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それらは,例のチャイコフスキーのパトロネスであったメック夫人に献呈された初期の「交響曲 ロ短調」 (1881年1月完成) から「小組曲」 (1889年完成) の間に作曲された。 初期のドビュッシーの作風に特有の,親しみやすくロマンティックな曲想の作品で,なかなかに魅力的だったが,これらの楽譜は当時はまだ刊行準備中とのことで,ど
うにも手の出しようがなかった。それが今では,全集版からの抜粋という入手しやすい形でデュラン社から "Œuvres pour piano à 4 mains Vol.1,2" として出版*1)されている。
「ディアーヌ序曲」は1881年11月にローマで完成された作品で,師のギローに献呈されている。といってもローマ賞の大賞受賞者に認められたローマ留学時の作品ではなく (84年に「放蕩息子」で大賞を受賞してローマに赴くのは翌85年),メック夫人に再度雇われて一家とともにモスクワからウィーン,そしてヴェネツィア,ローマを経てフィレンツェへと,およそ2か月に及ぶ豪華な旅行をした時の作品である。もっとも受賞後、ロー マでも手掛けて結局は未完に終わった「森のディアーヌ」とも主題的には関連があるそう だ。 その「ディアーヌ序曲」は精気に満ちた活発な作品で,頻出するトレモロやそれに類するさまざまな音型が,ピアノから実に多彩な響きを引き出している。これも「アンダンテ・カンタービレ」同様,演奏時間は7分ほどであり,S もメロディを弾く機会が多く, P との掛合いも楽しい。 2巻の「バッカスの勝利」は1882年はじめの作品で,管弦楽版と連弾版が計画されたそうだが,管弦楽版は未発見とのこと。しかも全4楽章のうちの第1楽章の「ディヴェルティスマン」(後で触れる同名曲とは別の作品)と第2楽章の「アンダンテ」は現存するが,第3楽章の「スケルツォ」は存在せず,第4楽章の「行進曲とバ ッカナール」は2種類の断片のみが残された。 管弦楽曲として計画されただけあって,第1楽章は音に厚みが増しているが,演奏時間3分半ほどの小品。第2楽章の「アンダンテ」は9/8拍子の流れるようなリズムを持つノクターン風の作品で,Sの右手による息の長い 旋律は,オーケストラ版ではチェロあたりが朗々と歌うのであろうか。連弾で旋律を「歌 わせる」のが得意なデュオ向けの作品で,やはり演奏時間は3分半ほど。全体の統一感を考えるのは当然なので,第4楽章の2種類の断片には,どちらにも第1楽章の主題が登場する。 2巻の残りの作品については次の機会に。
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