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最近,ユニークなフランスのピアノ・デュオ作品のCDを2枚入手した。 まずは「ピアノ連弾/ブコーザ=フェレ Piano 4 mains/Boukobza-Ferey SKARBO DSK4073」*1)で,ラドミローの「ゲール風狂詩曲」,フォーレの「ドリー」,クラの「子供の魂」,そしてラヴェルの「マ・メール・ロワ」を収めた1枚。 「ドリー」と「マ・メール・ロワ」はお馴染みだが,ラドミローの「ゲール風狂詩曲」,そして特にクラの「子供の魂」に興味があった。
ダンディと言えば,クラはヴァンサン・ダンディやアンリ・デュパルクにも師事している(デュフルク著「フランス音楽史」遠山一行他訳 白水社刊*5))。 以前,「子供の魂 Âmes d'enfants」(1918作,1922年刊)を少し探り弾きした際,タイトルからは子供のための作品にありがちな分かりやすさや親しみやすさを想像していたのが,そうした種類の音楽ではないことに気付き,いつか本格的な演奏を聴いてみたいと思っていた。 この作品には連弾版のほかに6手版と管弦楽版もあり,クラの3人の娘たち,イゾール,コレット,モニークに捧げられている。このうちコレットは父の遺作の「ピアノ協奏曲」を捧げられただけでなく,1937年にはタンスマンと結婚し,夫と組んでデュオ活動もしている。 「子供の魂」の3曲は「純粋な」「あどけない」「神秘的な」のタイトルがあり,演奏時間は各5分ほどで,改めて楽譜を見ながら聴くと,音楽的にも技術的にもなかなか難しい。6手版では音が3人の奏者に分散されるだけに,少しは易しいのかも知れないが,特に2,3曲目は技術的に難しく,「子供の魂」を「子供だまし」と舐めてかかると相当てこずることになろう。 クラは3人の娘たちの魂に何を感じたのであろうか? なお,このCDのケースの裏にある曲目のトラックの表記は,13と14が逆になっている。 さて,このCDの解説にも簡単に触れてあるが,従来の「ドリー」の各曲のタイトルには,作曲者のフォーレの意図と異なっていたものもあり,フォーレによる本来のタイトルが少しずつだが知られてきている。 2曲目のタイトルは今まで「ミ=ア=ウ」とされていたが,これは出版社が勝手に付けたタイトルで,自筆譜には「メッシュー・アウル Messieu Aoul!」と記されている。 これは「ドリー」ことエレーヌ・バルダックの兄のラウルのことで,まだ幼いエレーヌ(この曲が作曲された時は2歳)が「ムッシュー・ラウル」と上手に発音できない様子をタイトルにした。つまり,この曲のもとのタイトルは「ラウルお兄ちゃん」だったのが,出版社によって猫の鳴き声に変えられてしまったのだ。 そして4曲目の「キティ・ワルツ(子猫のワルツ)」も,実は"Kitty"ではなく,"Ketty"であり,これはラウルの飼っていた犬(!)の名で,これも出版社による変更である。当時の出版社には,よほどの猫好きがいたのであろうか。
しかし1897年の初版以来,100年以上もこれらのタイトルで親しまれているのも事実で,国内・輸入版を問わず,新しい楽譜でも従来のタイトルを用いて,本来のフォーレのタイトルに関しては注で触れるにとどめた楽譜もまた多い。
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