68. 「自然体で」 〜「瀬尾久仁&加藤真一郎 ピアノ・デュオ リサイタル」(2009.9.27)

金木犀が香り始めた初秋の日曜日の午後,「連弾の風景〜ドイツ・ロマン派〜」と題して,瀬尾久仁&加藤真一郎 ピアノ・デュオのリサイタルが9月27日に行われた。クリックで、チラシがご覧いただけます。

会場は勝田台文化センター・音楽室である。勝田台といえば,元の連弾庵の最寄り駅で,街の景色が実に懐かしい。この日のリサイタルは「第49回 音楽室コンサート〜身近にクラシック〜」と記されており,なんと入場無料である。会場は小型のグランド・ピアノを備え,客席は40席ほど。

プログラムはドヴォルジャークの「スラヴ舞曲集 第2集 Op.72」より,1,2,7番から始まった。

元気の良い第1番の旋律が流れ出したとたん,どう見ても条件が良くなさそうなのに,ピアノがとても輝かしく響いているのに嬉しくなった。

この二人の連弾演奏を聴くたびに感じるのだが,優れたテクニックに加えて,バランスを整える耳も良いのだろう。当日はプログラムはなく,演奏者が曲の間に直接,解説する方式で,最近はこの方式が多いようだ。特にこの日のように小さな会場では,聴衆との一体感がより強まる。その語り口も原稿を用意した感じではなく,あくまで自然体で気軽に語りかける雰囲気であった。

2曲目は優れた作品なのに,あまり知られていないヘルマン・ゲッツ*1)の「ソナタOp.17」。

私も実演で聴くのは初めてだと思う。この「ソナタ」,なかなか一筋縄ではいかない作品で,
1楽章の熱を帯びたカノン風の序奏部の分離感と一体感との,ともすれば相反する処理が難しい。この日の解説によると,ゲッツは早世しただけあって病弱だったそうだが,演奏からはみずみずしいロマンと熱気が感じられた。
2楽章はプリモだけでなくセコンドのパートも繊細な「歌」に満ちている。
「葬送行進曲」に導かれる3楽章の主題は短い休符を挟んだもので,これを優美に弾くか,それとも敢えてギクシャク感を残すかの選択によって曲の印象は大きく変わる。

休憩後は,シューマン「東洋の絵 Op.66」メンデルスゾーン「デュエット アンダンテとアレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ Op.92」
ここでも誇張のない,あくまで自然に歌っていながら,伸び伸びとした,そしてスケール豊かな演奏を繰り広げていた。

メンデルスゾーンは,いわゆる「華麗なアレグロ」。連弾作品のなかでも最も華やかで,技術的にも難しく,特に二人の音楽性の一致も要求される作品だが,序奏的な「アンダンテ」部分から,いかにも二人による「デュエット」といった風情の,良く合った,そして良く歌う演奏であった。「アレグロ」部分も少しも技術的な困難さを感じさせなかった。

実はこの作品,特にプリモはかなりの低音を弾く箇所があるので,私などは下心がなくてもセコンド側に身体を寄せなくては弾けないのだが,そんな素振りも見せずに平然と弾いていたのは,よほど奏法が自然なのであろう。

正直に書けば些細なミスが皆無ではなかったが,アンコールのブラームスの最も有名な「ワルツ」を含め,ロマン派の連弾作品が堪能できた。連弾でのペダルの難しさや,ドイツでの実体験を交えた作曲家に関する話も面白かった。

「無料」なので,終了後の椅子の片付けや,もしかすると「床に掃除機をかけて下さい」なとど言われるかと心配したが,そんな事もなく,主催者の呼び掛けに応じて本当に些少なカンパをさせていただき,無事に帰途についた。

どういうシステムで運営されているのかは知らないが,このシリーズには連弾も多く含まれており,演奏者はかなり思い切った選曲もできるのではないか。私もゲッツの「ソナタ」が演奏されるとは知らず,知っていれば事前にもう少し勉強して行ったのに,と残念に思ったが,珍しい作品を目当てに行く人は必ずいるので,こうした小さな会の告知では,特に「連弾ネット」の「コンサート・インフォメーション」*2)が大きな威力を発揮できると思った。

【参考情報】
*1) [Wikipedia(jp)]“ヘルマン・ゲッツ”
*2) [連弾ネット]“コンサート・インフォメーション”

【2009年10月3日入稿】