44. 「踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その3」

前回のリンクを辿ってロチェスター大学の図書館*1)を訪れ,
ポルディーニの作品をご覧になったであろうか?*2)

こうした便利さは,パソコンやインターネットの発達と普及以前には
想像もつかなかった。

ここの資料のピアノ独奏曲は,なぜか「ワルツ」の類いばかりで,前々回に触れた
「人形芝居」*3)前回の「25の演奏会用練習曲」*2)がないのが本当に残念だが,
「ワルツ」の中では比較的易しい方に属する,サロン風なTwo Lyric Waltzes Op.79
(2つの抒情的ワルツ)」
を弾いて楽しんだ方もあったのではなかろうか。

連弾作品の「5つの演奏会用小品」「5つの風俗的小品」は弾いて楽しむばかりでなく,
色刷りの表紙も楽しめるが,「5つの風俗的小品」のそれぞれの表紙は興味深い。

「5つの風俗的小品 op.12」より「2.滑稽な物語」の表紙。クリックで拡大します。特に2曲目のHistoire dró1e(滑稽な物語)」は何やら訳ありげな男女の絵。
女性の方が積極的に見えるが,髭の伊達男はためらいがちの様子。
深読みすれば,男性の前に咲く百合の花は西洋では純潔のシンボルとされており,
二人のその後の展開が気になるところだが,作品そのものは8小節毎に強弱やテンポが
目まぐるしく変わる,スケルツォ風のリズミカルな曲であり,
怪しげな雰囲気は全く感じられない。

それはともかく,この「5つの風俗的小品」の中で,私が特に気に入ったのは
1曲目のAu lac(湖にて)」と3曲目のValse des poupées(人形のワルツ)」である。

「湖にて」は中間部のゆったりとしたSの旋律も含めて,旋律や和声がとても美しく,
ぜひ弾いてみて欲しい作品である。アンコールでサラリと弾かれたら,どんなに効果的であろうか。

「5つの風俗的小品 op.12」より「3.人形のワルツ」の表紙。クリックで拡大します。そして「人形のワルツ」は表紙もかわいらしいが,作品の方も低音域の使用を抑制した書法で,
その響きは実にかわいらしい。
前奏が4小節というのも,音階的に5度上昇して連打音に続く旋律も,代表作の「踊る人形」
そっくりである。さながら同じメーカーの姉妹品の人形といったところか。
「人形のワルツ」の旋律は,「踊る人形」と比べるとやや単純だが,逆にちょっとメカニカルな
感じがして,いかにも人形が踊っているようである。
中間部の伸び伸びとした旋律もとても好ましく,この作品もぜひ弾いてみて欲しい。

「5つの風俗的小品 op.12」より「4.ボスポラス海峡の夜曲」の表紙。クリックで拡大します。次のSérénade au Bospore(ボスポラス海峡の夜曲)」は表紙も曲想もタイトル通りの
エキゾチックな作品
ボスポラス海峡*4)と言えば,トルコのイスタンブール。東洋と西洋の境界である。
100年以上も昔のこの地の様子は,ポルディーニにどんなイメージを与えたのであろうか。
最後のEn bohémien(ジプシー風)」情熱的なジプシー風の作品で,Pのグリッサンドが
彩りを添えている。

もう一組の連弾曲,「5つの演奏会用小品」では,まず最初のPagenlied(小姓の歌)」が楽しい。
軽快な伴奏に乗って流れる快活な旋律は,オペレッタの人気アリアのように聞こえる。

2曲目のAndalusierin(アンダルシアの女)」と3曲目の「Kirgisischer Waffentanz(キルギスの剣舞)」
いずれも異国趣味の作品

4曲目の「Die Spatzen auf dem Dache(屋根の上のスズメ)」は,前後の部分のPとSの掛合いも楽しいが,
中間部の旋律のおおらかな開放感は,スズメが自由に空を飛び回るかのようで,特にこうした旋律に
ポルディーニの特質が良く表れているように思う。

そして5曲目は「Spinnlied(紡ぎ歌)」。一方が16分音符による無窮動的な動きで回転する紡ぎ車を表し,
他方が旋律を奏するのは連弾曲の「紡ぎ歌」の常套手段(例えばタンスマンやガルッツィの作品。正確には
ガルッツィのは「紡ぎ車」)だが,ここでの16分音符による動きは機械的ではなく旋律的で洗練されており,
その曲想は繊細でロマンティック
に仕上げられている。

この「5つの演奏会用小品」では,私は第1,4,5曲目が気に入っている。
これらのポルディーニの連弾作品がレッスンで使われたり,演奏会で取り上げられたりする日も
近いのではなかろうか。

【参考情報】
*1) [サイト]University of Rochester-UR Research-Browsing All of UR Research by Author
*2) [松永教授のとっておき宝箱]「43. 踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その2」
*3) [松永教授のとっておき宝箱]「42. 踊る人形たち…ポルディーニのピアノ作品 その1」
*4) [Wikipedia]ボスポラス海峡

【2008年10月4日入稿】

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