゾ・スタッカートの伴奏による,民俗舞曲風。短い中間部のPとSによる反行する動きがおもしろい。(0'50")[S:2/P:2]

[2]クリスマスイヴのための子守歌 Berceuse pour la veille de Noël へ長調 Allegretto molto tranquillo:流れるような旋律の中に,落ち着いた喜ばしさがある。多声的でカノンの動きが多い。(1'30")[S:2/P:3]

[3]海の子供のための子守歌 Berceuse pour les enfants de marins ハ短調 Un peu lent:PとSは互いに先になり,後になりしながら,密やかなカノンを奏する。(0'55")[S:2/P:2]

[4]秋の夕暮れの子守歌 Berceuse des soirs d'automne 変イ長調 Tranquille,discret:穏やかで控え目な優しさに満ちている。(1'50")[S:2/P:3]

[5]「セルフィアーナ」クレオルの子守歌 "Selfiana" Berceuse créole ホ長調:快適に揺れるようなリズムに乗って,南国の民謡風の旋律が流れる。旋律が音階的に下降する中間部が神秘的。「セルフィアーナ」は人名の固有名詞であろうか。(1'10")[S:2/P:2]

[6]物思わしげな子守歌 Berceuse pensive イ短調 Andantino legato:3連符による行きつ戻りつするターン音型が,答えが見出せないまま物思いに耽っている様子を表しているようだ。Pは右手のみで,この作品は3手用。(1'00")[S:3/P:2]

[7]優しい子守歌 Berceuse tendre 卜長調 Allegretto moderato:多声的な旋律はいずれも温和な透明感に満ちている。(1'10")[S:3/P:3]

カール・ライネッケの歌曲による子供の変奏曲
Variations puériles sur une mélodie de Carl Reinecke[1904]
連弾(オリジナル)=Heugel

★変ホ長調 Andantino espressivo:弾くのをためらうような2小節の序奏に8小節のシンプルな主題が続く。第6変奏まではそれぞれ8小節のため,一気に変奏が進行するが,第7変奏は14小節。その後の第10変奏までは16,32小節と規模が大きくなる。軽快で素早く動き回る第11,12変奏で再び8小節となり,落ち着いたコーダを経てテンポも次第にゆっくりとなり静かに終わる。各変奏は短いうえ,各種の技術的な課題ともなり,学習用としても有益。原曲はライネッケの「子供の歌曲集 Op.91-3」。(6'00")[S:3/P:3]

傷病兵の眠りのために(全3曲)
Pour bercer un convalescent[1915]
2台ピアノ(オリジナル)=Heugel

★深い安らぎと透明な悲しみに満ちた小品集。第306歩兵連隊の軍曹として,フランス北東部の激戦地,エーヌ(Aisne)の戦闘で重傷を負ったアンリ・バルダックに捧げられている。

[1]変ロ長調 Andantino sans lenteur:II による,静かに呼吸するかのような伴奏の上に,Iが息の長い旋律をやはり静かに弾く。(1'25")[I:2/II:3]

[2]嬰へ短調 Andantino non lento:旋律線が常に下降線を描くワルツ。悲しみの中にも憤りが感じられる。(1'25")[I:4/II:4]

[3]イ長調 Andantino espressivo:9/8 拍子の流麗なリズムに乗って,安らぎに満ちた旋律が歌われる。(1'10"[I:3/II:3]

ほどけたリボン(全12曲)
Le ruban dénoué[1915]
2台ピアノ(オリジナル)=Heuge

★ピュイグ=ロジェと高野耀子の演奏による fontec盤のタイトルは「ひもときし手紙のリボン」。楽譜の表紙には「2台のピアノのための12のワルツと1曲の歌曲(『くちづけのゆえに』,ヴィクトル・ユゴー詩)」と記されている。各曲はそれらの詩的なタイトル通りの,いずれも極めて濃厚なロマンと豊かな情感をたたえた作品で,ピアニスティック。

[1]気まぐれな運命の戯れ Décrets indolents du hasard 嬰へ短調 Moderato:3拍子と(3拍)4連符が交錯する,揺れるようなリズムを持つ。非常にロマンティックな曲想。(1'30")[I:3/II:3]

[2]アルビの黄昏 Les soirs d'Albi 嬰へ長調 vif et leste:極めて活発で明快。ラテン・アメリカの民謡風の旋律を持つワルツも登場する。(2'20")[I:5/II:5]

[3]思い出・・・未来・・・ Souvenir…Avanir… 二長調 Mouvt de valse lente:まさしく「懐かしい甘い記憶」と「飛翔する夢と希望」といった風情。(2'15")[I:3/II:3]

[4]愛と哀しみの舞い Danse de l'amour et du chagrin ト短調 Même mouvt que la précédente:同形のフレーズが調を変えて繰り返され,その反復に連れて哀しみが増す。次のワルツに続く。技術的には曲集中,最も易しい。(1'30")[I:2/II:2]

[5]甘き疲れ Le demi-sommeil embaumé 卜長調 Plus lent:旋律も和声も極めて半音階的。途中,微かにラテン・アメリカの香りを感じさせるシンプルなワルツも登場し,曲想も多彩でリズムも複雑。(5'50")[I:5/II:5]

[6]失われた指輪 L'anneau perdu Molto vivo:2拍子の奇想曲風のリズミカルな部分と滑らかな旋律的な部分を持つ。嬰へ短調で始まり,頻繁に調性が変わる。(1'40")[I:3/II:3]

[7]不安と希望の舞い Danse du doute et de l'espérance 変ホ長調 Moderato:シューベルト讃。転調が絶妙。(1'55")[I:4/II:3]

[8]聞かれた鳥籠 La cage ouverte ロ長調 Molto animato:明朗で快活。Iのみが2拍子となる小節があり,柔軟なルバートの効果がある。(2'20")[I:4/II:4]

[9]雷雨の晩 Soir d'orage 嬰ト短調 Misterioso, non troppo lento:光る稲妻,轟く雷鳴,といった荒々しさはないが,終始,憂鬱に弱音で奏される。(2'35")[I:3/II:3]

[10]口づけ Les baisers ホ長調 Appassionato, non troppo presto:揺れるようなリズムで始まり,2台のピアノの親密な会話,1曲目の回想と変化に富む内容。次の曲に続く。(2'50")[I:4/II:4]

[11]微笑 Il sorriso ホ長調 Stesso tempo:2/4拍子の旋律に3/4拍子の伴奏が奏される。装飾音や3連符を含む旋律は,やはりラテン・アメリカの雰囲気だが,静かで優雅。より穏やかな,子守歌風の中間部を持つ。(3'10")[I:3/II:3]

[12]ただ一つの愛 Le seul amour 変イ長調 Presque lent,très senti:じっくりと時間をかけて上昇していく主題が反復され,曲想も情熱的に盛り上がるが,最後は静かに収まる。(5'00")[I:5/II:5]

イェンゼン Jensen, Adolf (1837~79) ドイツ
3つのピアノ小品 Op.18(全3曲)
Drei Klaviersücke[1864刊]
連弾(オリジナル)=Universal

★長い生涯には恵まれないまでも,多作なイェンゼンの連弾作品中,初期の力作。「小品」というタイトルながら,特に2, 3は長大なだけに,飽きさせないで聴かせるためには演奏上のさまざまな演出が必要。

[1]スケルツォ Scherzo ト長調 Lebhaft:軽快なリズムの,いかにもPとSとの「戯れ」のような曲想。優美な旋律のトリオはかなり長く,徐々に快活な雰囲気に復帰する。(4'40")[S:3/P:3]

[2]子守歌 Wiegenlied ハ長調 ln zarter, ruhig gleitender Bewegung:繊細で流麗な旋律に満ちた長大な作品。細かい動きの伴奏型や情熱的な盛り上がりは「舟歌」の趣。(6'00")[S:3/P:3]

牧歌 Pastrale 変イ長調 Nicht zu schnell, mit heiterer Grazie:3拍子ののどかなレントラー風。長い絵巻物を見るように,次々と場面が移り変わる。低音域で音が厚い部分もあり,バランスには注意が必要。長い作品(見開きでP,S合計18ページ)だけに,舞曲に息づくリズムの面白さを表現する工夫が必要。(7'30")[S:3/P:3]

牧歌集 Op.43(全8曲)
Idyllen[1873刊]
連弾(オリジナル)=Universal

★2手版もあり,そちらを「3つの牧歌」としている資料もあるが,初版を出版したハイナウアー社の19世紀のカタログでは,両版ともに全8曲。ピアニスティックなうえ,響きは多彩で曲想は極めてロマンティック。各曲の曲想も対照的で,響きも多様であり,連弾曲としての書法も申し分なく,注目に値する傑作。

[1]黎明 Morgendämmerung 口長調 In erwartungsvoller Erregung:冒頭には古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人,アイスキュロスによる「アガメムノン」中の「ことわざ通りに,母なる夜から喜びの知らせが来たるように。~」という一節が掲げられている。タイトル通り,光りの階調が刻々と移り変わる雄大な夜明けの景色を眼前にする感があり,輝かしいクライマックスを迎える。(4'30")[S:4/P:4]

[2]野の,森のそして草原の神々 Feld-, Wald-und Wiesengötter 嬰へ長調 Shnell,voll Anmut und Leben:黒鍵の使用が多いだけに響きは極めて輝かしく,軽快な曲想のスケルツォ風の楽章。まるで優美なバレエ音楽のようで,P,Sともに軽快で素早い動きが要求される。(6'40")[S:4/P:4]

[3]森の小鳥 Waldvölein 二長調 Lebhaft und leicht:ギリシャ最大の喜劇作者アリストパネスによる「鳥」から,「愛しい妻よ,さあ起きなさい!清らかな歌の泉を湧き出させよう。・・・おお,父なるゼウスよ!小鳥はなんと楽しそうに歌うのか。甘い歌がなんと大小の葉を砂糖で包むのか」の部分が掲げられている。短い作品だが軽妙で愛らしく,また短調に傾きやすく,憂いもたたえている。終り近くのPによって2羽の鳥が鳴き交わす部分(2手版にはない)は秀逸。(1'30")[S:3/P:3]

[4]ドライアッド Dryade ト長調 Sehr lebhaft und zart:ギリシャ神話の木の精。Sによる,ショパンの「24の前奏曲 Op.28」の3曲目と同様のつぶやくような伴奏型の上に,Pはさわやかで明朗な旋律を奏でる。(2'50")[S:3/P:3]

[5]真昼の静けさ Mittagsstille 変ホ長調 In ruhiger Bewegung:PとSによる表情豊かで抒情的な旋律のデュエット。特に後半,PとSとが手を交差させて弾く部分以降は非常に甘美なうえ,陶酔的でロマンティック。アンコール・ピースとしても極めて印象的,効果的な作品。「風にそよぐ松の樹下に来たりて座りたまえ。小川の水音にパンの笛は鳴り,魔力によって深い眠りに陥る。」というプラトンの言葉が掲げられている。なお,この出典は「ギリシャ詞華集(Griechische Anthologie)」。(5'00")[S:3/P:3]

[6]夕方近く Abendnähe 口長調 Mä ßig bewegt,ausdrucksvoll:「~我らは厚く敷かれたイ草と摘まれたばかりの葡萄の葉のベッドに安らかに横たわった。頭上にはポプラと楡の葉が揺れ,ニンフの岩屋からは清い泉が流れ,鳥たちは歌い,蜂は戯れる。~」といった,牧歌の元祖とも称されるヘレニズム時代の詩人テオクリトスの「エイデュリア(小景詩)第7歌」からの詩が掲げられている。Pによる情緒纏綿とした旋律。Sはほとんど伴奏を担当するが,伴奏型は極めて多彩で飽きさせない。(3'20")[S:3/P:3]

[7]夜(眠りの神と死の神。)Nacht(Hypnos-Thanatos.) ロ短調 Leidenschaftlich: 全編,暗い情熱に満ち,途中で何度も大きく盛り上がるが静かに始まり,静かに終わる。(4'00")[S:3/P:3]

[8]バッカスの祭り Dionysosfeier 口長調 Heiter belebt:アリストパネスの「雲」から,「来ませよ,松明に照らされて,パルナッソスの山峡の歓楽の夜にいます君よ。デルフォイのバッカスの巫女たちを率いる,快楽の王ディオニュソスよ」の箇所が掲げられている。神事の始まりを告げるかのような格調高くさわやかなファンファーレで始まり,神々の祭りにふさわしい明朗で優美な,時にはユーモラスな旋律が次々に登場し,輝かしい響きで力強く終わる。(5'50")[S:3/P:3]

婚礼の音楽 Op.45(全4曲)
Hochzeitsmusik[1873刊]
連弾(オリジナル)=Hainauer,Universal

★ロマン派の濃厚な抒情に満ちた親しみやすい作品。Sも伴奏を担当するだけでなく,効果的で美しい旋律や対旋律を弾く機会が多く,P,Sともに楽しめる。また音が厚く,響きは多彩で艶やか。楽譜の扉にはアリストパネスの喜劇「鳥」の終り近くの,新婦の類稀れな美しさを褒めて婚礼を祝う内容の,伝令使の台詞が掲げられている。

[1]祝賀行列 Festzug ハ長調 Allegro risoluto:威厳に満ちた華やかなファンファーレで始まる明朗で快活な作品。中間部の陶酔的な高揚感が印象的。(3'40")[S:3/P:3]

[2]花嫁の歌 Brautgesang ホ長調 Con tenerezza:半音の動きを含んだ穏やかな表情の流麗な旋律と,スタッカートの記号が多く付けられた軽快な旋律を持つ。Sによる伴奏もメロディアスで,Pとのリズム的な連携が緊密。(4'30")[S:3/P:3]

[3]輪舞 Reigen 卜長調 Allegretto grazioso:Sの軽快で,しかも極めて多彩な伴奏に乗せて,Pが快活で輝かしい旋律を弾く。Pの両手は接近し,また連打音が多いため「指さばき」の器用さが必要。Sの対旋律も実に雄弁で楽しく,ピアニスティックな演奏効果も高い。Pによるはじめの旋律はシューマンの「アンダンテと変奏曲」中の一変奏を思わせる。(2'30")[S:4/P:5]

[4]夜想曲 Notturno ハ長調 Andantino espressivo:雄大なスケールを持ち,盛り上がりは熱狂的。管弦楽曲の編曲では,と思えるほど音が厚く響きも多彩。 4/4拍子で2分音符=76というテンポ指示はかなり速く,技術的には難しくなるが,それだけに曲想は引き締まる。(4'15")[S:4/P:4]

セレナード Op.59(全6曲)
Abendmusik[1877刊]
連弾(オリジナル)=Hainauer

★技術的に難しくなく,比較的短い作品による組曲。しかしPとSとの連携が精緻で両者の旋律的,リズム的な掛合いも多く,全6曲の調性や曲想も変化に富む。このうち,1,2番(全音ピアノ連弾ピース。タイトルは「セレナーデ」)は「事典」に掲載済み。

[3]へ長調 Allegretto:スタッカートや装飾音の多い軽快,快活な旋律を持つ。(1'25")[S:2/P:3]

[4]ハ長調 Andantino:繊細なリズムによる穏やかな曲想。Sも旋律を弾いて活躍する。途中,情熱的に盛り上がるが静かに終わる。(2'00")[S:3/P:3]

[5]ホ短調 Moderato espressivo:Pがおもに32分音符による技巧的な動きの旋律を弾くエレジー風の曲想。PはSとの手の交差や自身の両手の交差がある。Pは旋律を機械的な動きを感じさせずに弾く工夫が必要。(2'20")[S:2/P:3]

[6]終曲 Finale ハ長調 Allegro ma non troppo:Sの軽快な伴奏に乗せて,Pが明朗,快活な旋律を弾く。響きも透明で輝かしい。Pは両手が接近し,また両手の滑らかな「弾き継ぎ」が必要。(2'00")[S:3/P:3]

人生の絵 Op.60(全6曲)
Lebensbilder[1877刊]
連弾(オリジナル)=Universal

★人生の様々な場面を音で描いた作品で,「人生に対して肯定的」に始まるが,最後の曲が極めて暗く絶望的なのは,イェンゼン自身の後半生の健康が害されていたためであろうか。

[1]騎士の間にて Im Rittersall 変ホ長調 Allegro festivo:付点リズムが多用された行進曲風の作品。充実した輝かしい響きで精力的に進行するが,堅苦しさは全くなく,後半には夢見るように甘美な部分も用意され,「夢と冒険に満ちたロマン的な物語」の始まりを告げる。コーダ以外の前半部,後半部とも反復される。(4'10")[S:3/P:3]

[2]泉で Am Brunnen ホ長調 Allegretto leggiero:清らかな泉が湧き出すかのような軽快な16分音符による音型が,PとSの間で受け渡される。終り近くは特にロマンティック。(2'25")[S:4/P:4]

[3]兵士の行進 Soldatenmarsch ト長調 Allegro comodo:快活な行進曲。曲のはじめに登場する,2拍目やその「裏」にアクセントを持つ旋律がユニーク。旋律のリズムが面白いが,それだけにPはリズムや3度重音の連続が難しい。またSは主に伴奏を担当するが,指の「置き換え」や少数ながら9度音程の和音もある。変ホ長調のトリオで,Sは小太鼓のロールを奏する。(2'50")[S:4/P:4]

[4]夏の喜び Sommerlust へ長調 Allegro risoluto:Sによる,終始無窮動風の動きの伴奏に乗って,Pによる晴れやかな旋律が踊り戯れる。前,後半ともに反復する。(2'45")[S:3/P:3]

[5]ジプシーのコンサート Zigeunerkonzert イ短調 Presto molto agitato:名技的なヴァイオリンの旋律を模した作品。ジプシー風のエキゾチックなムード一辺倒ではなく,ドイツ・ロマン派風の抒情が混在している。Sは伴奏中心。(4'35")[S:3/P:3]

[6]野辺の送り Letzter Gang ハ短調 Grave:死者を悼む荘重な作品。この種の作品では常套的な「ピカルディ3度」ではなく,ハ短調の主和音による終止のため,絶望的な喪失感が増す。(5'00")[S:2/P:2]

シルエット Op.62(全6曲)
Silhouetten[1877刊]
連弾(オリジナル)=Universal

★イェンゼンが得意な描写的な作品。さまざまな人物像を音で描いており,それぞれの登場人物はユニークなだけに,各曲の変化の振幅は大きい。

[1]ふたりで Zu Zweien ハ長調 Andantino:伸びやかで明朗な旋律をPとSがカノン風に交互に歌う。和音が非常にロマンティック。(2'00")[S:3/P:3]

[2]コロンビーナ Colombina ハ短調 Risoluto:コンメディア・デッラルテでの女性の召使役。短調と長調が頻繁に交替し,焦燥と熱情に駆られて力強く疾走する。(1'30")[S:4/P:4]

[3]騒々しい子 Sausewind へ長調 Molto vivace:明るく軽快なワルツ。3小節のフレーズを中心とし,不規則な小節数のフレーズが多く,落ち着かない印象を与える。(2'00")[S:3/P:4]

[4]のんき者 Dolce far niente ホ長調 Andante quieto:連打音を多用した,温かい雰囲気の落ち着いた旋律が,ゆっくりと上昇する。 P,Sともにトレモロを使って大きく盛り上がる最後はまさに多幸多福の感が強い。(4'10")[S:3/P:3]

[5]酒飲み(エセレルス,司教座聖堂参事会員とフーノルド)Die Zecher Ethelerus, der Kanonikus und Hunord ハ短調 Allegro ma non troppo:ユリウス・ヴォルフ作「ネズミ捕り男」より。エセレルスとフーノルド(ネズミ捕り男)は登場人物。力強く,気紛れなスケルツォ風の作品で短前打音が付加されたSの伴奏によって滑稽味も増す。特にPは軽快で素早い動きが要求される。(3'00")[S:3/P:4]

[6]おばあちゃん Grossmütterchenト長調 Allegretto comodo:年を取っても衰えとは全く無縁のようで,旋律は快活でリズムは軽快,そして洒落た和音が使われた舞曲風の作品。(1'45")[S:3/P:3]

2つの小品 Op.65(全2曲)
Zwei stücke[1881刊]
連弾(オリジナル)=Universal

★2曲とも曲想はロマンティックで親しみやすいが,凝った和声やリズムを持つ作品だけに技術的にやや難しい。

[1]薔薇のからまるあずまや Die Rosenlaube イ長調 Con espressione:ロマンティックで流動的な旋律は,繊細に変化する後期ロマン派風の豊かな和声に支えられている。Sの伴奏型は多彩なだけに,さまざまなテクニックを要求される。(3'15")[S:4/P:3]

[2]オランダ人の踊り Holländer-Tanz卜短調 Moderato poco pesante:哀調を帯びた旋律とやや重々しいリズムの舞曲。ト長調の中間部以降,細分化されたリズムによる旋律も和声も民族色が濃厚となる。Pは5点イ音(88鍵での最高音の3度下)も使われるが,両手は接近しがち。(3'25")[S:4/P:4]

ヴィッテ Witte, George Hendrik (1843~1929) オランダ
ワルツ集 Op.7(全12曲)
Walzer[1868]
連弾(オリジナル)=Praeger&Meier

★ラームスに献呈された作品で,ブラームスの「ワルツ集 Op.39」へのオマージュ。ブラームスのわずか3年後の作品ながら,後期ロマン派風の甘美な香りが濃厚で,転調も興味深い。Sも単純な伴奏だけでなく,Pとの掛合いや模倣的な動きが多く,弾いても聴いても楽しく,そして極めて効果的な作品。各曲は長くても1ページ半程度。

[1]ロ長調 Commodo:軽い短前打音によって旋律の優雅さが増す。短い作品ながら,意外な転調を伴って大きく盛り上がり,燃焼度も高い。(1'00")[S:2/P:3]

[2]嬰へ短調 Tranquillo:淡い悲哀と感傷。S の右手による和音群から隠された旋律を探すのも一興。(1'15")[S:2/P:3]

[3]イ長調 Moderato resoluto:優美で可憐。S の短くさりげない音型が実に効果的。(1'00")[S:3/P:3]

[4]ホ長調 Poco vivace:PとSによる,この上なく優雅でロマンティックな音の戯れ。特に後半のPの3連符のリズムは楽しい。響きはキラキラと輝き,リサイタルのアンコールにも最適。(1'00")[S:3/P:3]

[5]卜長調 Allegretto con moto:流麗なリズムと旋律を持ち,ヘミオラの進行も面白い。2オクターヴに渡って順次進行で下降するバスも印象的。(1'25")[S:3/P:3]

[6]口短調 Animato assai - poco tranquillo:激烈な前・後半部とは対照的な穏やかなホ長調の中間部(ブラームスの「ワルツ集」の2番と同じモティーフ)を持つ。(1'35")[S:3/P:3]

[7]卜長調 Moderato espressivo:曲線的なモティーフがカノン風に処理され,豊かな情感に満ちて長調と短調の間を繊細に行き来する。PとSの手が交差する。(1'30")[S:3/P:3]

[8]ホ長調 Animato:優美な曲想でカノン風の処理が多い。PとSの手が交差する。(1'10")[S:3/P:3]

[9]イ長調 Allegretto commodo:Pによる繊細な動きの旋律の二重唱。微妙な明暗の変化は極めて詩的。(2'30")[S:1/P:3]

[10]二短調 Allegro impetuoso:シンコペートされた和音が,めくるめく華麗な激情の火花を散らす。(1'10")[S:4/P:4]

[11]二長調 Tranquillo:Pによるなだらかな旋律で静かに始まるが,音階的な上下動を繰り返しながらスケール豊かに盛り上がる(88鍵の最低音も使用)重厚なワルツ。最後は静かに収まる。(2'20")[S:3/P:4]

[12]ト長調 Allegro con fuoco:力強く輝かしい。全曲を弾いた場合,特に最後の4曲に特徴的な「繊細」「激情」「重厚」「光輝」の変化による演奏効果は極めて大きい。(1'05")[S:3/P:4]

ヴィルム Wilm,Nicolai von (1834~1911) ドイツ
ワルツ即興曲 Op.2
Valse-Impromptu[1877刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Ries & Erler

★変イ長調 Molto vivace e leggieramente:軽快でさわやかな主題を持ち,全曲を通してIとIIの掛合いが多く,楽しく親しみやすい曲想は2台ピアノ作品の入門用にも最適。中間部の息が長く滑らかな主題は,IとIIが旋律と伴奏の役割を交替しつつ展開されるが,主部ではIIは「従的」な役割を担っている。(3'30")[I:2/II:2]

序奏とガヴォット Op.60
Introduction und Gavotte[1887刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Ries & Erler

★ト短調 Maestoso ト短調 Animato:(複)付点リズムを多用した荘重で悲愴なバロック的な序奏に,短調だが活気のあるガヴォットが続く。卜長調,Meno mosso の中間部は典雅でかわいらしい。IとIIの組合わせが極めて巧妙で,効果的であるだけでなく弾いて楽しい作品。「ガヴォット」は3度重音の進行や和音奏がやや難しい。(8'25")[I:3/II:3]

変奏曲 Op.64
Variationen[1887刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Leuckart

★主題と10の変奏。ト長調,Andantino の瑞々しくロマンティックな8小節の主題がIによって弾き出されると,それに答えてIIが次の8小節を弾き継いだ後,両者の合奏となる。より曲線的な旋律の第1変奏でもこうしたIとIIの役割は維持され,IとIIとの軽快でリズミカルな掛合いとなる第2変奏,掛合いでも一転してゆったりとしてメロディアスな第3変奏と続く。精力的で大胆な足取りの第4変奏の後,荘重なテンポで途中で大きく盛り上がるト短調の第5変奏,再びト長調となり軽快な装飾音に彩られた第6変奏,オクターヴ以上の幅広いアルペッジョとオクターヴの進行を多用した堂々とした第7変奏,IとIIとの素早く力強い掛合いの第8変奏,澄んだ響きの子守歌風の第9変奏と続き,第10変奏では輝くようなアルペッジョとオクターヴの進行で最高潮に達した後,静かに収まり主題が回想されて終わる。各変奏毎にテンポが変化し曲想も極めて多彩であり,何よりも新鮮な抒情が際立つ作品。なお,この楽譜はスコア形式ながらI,IIそれぞれに専用(相手のパートは小さい音符で印刷されている)の贅沢な作り。(16'40")[I:4/II:4]

ワルツ Op.72
Walzer[1888刊]
2台ピアノ(オリジナル)=Leuckart(I・II分冊)

★変口短調 Andante sostenuto‐変ロ長調 Tempo di valse:いかにもドイツ・ロマン派的で重厚な序曲で,しかも管弦楽的で色彩感豊かな「Intrada(幕開き音楽)」に,華麗でピアニスティックなワルツ群が続く。イントラーダの重厚さと次々に表れるワルツ群の抜群の楽しさも対照的で,暗く深い森からいきなり遊園地に出る感がある。聴くだけでなく,IとIIの掛合いも多く,両者ともに弾いて面白い作品。華やかに盛り上がって終わる。(9'00")[I:4/II:4]

スイス組曲 Op.130(全7曲)
Schweizer Suite[1894刊]
連弾(オリジナル)=Gebrüder Hug

★ヴィルムの得意分野の一つである描写的作品。各曲はドイツ・ロマン派風で親しみやすく,また組曲として変化にも富む。スイスの名所旧跡を訪ねる連弾による「スイス旅行」の趣。

[1]黎明と日の出 Morgendämmerung und Sonnenaufgang へ短調‐へ長調 Grave:いかにも「闇」らしい低音で静かに始まり,さざめくようなトレモロとSの左手による半音階の悠然とした上昇で夜が明ける。次の曲に続く。(3'00")[S:2/P:2]

[2]登山への出発 Aufbruch in's Gebirge へ長調 Allegro energico:活気に満ちた行進曲。登山道と景色もさまざまに移り変わる。雄大にそびえる山を目指すのであろう。曲想も壮大。最後はテンポを速めて山頂に駆け登る。(4'00")[S:3/P:3]

[3]フィーアバルトシュテッター湖上で Auf dem Vierwaldstädter See ハ長調 Allegretto:ルツェルン湖での舟遊び。 6/8拍子の優美でロマンティックな舟歌。PとSの連携が極めて緊密で楽しく弾ける。(3'20")[S:3/P:3]

[4]ブリュムリスアルプで Auf dem Blümlisalp 変口長調 Animato:快活なレントラー風の舞曲。変ト長調の中間部はやや遅く滑らか。(4'45")[S:4/P:3]

[5]シヨン城 Schlßs Chillon へ短調 Andante:レマン湖に浮かぶように見える城。主部は憂愁と感傷に満ちたゆったりとした旋律が歌われ,古城の遠い歴史や伝説を思い起こさせる。激しい曲想の中間部を持つ。(3'40")[S:3/P:3]

[6]ラウターブルンネンの谷で lm Lauterbrunner Thal 変イ長調 Tranquillo assai:さわやかな曲想の舞曲風の作品。中間部では角笛が山々にこだまする。(2'30")[S:3/P:3]

[7]リュトリ Das Rütli へ短調‐へ長調 Moderato - Più animato:ウルナー湖畔に位置するスイス誕生の地「リュトリ」。ゆったりとしたファンファーレで始まり,徐々にテンポを上げて嵐のように激しく高まった後,民謡のメロディが力強く歌われて全曲の幕を閉じる。(4'10")[S:3/P:3]

ヴィルムス Wilms, Johan Wilhelm (1772~1847) オランダ
ソナタ Op.41(3楽章)
Sonate[1814]
連弾(オリジナル)=Peters

★P,Sともにソロを弾いたり,相手との対話や掛合い,模倣の機会が極めて多く,PとSが協奏曲のように扱われている華麗で実に楽しい作品。旋律の多くが古典派的,具体的にはモーツァルトやハイドンのそれに似てはいるものの,各部の大胆な変化や転調はロマン的な演奏がふさわしいユニークな作風である。現代とは異なる当時の楽器の特性として,低音域での密集和音が多く,その響きが重すぎないように弾く工夫が必要なのと,現代の機能的な楽譜に慣れた目には,リトグラフによる楽譜への多少の慣れが必要。コンサート用としてもレッスン用としても極めて貴重な存在である。

[第1楽章]変口長調 Allegro:生気に満ちて溌刺としたリズムと快活で伸びやかな旋律を持つだけに,P,Sともに音階的な動きには明晰なタッチと素早い指の動きが要求される。(11'40")[S:4/P:4]

[第2楽章]変ホ長調 Poco Adagio:多くの装飾音に彩られた表情豊かな旋律を備えている。全編が「歌」に満ちた艶麗な楽章だが,93小節以降のP自体による,そしてその後のPとSによるデュエットが特に魅力的。(7'00")[S:4/P:4]

[第3楽章]ロンド Rondo 変ロ長調 Allegro:実に快活で明快なロンド。華麗な名技的要素も十分に備えてPもSも奔放に遊び回り,主調から遠い口長調を経た後,賑々しい大団円を迎える。(6'40")[S:4/P:4]

ヴィンクレル Winkler, Alexandre (1865~1935) ロシア
バッハの主題による変奏曲とフーガ Op.12
Variations et fugue sur un théme de J.S.Bach[1906刊]
2台ピアノ(オリジナル)= Belaieff

★変ホ長調:主題はバッハの「無伴奏チェロ組曲 第4番 BWV.1010」の「サラバンド」。主題と7つの変奏に終曲のフーガが続く。 20世紀初頭の作品だが,完全にロマン派風で極めてピアニスティック。ベテルブルク音楽院の学生のための作品で,I とIIで役割を交替する箇所が実に多く,多種多様のピアノ技巧の練習曲ともなっており,また各変奏ごとにテンポと拍子が変化する。主題は原曲をほぼ忠実に扱っているが,第1変奏は旋律が流麗に変奏されて旋律や和声に半音階的な動きが多く使われる。第2変奏は軽妙でかわいらしいポロネーズ。清冽な水の流れのような,急速な音階やアルペッジョの軽快な上下行をIとIIとが弾き交わす第3変奏,ロマンティックで美麗な旋律をIとIIとが歌い交わすノクターン風の第4変奏,一転して重厚なカノン風の第5変奏。きびきびとした動きの輝かしいスケルツォ風の第6変奏と続く。第7変奏は変ホ短調の「嘆きの歌」となり,変ホ長調に転じてフーガに流れ込む。フーガの主題は起伏に富み,極めて躍動的な性格を備え,強拍に親指を指定したやや特殊な運指(多分,ヴィンクレル自身による)によって,主題の力強さが一層鮮明となる。技術的には難しいフーガだが,両手による疑似オクターヴのトリルのような派手な演奏効果を撒き散らしながら華々しく展開され,輝かしく壮大なクライマックスに到達する。(17'00")[I:5/II:5]

エルガー Elgar, Edward (1857~1934) イギリス
セレナード Op.20(3楽章)
Serenade[1892]
連弾(自編)=Breitkopf

★エルガー夫妻の3回目の結婚記念日の贈物としで作曲された作品。原曲に忠実な編曲で,3楽章ともにPとSの手の交差がある。まとまりが良く,連弾でも極めて効果的な作品。特にPの両手は接近しがち。

[第1楽章]ホ短調 Allegro piacevole:Sの連打音(ヴィオラ)を多用した伴奏に乗せて,Pが憂いと優しさに満ちた旋律(ヴァイオリン)を弾く。口長調の流麗な旋律の中間部を持つ。(3'10")[S:3/P:3]

[第2楽章]ハ長調 Larghetto:多声的な書法によるロマンティックな緩徐楽章。原曲の弦楽器による演奏の魅力に対抗するためには,特に「歌うタッチ」が必要。(4'30")[S:3/P:3]

[第3楽章]ト長調 Allegretto:12/8拍子の快適で穏やかなリズムを備えた前半に,第1楽章の回想である後半が続く。(2'20")[S:3/P:3]

オーンスタイン Ornstein, Leo (1892~2002) アメリカ
道化師のワルツ
Valse buffon[1921]
連弾(オリジナル)=Poon Hill Press(スコア形式)

★マグローによれば「2つの即興曲 Op.95」の2曲目。不協和音を多用した当時の典型的な前衛風の作品で,軽快なワルツのリズムに乗せて,終始,無調的なメロディが展開される。リズムが流麗であるだけに,メロディが皮肉にも感じられる。響きは時に刺激的で輝かしく,時に不気味でもある。P,Sともにオクターヴ以上の和音が頻出し,不協和音の多用により多数の臨時記号が生じ,特にPの右手はそうした和音による動きが多く譜読みも大変。164小節以降の手の交差をはじめ,Pの左手とSの右手の接近箇所も多く,技術的にも非常に難しい。強弱記号はごくわずかで,14小節の序奏後の主部にはわずか2箇所の p があるのみだが、全体的に弱音で弾かれるべき作品ではなく、迫力に富み名技的。(4'45")[S:5/P:5]

先生とロシア見物(全10曲)
Seeing Russia with teacher[1925]
連弾(オリジナル)=Poon Hill Press

★一方は固定されたポジションの5音で弾ける教育的な意図を持つ作品で,全曲が見開き2ページに収まっている。そしてその多くは,初歩の作品として異例なほど深刻で重苦しい雰囲気を持つ。オーンスタインはユダヤ系であり,恐らくポグロムをはじめとする数々のユダヤ人への迫害の記憶や知識,そして当時のロシアの民衆への視点が,単なる懐古趣味や観光旅行風にとどまらない,このユニークな作品を生んだのではなかろうか。

[1]古い村の教会 The old village church ハ短調 Moderato con moto:Sの伴奏の低音に多く使われるオスティナートや,後半の音階的に沈み込む動きが,曲想をいっそう暗く憂鬱なものにしている。(1'10")[S:2/P:1]

[2]木の人形を寝かしつける Putting the wooden doll to sleep ト短調 Andante con moto:優しい手触りが感じられるかのよう。中間部は少し明るい。(1'00")[S:2/P:1]

[3]そりすべり The sleighride 嬰ハ短調 Scherzando:Pは6度を中心とする重音の練習曲さながらで,指示通りのテンポでは至難。(0'35")[S:1/P:4]

[4]囚人たちのシベリアヘの出発 The prisoners leave for Siberia ハ短調 Grave:悲しみと嘆きは深く,心は鋭く痛む。(1'00")[S:1/P:3]

[5]回転木馬 The carrousel ニ長調 Vivo ma non troppo:明るい曲想で軽快なリズムの作品だが,pp で終わる様子は幻が消え去るかのよう。(0'55")[S:2/P:1]

[6]暗い森の中の農民 The moujik in the dark woods ホ短調 Andantino espressivo assai:暗く沈んだ色調。(0'50")[S:1/P:2]

[7]昔話を語る Tells an old tale ハ短調 Andantino espressivo:滑稽な話や懐かしい話ではなく,深い情感が込められた深刻な内容。(0'55")[S:2/P:1]

[8]馬を駆るコサックたち The cossacks ride by ヘ長調 Allegro ritomico:輝かしく力強い。Pは素早い和音の移動のテクニックが必要。Sは楽譜の運指に従うと「弱い指」でトリル音型を弾くので,指の独立と強化の練習にもなる。(0'45")[S:1/P:4]

[9]ドニエプル川のはしけ The barge on the Dniepel ホ長調 Moderato con moto:極めてロマンティック。中間部の転調が印象的。(1'00")[S:3/P:1]

村の休日 Holiday in the village 卜長調 Allegro:Pは軽快で歯切れの良い旋律を奏する。Sは10度音程が届く左手が必要だが,右手の助力を工夫すれば小さな手でも演奏可能。(0'25")[S:2/P:1]

オンスロー Onslow, Georges (1784~1853) フランス
ソナタ Op,7(3楽章)
Sonate[1810]
連弾(オリジナル)=Breitkopf

★初期ロマン派の新鮮で瑞々しい抒情と古典派の明快さを兼ね備えた魅力的なソナタ。PとSの掛合いや模倣の機会が極めて多く,両者ともに弾いて楽しめる作品。各主題や楽想の変化が大胆で,対照的な性格を持つのが特徴。

[第1楽章]ホ短調 Allegro espressivo:暗い情熱と甘い感傷に満ちた第1主題で始まるが,73小節目からSのソロで始まる対照的な性格の歌謡的な第2主題を持つ。楽章の大半でP,Sの少なくとも一方は1拍が3連符によって分割されているため,リズムが活気に溢れている。(9'40")[S:4/P:4]

[第2楽章]ロマンス Romance ホ長調:古典派風の落ち着いた歌謡的な主題で始まるが,P とSの対話による切迫したリズムの非常にドラマチックな中間部を持つ。前半は楽節の反復が多い。PとSとの対話はコーダにも現れる。(7'00")[S:4/P:4]

[第3楽章]ホ短調 Agitato:力強い連打和音が特徴的な第1主題と,舞曲風の軽快な第2主題を持つ。P,Sともに素早いアルペッジョの動きが多い。(7'45")[S:4/P:4]

ソナタ Op.22(4楽章)
Sonate[1822]
連弾(オリジナル)=Breitkopf

★前作に比べて,規模だけでなく華麗な名技性,劇的な迫力を含めてすべての面で一層拡大・拡充されている。実に真摯な力作であり,発表当時,極めて人気が高かったことやオンスローが「フランスのベートーヴェン」と呼ばれていたのが納得できる傑作。同時期の他の傑作連弾ソナタのチェルニーの Op.10 やフンメルの Op.92と比べると,これら2曲の持つ派手な外面的効果には及ばないものの,チェルニーよりも深みと奥深さがあり,フンメルよりもロマン的傾向が強い。

[第1楽章]へ短調 Allegro moderato e patetico:第1主題はSによる半音階で上下する伴奏に乗せて,Pは(複)付点音符による悲愴な旋律を奏する。対照的な性格の第2主題は多くの装飾音に彩られた優美で可憐な性格。(11'45")[S:4/P:4]

[第2楽章]メヌエット Minuetto へ短調 Moderato:哀調を帯びたテーマの旋律線は,Sの下降に対してPは上昇するため,秘めた悲しみは一層深まる。優美な変ニ長調のトリオを持つが,その中間部は瞑想的。(6'40")[S:3/P:3]

[第3楽章]変イ長調 Largo:荘重な歩みには瞑想的で深い精神性が漂う。意外なほど大胆な転調が多く,次の楽章に続く。(2'35")[S:2/P:3]

[第4楽章]終曲 Finale ヘ短調 Allegro espressivo:連打和音に乗った焦燥感を帯びた主題が活気に満ちて展開される。熱情と抒情,きらびやかなパッセージと歌謡的な旋律の対照とバランスが良く,またP とSの連携が緊密で,両者の役割の交替の機会も多い。(7'15")[S:4/P:5]