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これまで2回,lMSLP*1) にあるヴィルム*2) のデュオ作品について触れてきたが,シブリー音楽図書館*3) にはIMSLP にはない作品のファイルもある。それが2台のピアノのための「序奏とガヴォット lntroduction und Gavotte op.60-1」と「ワルツ Walzer op.72」*4)である。 この2曲はヒンソンの本にも紹介されていて,前者は「流暢なサロン風」,後者は 「ロマシ派後の様式(post-Romantic style)によるコンサート向きの一連のワルツ集。 半音階的な手法を多用」とのコメントがある。 後期ロマン派 (late-Romantic) ではなく, 「ロマン派後の様式」と言われると,どんな作品を想像するであろうか?印象派風の曖昧模糊とした作品や,新古典主義的なギクシャクしながらも妙にすっきりとした作品が頭に浮かぶかもしれない。この楽譜はラィプツィヒのロイカルト(Leuckart)社から出版されたのだが,出版年はアルトマン (W. Altmann) の目録によれば1888年,シブリーの表記では2曲とも(?)1910年,そしてヒンソンは1914年としており,この世紀の変わり目を挟んだ時期は,音楽の様式の変化が特に大きい時代に当たる。 いくつか例を挙げれば,印象主義音楽を確立したとされる「牧神の午後への前奏曲」の初演が1894年,神秘主義的な「法悦の詩」の初演が1908年,原始主義の頂点ともいえる「春の祭典」の初演が1913年で, さまざまな革新的な音楽が次々に登場した時期であり,余計に想像が膨らむ。しかし実際にファィルを開いて作品を見ると,といってもこの楽譜は I と II が別冊なので,見ただけでは分かり難いのだが,弾いてみてもらえば,完全にロマン派の作品であることが理解できるであろう。 「イントラーダ lntrada」と題された序奏部は,まったくドイツ・ロマン派風で,鬱蒼とした暗く深い森をさ迷い歩くといった趣きである。そして枝を掻き分けて森を抜けると,いきなり豪華なメリーゴーランドの回る遊園地に出てしまう感があり,そのギャップというか対照がとても効果的で面白い。 次々に表れるワルツは,いずれも甘美でロマシティックな曲想を備え,華麗でピアニスティックな書法で処理されており,I も II も楽しく弾ける。実に快適な楽しさが全曲に満ちていて,演奏時間は8分30秒ほど。 デュオ・リサイタルのオープニングにも最適の作品で,こうした楽しい作品をデュオのレパートリーに加えてはいけない理由があるのだろうか。そして華麗でピアニスティックな割りには,とても弾きやすい。その理由は急速な音階や幅広い分散和音のリズムが「割り切れて」いるためと,それらが複雑で不規則な音型ではないためである。 ちょうど今の時期,カワイの隔月刊誌「あんさんぶる」に3回に渡ってシャミナードのデュオ作品について書いているが,シャミナードの技巧的な2台ピアノ作品では,数の大きい(7や9や17といった)連符を使った急速な音階や幅広い分散和音が頻出し,しかもそれらの音型が複雑なのと全く対照的である。 「序奏とガヴォット」も「ワルツ」と同傾向の親しみやすい作品である。「序奏」は複付点リズムによる重々しいバロック的な装いであり,落ち着いた,しかし活気に満ちた「ガヴォット」が続く。「序奏」にしても「ガヴオット」にしても,I と II の掛合いが多く,この作品も実に楽しく弾ける。 この作品はリース・ウント・ エルラー (Ries&Erler) 社*5) から1887年に出版され(アルトマン,ヒンソン),やはり I と II が別冊の楽譜である。「ガヴォット」は各部の反復が多いが,それらを含めて演奏時間は8分ほど。典型的なロマン派の作品として,プログラムに「序奏とガヴォット」と 「ワルツ」を並べて置くのも効果的であろう。折しも来年が没後100年となる。 ところで,
0p.60 をアルトマンもヒンソンも「2つの性格的な小品 Zwei Charakterstücke」としているが,60-2 はいったいどんな作品なのだろう。今のところ,情報はない。
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