昨年はモーツァルトのピアノ・デュオ作品のCDも新発売が相次いだ。
無論,すべてのCDを聴いたわけではないが,
ツェムリンスキー編曲による「魔笛」の連弾版*1)
までもが発売されたのは,
メモリアル・イヤーならではであろう。
ルール・ピアノ・フェスティバル・エディション
(Edition Klavier-Festival Ruhr)の
シリーズの
Vol.10 (Avi 553019)*1)で2枚組の箱入り。
聴いてみるとなかなか緻密なアンサンブルで弾かれている。
モーツァルトの音楽そのものは,「声」がなくともやはり素晴らしいが,
特に「魔笛」ファンではない私などは,有名なアリアの旋律が流れると
「アッ,この歌知ってる」という程度。
オペラに声の魅力(魔力?)を求めない人向きであろうか。
なお既に国内盤の
「ピアノ・デュオ 中井恒仁&武田美和子/モーツァルト」(PAMP-1027)*2)
(録音日時は後だが発売はこちらが先で2005年11月)には,
有名なアリアやデュエットが4曲抜粋されて収録されている。
オペラ・ファンが聴いたらどう思うか分からないが,
連弾曲として少なくともこの4曲に関しては
愉悦感も響きの透明度もこちらの盤が勝っている。
さて,オリジナルのデュオ作品のCDも数多く発売されたが,
質,量ともに抜群なのが,
タールとグロートホイゼンによる
「モーツァルト:2人のピアニストのための作品集 Vol.1〜3」
(国内盤 SICC470〜472)*3)*4)*5) である。
一実氏も「今週の一枚」に
国内盤発売以前にVol.1を取り上げている(2005年6月20日)
*6)ので,
そちらもご参照願いたい。
今さらここで二人の演奏を賞賛しなくても,
フンメル,メンデルスゾーン,チェルニー,シューベルトなどの
多くのCDの驚異的な質の高さは多くの人の知るところ。
この二人のCDの唯一の罪は,自分でデュオを弾く人が聴いて参考にしようとすると,
彼我のあまりの差にガッカリして弾く気が失せることかも知れない。
この3枚には2台と連弾のためのモーツァルトの全作品が収録されており,
「ラルゲットとアレグロ」は前回触れたヘンレ版のバイヤーによる補完が聴け,*7)
「ソナタト長調」はアンドレとレヴィンによる,
ほぼ150年の時を隔てた補完を聴き比べることができる。
二人の演奏の大胆な息継ぎやテンポの変化を嫌う人もあるかも知れないが,
私見ではそれらは各フレーズの異なった性格を際立たせるのに
とても役立っていると思う。
また反復の際に(楽譜にない)装飾音が加えられるのも,
意外な,そして楽しい驚きであり実に好ましい。
40年ほど前,グルダがこれを盛大にやって批評家からだいぶ叩かれたりしたのだが…。
また最新の研究成果を盛り込んだザイフェルト氏の解説も極めて有益で,
まさにモーツァルト・イヤーを飾る記念碑的なCDと言っても過言ではない。
最近は国内盤でもすぐに売り切れ,廃盤になってしまう。
そこで一言。
「いつまでもあると思うな,CDと金」。
その時にどちらが大切なのか,お互い良く考えよう。
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