51. 「ロチェスター大学のシブリー音楽図書館 その3」

シブリー音楽図書館*1)の蔵書には,モシュコフスキの連弾作品にしても,現在は絶版になってしまった貴重な資料もあり,誠にありがたい事である。

特に「2つの小品(行列とガヴォット) Op.43」*2)や,全7曲の小品集の「万華鏡 Op.74」*2)などは,復活させる価値が十分にある優れた作品である。

そしてモシュコフスキの連弾作品中で最も人気があり,今でも各社から楽譜が出版されている「スペイン舞曲集 Op.12」がここに置いてないのには,大学図書館としての見識の高さが感じられる。

容易に手に入れられる楽譜を含めて,なんでも置けば良いというものではあるまい。
親しみやすい旋律を陽気なスペインの舞曲のリズムに乗せた「スペイン舞曲集」は,大いに売れてモシュコフスキに名声と富をもたらしたが,逆にそれがモシュコフスキを「スペイン舞曲集」だけの作曲家と誤解させ,今日の不当なまでの評価の低さに繋がってしまったという一面もあるのではなかろうか。

「2つの小品」の涼しげで高貴なたたずまいや,創作活動の全盛期の最後(1905年刊)に書かれた「万華鏡」における,タイトル通りの極めて多彩で,しかも真摯な曲想や,特に悲哀に満ちた6曲目のマズルカ風の舞曲は,モシュコフスキの連弾作品の全貌の再評価のきっかけとなるにふさわしい傑作である。

私の拙い言葉による説明よりも,今すぐにでも実際にプリントアウトして弾き,ご自身でこれらの作品の素晴らしさを実感していただきたいと思う。それが可能なのもインターネットの威力なのだから。

モシュコフスキの例のように,このサイトによって,今まで入手困難だったデュオの楽譜が大量に入手できるようになった事は大いに感謝すべきだが,少し残念に思う事もある。「グリエール:12の小品 Op.48」表紙

「9.アンソロジー楽譜の楽しみ その1」*3)で触れたグリエール(Glière 1875〜1956)による連弾作品,「12の小品 Op.48」*4)が,全曲あるのは嬉しい限りだが,実に惜しい事に3曲目の「素描 Esquisse7ぺ一ジ目が欠落しているのだ。他の11曲は完全なだけに,本当に残念!

しかし最近,と言っても昨年だが,この「12の小品」2台のピアノのための「6つの小品Op.41」を含む,グリエール作品のCDが出た(Duo sforzando Reinhold Glière VOL IC215)ので,それほど複雑でもない書法の上,欠けているのが聴き取りやすいPのパートなので,耳の良い方なら十分に欠けたページを「復元」可能であろう。

CD「"Duo sforzando Reinhold Gliere"(VOL IC215)」ジャケットグリエールは死後,50年は経過しているものの,「戦時加算」を含めると,我が国では未だに著作権が保護されているはずだが,プリントアウトは違法としても,ファイルを見るだけならば,どうなのであろうか。

なおCDの演奏内容は,もう少し繊細に弾いた方が,作品の旋律的な魅力が生きるように感じたが,貴重なCDには違いない。

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「シュット:Russian folk-song」表紙それからヨハン・シュトラウスIIワルツによる10数曲の「パラフレーズ」や,ロマンティックで甘美な小品に優れた才能を示したシュット(Schütt 1856〜1933)の見出しは上下に2段ある。

その下の方にはただ1曲,「Russian folk-song / transcribed by Eduard Schütt」*5)があり,そこには「Keywords:Piano music」とだけしか書いてないので,これが連弾用の編曲とはファイルを開くまでは分からないのだ。

ロマンティックで甘美な小品で,気の利いたアンコールとしても最適であり,見過ごされてしまうには余りにも惜しい作品である。懐かしさと温かさに満ちたシンプルなメロディが,ピアニスティックに装飾されて反復される。

表紙によるとソロ用と連弾用の両方の編曲が出版されていたようだが,ここにあるのは連弾用の編曲のみである。

ウィーンで活躍したシュットだが,ロシアのサンクト・ペテルブルク出身であり,このメロディはシュットにとって,郷愁を誘うものだったのであろう。

【参考情報】
*1) [サイト]ロチェスター大学シブリー音楽図書館
*2) [サイト]ロチェスター大学シブリー音楽図書館 「モシュコフスキ」作品一覧検索結果
*3) [松永教授のとっておき宝箱]「9. アンソロジー楽譜の楽しみ その1」
*4) [サイト]ロチェスター大学シブリー音楽図書館 「グリエール」作品一覧検索結果
*5) [サイト]ロチェスター大学シブリー音楽図書館 「シュット」作品一覧(一部)検索結果

【2009年1月17日入稿】