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前回のこの欄で触れたエドゥアルト・シュットによる美しい連弾作品「ロシア民謡 Russian folk-song」,弾いて下さったであろうか?*1) 今日ではシュットの作品は,ソロ,デュオを問わず珍しく,シュトラウスII によるコンサート・パラフレーズ群が多少知られているほかは,全音ピースから「最愛の人に Op.59-2」*2)という,なかなか華麗な,そして甘美なワルツが出ている程度である。この作品も,実際に弾かれる機会は少ないが,聴く人の耳を大いに楽しませる作品である。 そしてシュトラウスII によるコンサート・パラフレーズ群にしてもゴドフスキやシュルツ=エヴレル*3)の同種の作品と比較すると,確かに軽量で小型である感じは否めないものの,そのなかで少なくとも「ウィーンの森の物語」によるパラフレーズは傑作の名に値する。 ここでは序奏の後,例の有名な旋律にからむ対旋律も素晴らしく,華麗なヴィルトゥオジティと魅力的で繊細な細工が絶妙に組み合わされている。 この作品は他のいくつかのパラフレーズとともにIMSLPの,Concert Paraphrases on J.Strauss' waltz motivesの項*4)にある。 私はクランツ版しか持っていないが,IMSLPにはクランツ版のほかにユニヴァーサル版の楽譜もあり,こちらは元の持主(?)の運指がビッシリと書かれていて見にくいが,この版の冒頭によって,このパラフレーズがマックス・パウアー(Max Pauer 1866〜1945)に献呈されている事を初めて知った。マックスは父のエルンスト・パウアーとともに,多くの管弦楽作品等のデュオ用編曲を手掛けており,昔の楽譜上によくその名前を見かける。 ************************************** さて,シブリー音楽図書館のシュットの見出しは2段あるが,その上段にも1曲,デュオ作品がある。 それが2台のピアノのための「アンダンテ・カンタービレ Andante cantabile Op.79-1」*5)で,タイトル通り,ゆったりとした旋律が表情豊かに歌われる作品である。 なお5pの下段から6pの最初の小節にかけて,I の左手部分がへ音記号になっているが,ト音記号の誤りではなかろうか。それに微妙だが,3pの最後から2小節目のIIの左手の最後の四分音符の下の音は,嬰イではなくロ音に上がるのではないだろうか。この辺りは実際に弾いて試していただきたい。 ここには「Op.79-1」だけがあるが,対になる「Op.79-2」は「小スケルツォ Scherzino」である。IとIIの対話が多い軽快な曲想であり,幻想的な中間部を持つ。つまり「Op.79」は「アンダンテ・カンタービレ」と「小スケルツォ」の2曲からなる。 同傾向の作品にシャミナードの「アンダンテと小スケルツォ Andante et Scherzettino」があり,やはり甘美な旋律を持つ「アンダンテ」の方は比較的知られている。両者の「小スケルツォ」を比べると,シュットの方が旋律の面白さだけでなく,中間部との対照もスケールの豊かさでも優れている気がする。もっともシャミナードの「Scherzettino」は,〜ett と〜ino のどちらも縮小の意を表す接尾辞を持つので,単なる「小スケルツォ」ではなく「かわいい小スケルツォ」と考えれば,それも当然なのかも知れない。 またここには室内楽曲の「ワルツの童話 Walzer-Märchen Op.54」があるが、しばらく前までここに同作品の連弾版「Op.54a」があった。 こうしたユニークな楽譜が再び入手不可能となってしまったのは,誠に残念であるとともに,やはりネット上で見つけた珍しい楽譜は,直ちにダウンロードしておく必要があるようだ。後で後悔しないために。
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