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2枚目のCDに行く前に,もう少し前回の「ドリー」の続きを。
エレーヌの母のエンマはフォーレにとって,ミューズ(音楽の女神)であり,なんとエンマはフォーレの歌曲に「ダメ出し」をして書き直させたこともあった。そしてロジェ=デュカス*2)は「彼女が正しかった」と述べている。 エンマ・バルダックは後にドビュッシーとの間にも娘,クロード=エンマ(愛称シュウシュウ)を生み(ドビュッシーとの再婚はその後),ドビュッシーはシュウシュウに「子供の領分」を捧げているので,エンマ・バルダックの二人の娘はそれぞれの父である二人の大作曲家から,子供に関連するピアノ作品の傑作を献呈されたことになる。そうしてみると,エンマ・バルダックほど子供に関連したピアノ作品の誕生に貢献した女性はいないであろう。 また,エレーヌの兄のラウル・バルダックは,フォーレやドビュッシーに師事して作曲家となり,連弾作品では「前奏曲」で始まり「終曲」に至る全5曲の「長調の小組曲 Petit Suite majeure」(1914年,デュラン社刊)*3)を残している。師のフォーレやドビュッシーの影響が感じられるフランス風の繊細な作品であり,デュカスに献呈されている。
アンデルセンの童話に基づく「眠りの精の一週間」,「旅のぺ一ジ」と「ドイツの思い出」といった代表的な連弾作品が収録されている。
このCDの意義は,平凡な演奏だが珍しいシュミットの連弾作品がまとめて聴けるといった水準にとどまらない。イヴァルディとペヌティエの二人による,余裕と遊び心に満ち,表情豊かな素晴らしい演奏によって,これらの作品が本来持っているはずの魅力が,より見事な生彩を放っているのである。単に「資料」として備える必要があるCDではなく,身近に置いて「何度でも聴いて楽しみたい」と思えるデュオのCDには久し振りに遭った気がするが,そんな内容のCDなのだ。 これまで,世界初録音と称するデュオのCDには,素晴らしいものもあった反面,残念ながら「作品の魅力を殺いでしまっているのでは?」と疑問に思えるCDもあった。こういったCDを聴いてしまうと,その作品に対して「詰まらない作品」という誤った先入観を持ってしまいがちで,結果的に作品の普及を妨げる事になりかねない。 ところがこのCDはまったく逆で,このCDを聴けば,もっとシュミットの連弾作品を弾いてみようという気になる人が,確実に増えるだろう。
「高ぶる物思いに〜」は「ドイツの思い出」についての言葉で,短いながらもまさにこの作品の魅力を的確に捕らえている。
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