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シブリー*1) でも IMSLP*2) でも,ユオンの「舞踏のリズム集」の楽譜の表紙や裏表紙も見られる。こうしたネット上の楽譜は,楽譜の本体だけのケースも多いが,時には表紙や扉,そして裏表紙からも貴重な情報が得られることがある。 リーナウ社の「舞踏のリズム集」の裏表紙を見てみよう。 [注:画像をクリックすると拡大画像がご覧いただけます。] ここは100年ほど前の同社の代表的な連弾作品のカタログとなっており,最初にパレエ音楽,「ジゼル」で知られるアドルフ・アダンの「われ,もし王なりせば」の序曲の編曲が載っている。この序曲,私は別の会社から出版された連弾用編曲を持っており,当時は人気作品だったのであろう。次は2巻の「ドイツ軍隊行進曲」。続いてモシェレスの弟子でオランダ生れのヨーゼフ・アッシャーの「軍隊ファンファーレ」。 そして A から B に人り,ベルリンでのユオンの師,バルギール*3) の「ジーグ」と続く。なお次のバイエルは日本人にお馴染みのフェルディナントではなく,ウィーンで活躍したヨーゼフ・バイエル。これを見ていると,ここに載っている諸作品のうち,現在でも演奏されるオリジナル作品はシューマンの「東洋の絵」「舞踏会の情景」「子供の舞踏会」だけと言っても良く,作曲家や作品の評価や人気の100年間の変化には,まさに隔世の感がある。 ユオンの「舞踏のリズム集」を知ると,その師のバルギールがどんな連弾曲を書いていたのか,といった興味から,連弾曲の「ジーグ」がどんな作品なのかを知りたくなるのは当然たが,残念なことに今のところシブリーにも IMSLP にも,この作品は見当たらない。しかし,どちらにも連弾作品の「ソナタ Op.23」*4) があるのは誠にありがたい。 クララ・シューマンの異父弟のバルギール(1828〜97)は両親やデーンのほか,ライプツィヒ音楽院でモシェレスやゲーゼといった人たちから学んでいる。 1864年に出版されたこの「ソナタ」に関しては,なぜかマグローの大著*5) にも出ていないので,情報はほとんどない。同時代のドイツ・ロマン派系のピアノ・デュオのための「ソナタ」としては,まずブラームス(2台,1864年)やフォルクマン*6) (連弾,1868年,ただし「ソナチネ」)の作品が上げられる。 多少とも知られているフォルクマンや,ずっと有名なブラームスの作品に比べると,パルギールの「ソナタ」は,まったくと言って良いほど知られていない。しかし実際に弾いてみると,なかなかの傑作で,特に第1楽章の新鮮でさわやかな抒情は,20年ほど後の,チェコのフィビヒ*7) の連弾のための「ソナタ」に匹敵しよう。 バルギールの「ソナタ」は全3楽章。第1楽章はト長調,3/4拍子,Moderato。その冒頭,P の右手による伸びやかに上昇する第1主題と,S の右手によって下降する相反する動き(再現部では P と S の役割が交替)が,いかにも連弾曲らしいし,36小節以降の第2主題の陶酔的なロマンも素晴らしい。それだけでなく,ちょっとしたモチーフの P と S との掛合いも楽しめるため,試しに最初の1ページだけを弾いてみても,連弾演奏の醍醐味が満喫できるほどだ。技術的にも決して難しくなく,どちらか一方がメロディ,他方が伴奏と片寄っていないので,中級以上なら十分に楽しんで弾ける上,レッスンに用いれば楽しいだけでなく,とても良い勉強になる。しかしこの作品,4手が接近しがちなのと,S の低音部に密集した音が多いので, 全体の響きが重苦しくならないように注意する必要がある。 第2楽章は変ホ長調,4/4拍子,Lento 。 S のソロで弦楽四重奏風に静かに始まるが,途中で気分も音量も大きく盛り上がる。第3楽章はト長調,6/8拍子。 Allegro molto の16小節の序奏に続いてAllegro grazioso の主部に入る。この楽章は楽想も響きもかわいらしい。 演奏時間は反復を含めて各楽章が7分30秒,7分,5分30秒ほど。第1,2楽章の演奏時間が長いが,指示されたテンポが遅めのため,速いテンポを採ればかなり短縮できる。
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