32.「熱い2日間…日英ピアノ・デュオの架け橋 2008」

ご存じのように,4月5,6日の2日間,NPO法人「連弾ネット」主催による
「日英ピアノ・デュオの架け橋 2008」*1)が行われた。
東京では桜が満開の春の好天の下,ピアノ・デュオ愛好者にとって実に「熱い」2日間であった。

初日は原宿アコスタディオを会場にして,来日ツアー中の
"Piano 4 Hands"(長谷川和香氏とジョセフ・トング氏)*2)を講師とする
英国連弾作品のワークショップ*3)

特別参加を含めて4組のデュオの参加があり,1組30分の予定時間であったが,
両氏による熱のこもった指導は予定の時間を越え,
受講者にとっては極めて有意義なワークショップとなったに違いない。

両氏によるアドバイスは抽象的,観念的な言葉の羅列ではなく,
両氏のデュオとしての深い経験と広い知識に裏付けられたもので,
とても具体的で分かりやすく,連弾演奏のさまざまな課題の解決に役立つものであった。

それらにはPとSとの適正なバランスといった基本的なものから,作品のイメージの持ち方,
反復の際の変化の付け方,そしてパートナーとの見解の相違までもが含まれていた。

作品の演奏に唯一無二の絶対的なものはあり得ないので,ひとつの型にはめる指導ではなく,
広い可能性の中から各自が演奏法を探求するヒントとなるアドバイスは実に貴重である。

そしてワークショップ後の受講者コンサートでの演奏が,いずれのデュオも各段に良くなっていた事実は,
両氏の効果的で熱心な指導と,受講者のアドバイスを吸収しようとする強い意欲の賜物であろう。

講師も絶賛した特別参加の友田恭子氏と笠原純子氏*4)による,「3つの小品(組曲第2番)」は,
この企画の「ヨーク・ボーエンに光りをあてて」のタイトルにもふさわしく,
これまで日陰に置かれていたも同然の作品に明るい光りを当てた演奏であり,
ワークショップの参加者に鮮烈な印象を与えた。

6日は三軒茶屋サロン・テッセラに場所を移して,"Piano 4 Hands"をはじめ
「ピアノデュオ ドゥオール」(藤井隆史氏と白水芳枝氏)*5), "Duo T&M"(豊岡智子氏と豊岡正幸氏)*6)
それに佐々木素氏と山内知子氏*7)の4組のデュオの出演による
「日英ピアノ・デュオ作品による演奏会」*8)が行われた。

プログラムはほぼ全曲が20世紀後半の作品で,特に"Piano 4 Hands"の演奏した5曲中の4曲が日本初演,
または今回のツアーで日本初演された作品
であり,他の1曲も2002年に日本で初演されている。

「ピアノデュオ ドゥオール」の演奏による,2007年に誕生したばかりのR.R.ベネットの「リリブルレロ変奏曲」
日本初演

最近はクラシックのコンサートでも「軽さ」や「親しみやすさ」が一種の流行となってきているが,
そうした流れとは対照的なマニアックでユニークなプログラムによる重量感のあるコンサートとなった。

会場は満席の盛況で,4組のデュオはいずれも互いに競い合うように白熱した演奏を繰り広げ,
作品を通してそれぞれのデュオの個性を披露していた。

そしてアンコールにはガラ・コンサート的な趣向で,日英それぞれの2台8手作品が演奏された。

2日間を通して,演奏者や聴衆も含めて参加者すべてのピアノ・デュオに対する「熱意」を強く感じた。
「連弾ネット」は今回の企画のために,デュオ作品の楽譜を用意して会場で販売したが,
これらがすべて売り切れたのは,参加者がそれだけ明確な目的意識を持って来場していたということを示している。

また単に選択肢に○を付けるだけでなく,面倒な記述式のアンケートにも
実に多くの聴衆が丁寧に答えを記入して下さったのは,誠に有り難いことであった。

全体の詳しい集計結果は未見ながら,私が見た限りでは,親しみの薄い作品による,
しかも長いプログラムに戸惑いながらも,多くの方がこれらの作品を楽しんで下さったようである。

このアンケートは,今後の「連弾ネット」の活動方針の重要な資料であると同時に貴重な糧ともなろう。

【参考情報】
*1) [日英ピアノ・デュオの架け橋 2008]公式サイト
*2) "Piano 4 Hands"公式サイト
*3) [日英ピアノ・デュオの架け橋 2008]ワークショップ・受講者コンサート
*4) [笠原純子&友田恭子]「連弾ネットDiscography」
*5) [ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史氏と白水芳枝氏)]公式サイト
*6) [Duo T&M(豊岡智子・正幸)]「連弾ネットDiscography」
*7) [佐々木素&山内知子]「連弾ネットDiscography」
*8) [日英ピアノ・デュオの架け橋 2008]日英ピアノ・デュオ作品によるコンサート

【2008年4月10日入稿】

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