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この二人の録音した数多くのデュオのCDの中には,グリーグの作品を収めたもの このCD,どちらがI・IIか,P・Sかは明記してないので,グリーグの「ピアノ協奏曲」で,どちらがソロを弾いているかは不明だが,恐らくゴールドストーンによるものであろう。ゴールドストーンにはソロ作品を録音したCDもあるが,クレモウにはないというだけの理由なのだが…。 このグリーグの「ピアノ協奏曲」のソロの演奏は,輝かしく,スケール豊かな演奏で,この作品を聴くのは実に久し振りだが、なかなか楽しめた。 私の持論である「デュオ,特に連弾を面白く弾けるピアニストは,ソロを弾いても絶対に上手く,面白い。ソロが詰まらないピアニストのデュオはもっと詰まらない」という説を裏付ける演奏である。 それにしても,オーケストラ・パートを編曲した第2ピアノも,きちんと弾くのはとても難しく,クレモウ(多分!)も好演である。CDの解説によると,グリーグは自筆のスコアのピアノ・ソロの「休み」の箇所に,オーケストラ・パートの編曲を書き込んだが,それに基いて全曲のオーケストラ・パートを第2ピアノ用に編曲したのはカーロイ(またはカール Carl)・テルン(Károly Thern 1817〜86)だそうだ。 私はぺータース社の2p版(編曲者の記載なし)を見ながらこのCDを聴いたのだが,演奏に使われたテルン版との違いはほとんど感じられなかった。なお,この協奏曲のテルン版を含む,これまでの各種の楽譜の出版の経緯については,ヘンレ社の原典版(2p版)の解説に詳しい。またシャーマー社から,グリーグ自身の指揮でこの協奏曲を何度も弾いた経験のあるパーシー・グレンジャーによる校訂版*2)が出ており,その内容も実に興味深い。 さて,テルンはドイツ生れのハンガリーの作曲家で,その二人の息子,ヴィルモシュとラヨシュは,ライネッケやモシェレスに学び,この兄弟によるピアノ・デュオは「2台ピアノ芸術のパイオニア」と称された。 残念ながらテルンの項目はシブリーにもIMSLPにもないが,ロマン派風で変化に富み,実に美しい全8曲の連弾作品集「ワイマールの音画 Musikalische Bilder aus Weimar Op.32」を残しており,もし読者のご希望があれば有料ではあるが,「連弾ネット」で楽譜の提供が可能である。 それはともかく,このグリーグの「ピアノ協奏曲」は,ゴールドストーンによる解説にも書いてあるが,グリーグのイメージを「音の細密画家」と見なすにはほど遠い作品であり,シューマンの「ピアノ協奏曲」の亜流のように言う人もあるが,グリーグ独特の北欧的な個性に満ちているだけでなく,第1楽章の豪快無比(ゴールドストーンは"Spectacular"「壮観な」と書いているが)なカデンツァの書法は,決してシューマンの亜流では片付けることのできない魅力を持っていることは確かだ。 このCD,ほかには「ペール・ギュント 第1組曲」の作曲者自身による連弾版,グリーグが第2ピアノ・パートを付け加えたモーツァルトの「ソナタ K.545」,オリジナル連弾作品の「ノルウェー舞曲集」,それに「十字軍の戦士シーグル」より「凱旋行進曲」(作曲者自身による連弾版)が収録されている。 快活に演奏された「ノルウェー舞曲集」も良いが,これを含めて「ぺール・ギュント」やモーツァルトの「ソナタ」には,既にいくつかの録音がある。しかし,世界初録音の「凱旋行進曲」は祝祭的で,高貴で晴れやか,そして重厚であり,連弾でもとても効果的であった。 グリーグの名は,ピアノ・デュオ愛好家にとっても,「ノルウェー舞曲集」あたりが知られている程度だが,オリジナルや編曲を含めてほかにも注目すべき作品があり,それらを知るきっかけとするに好適な1枚である。
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