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「ルール・ピアノ・フェスティバル The Ruhr Piano Festival」*1)のCDをご存じだろうか? 少し古い話題になってしまったが,2005年のフェスティバルのテーマは「トランスクリプションとパラフレーズ」で,その演奏が3枚組のCD(Vol.9)にまとめられている。 ここにアメリカ出身のアンソニー&ジョゼフ・パラトア*2)の兄弟デュオが,実に興味深く意欲的なレパートリーで参加していた。 1974年のミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ二重奏部門優勝以来,30年以上も活躍し続け,それぞれ1944年と48年生れなので,60歳前後でのこの年のフェスティバル参加ということになる。 このCDには2005年7月14日の2台ピアノによる演奏会のライヴ録音が収められ,ニコラス・エコノム編曲のチャイコフスキー「くるみ割り人形組曲 Op.71a」のほか,なんと残り3曲はリヒャルト・シュトラウスの作品が演奏されている。 「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら Op.28」のオットー・ジンガー(Otto Singer 1863〜1931)による2P版,「ドン・ファン Op.20」のルートヴィヒ・トゥイレ(Ludwig Thuille 1861〜1907 テュイレ,ツィレ,フランス系としてテュイユの表記もある)*3)による2P版(とクレジットにあるが,実はトゥイレのは連弾版),そしてヴィクター・バビン(Victor Babin 1908〜72)の2P用編曲による「ばらの騎士によるワルツ」である。 エコノム編曲の「くるみ割り人形組曲」は,楽譜の入手も容易なうえ,音源もアルゲリッチは一度ならず録音しているし,日本の「プリムローズ・マジック」によるCD*4)もあったりで,デュオ・ファンにはすっかりお馴染みだろう。 しかし,ベテランにしてはどうしたのか,特に最初の「小序曲」は落ち着かない演奏で,ライヴ録音の怖さが感じられるとともに,何とか演奏を立て直そうとする努力は微笑ましくもあるが,どうもここではテンポが「走る」ようだ。 このCDでの聴きものはR・シュトラウスで,「ティル〜」はジンガーによる2P版で弾いているが,ごく一部はヘルマン・レイ(Hermann Ley)による同曲の連弾版も取り入れて弾いているようだ。それはともかく,決してうるさくも重苦しくもならない明るい響きの演奏で,原曲の軽快で楽しい雰囲気を2台のピアノで巧妙に表現しており,R・シュトラウスの交響的作品のピアノ編曲が,決してオーケストラの安直な代用品ではないことを示す好例である。 そういえば,シェーンベルクの主宰した「私的演奏協会」*5)でも,ジンガー編曲の「ドン・キホーテ」や「アルプス交響曲」などが何度も演奏されている。 ジンガーはR・シュトラウスの作品を数多くピアノに編曲しただけでなく,他の作曲家の作品の編曲もまた多く,編曲者としてその名は広く知られている。「ドン・ファン」にもジンガーによる2P版があるのだが,ここではR・シュトラウスの友人でもあったトゥイレによる連弾版が使われている。多分パラトア兄弟は,これを2台で弾いたのだろう。 もともと「ドン・ファン」は当のトゥイレに献呈された作品なので,トゥイレも編曲に際しては力が入って当然であり,原曲の輝かしさと甘美で濃厚なロマンティシズムを見事に生かした編曲である。この演奏を聴けば,挑戦してみようというデュオも現れるのではなかろうか。 そして「ばらの騎士」はバビンによる編曲とのこと。バビンは妻のヴロンスキーとともにロシア出身だが,夫婦デュオとして主にアメリカでの活発な演奏活動のほか,編曲や作曲でも活躍*6)した。 同曲にはやはりジンガーによる2P版がある(Fürstner社刊)が,バビンによる編曲はもっと装飾的なもので,原曲の豪華で退廃的ともいえる燗熟した雰囲気をより忠実に再現している。 「原曲に忠実」とは,単に音符が同じことではなく,
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