28.「イギリスのピアノ・デュオ作品 その6」

「イギリスのピアノ・デュオ作品」のシリーズも,今回から20世紀生れの作曲家が登場する。

まずウィリアム・ウォルトン(William Walton 1902〜83)*1)による
全10曲の「子供のための連弾」(Duets for Children)

子供のための作品なので当然,難しくなく,
楽譜はオクスフォード大学出版局(Oxford University Press)から1巻6曲,
2巻4曲に分けて出版*2
)されている。

各曲のタイトルは「音楽のレッスン」「二人三脚」「静かな湖」「ポニーの馬車」「幽霊」
「石けり遊び」「ぶらんこ」「夕暮れの歌」「人形の踊り」「トランペットの調べ」
で,
ウォルトンの兄の子供たち,エリザベスとマイクルに捧げられている。

いずれも機知に富んだ曲想で新鮮な響きを備え,レッスンにも発表会にも最適な作品である。
曲のイメージを明確にするために,「日英デュオ」の際には
イギリスで一般的な「幽霊」の姿などを講師のトング氏に伺ってみたい。

この「子供のための連弾」,当初は全9曲のピアノ独奏曲だったそうだが,
友人のオクスフォード大学出版局に勤める作曲家ヒューバート・フォスの妻で,
歌手でもあったドーラによって子供には難しすぎるとアドバイスされて連弾曲に編曲された。
更にその後には管弦楽曲にも編曲されている。

ウォルトンのピアノ作品は少ないが,室内楽や管弦楽曲からの連弾用編曲はいくつかあり,
初期の管弦楽曲「ポーツマス岬」「午睡」ウォルトン自身による連弾用編曲は,
ウォルトンをはじめとするイギリスの連弾作品を集めたCD,
"Points North"(Campion Cameo 2036)*3)で聴ける。

また出世作の「ファサード」の組曲を,友人でもあったコンスタント・ランバートが
連弾用に編曲
したものは実にオシャレで楽しい軽妙な小品群であり,
「お堅い英国紳士=イギリスのピアノ・デュオ作品は堅苦しい」という
単純で誤った思い込みは見事に覆される。

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母親がフランス系のレノックス・バークリー(Lennox Berkeley 1903〜89)*4)
オクスフォード大学で音楽ではなく,フランス語や文学を学んでいたが,
ラヴェルに薦められてパリでナディア・ブーランジェに師事し,プーランクとは生涯の友であった。

そう言われれば,ピアノ独奏曲「6つの前奏曲 Op.23」(Six Préludes)の軽快なリズムと
自然で流麗な旋律,さわやかな抒情はちょっとプーランクを思わせる。

「日英デュオ」では「パーム・コート・ワルツ」が取り上げられている。*5)
この作品はロマンティックでしかもノスタルジックな,耳に馴染みやすいワルツだが
原曲は管弦楽曲

デュオのパートナーで友人のバーネット・パビットの委嘱によりバークリー自身によって
連弾用に編曲
された。

演奏時間3分ほどの小品だが,Sも甘美なワルツの旋律を弾く機会が多く,
PもSも楽しんで弾ける作品である。

バークリーは数は多くないものの,生涯に渡ってピアノ・デュオ作品を書き続け,
初期の2台のピアノのための「ポルカ・夜想曲・カプリッチオ Op.5」「ポルカ」
特にオシャレで豪華で元気が良くて,
とにかく楽しいアンコール・ピースを捜している方にピッタリ
の作品。
もしアンコールで弾かれたら「今の曲は何?」と評判になるのは間違いない。

後期の2台のピアノのための「バガテル Op.101a」も同傾向の作品だが,
豪華さと力感には欠ける。

そのほかに全3楽章の連弾のための「ソナチネ Op.39」は,
バークリーの新古典主義的特徴が明瞭に表れている。
両端の楽章は四度の音程が多用され,親しみやすい作品ではないかも知れないが,
その精緻な書法からは透明感に満ちた美しい抒情が伝わってくる。

1983年のバークリー生誕80年記念に録音され,その後2003年に100周年を記念して
再発売されたCD(Lennox Berkeley A Centenary Tribute Helios CDH55135)*6)で,
前回のディーリアス=ウォーロックを弾いたキャスリン・ストット(今回のお相手はイアン・ブラウン)
見事に弾いている。

日本盤(日本語解説はない)は「バークリー室内楽作品集」として店頭に並んだので,
デュオ愛好者の目に触れ難かったであろうことは残念だが,
デュオ作品としては「パーム・コート・ワルツ」も収録されている。

なお上記のバークリーの作品の楽譜はチェスター(Chester)社から出版されている。

【参考情報】
*1) [Wikipedia]ウィリアム・ウォルトン
*2) [購入可能サイト]ウィリアム・ウォルオン/子どものための連弾(オクスフォード大学出版局)
※2008年2月5日現在の情報です。ご購入の際は自己責任でお願いいたします。
*3) [購入可能サイト]"Point North" (Campion Cameo 2036)
※2008年2月5日現在の情報です。ご購入の際は自己責任でお願いいたします。
*4) [Wikipedia]レノックス・バークリー
*5) 日英ピアノ・デュオの架け橋2008 リスト一覧
*6) [購入可能サイト]Lennox Berkeley A Centenary Tribute Helios CDH55135

【2008年2月5日入稿】

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