45. 「ピアノデュオ ドゥオール リサイタル」

10月12日(日),東京文化会館小ホールで,ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)
のリサイタル*1)
が行われ,ブラームス自身の編曲による「大学祝典序曲」の連弾版で
プログラムが始められた。

管弦楽曲のデュオ用の編曲では,オーケストラによる演奏を意識する余り,強弱と音色の
変化のみに囚われて,ピアノデュオとしては味気無い演奏に終始してしまう場合が多いのだが,
デュオを組んで4年という短期間にしては演奏経験が豊富な二人の当夜の演奏は,
全くそうした種類のものではなかった。

二人の演奏は常にバランスが良く,すっきりと澄み切った響きで,細部の小さな音の動きに
至るまで決して単調にならず,豊かな息使いに満ちて,この作品の素晴らしさを聴衆に強く
印象付ける結果
となった。

プログラムの最初の曲が始まってすぐ,聴衆が極度に集中してその演奏に聴き入っていたのが,
演奏者にも感じられたのではないだろうか。

祝祭的で明朗な曲想の上,1880年夏の作曲直後の9月,ブラームスが敬愛するクララ・
シューマンの誕生日のプレゼントとしてこの連弾版を贈り,二人で演奏したという
ロマンティックなエピソードを持つにもかかわらず,実演で演奏される機会が少ないこの作品の
素晴らしさを実証
する意味でも,実に意義深い,優れた演奏であった。

最近はデュオでも暗譜での演奏が増え,当夜のプログラムもアンコールも含めて,全曲が暗譜で
演奏された。暗譜でもツマラナイ演奏会がある一方,視奏でも優れた演奏会があるのは事実だが,
当夜のリサイタルでは暗譜の努力が,明らかに演奏の質に反映されていた。

2曲目からは2台ピアノ作品となり,レーガーの難曲,「ベートーヴェンの主題による変奏曲」
べートーヴェンの「バガテル」の愛らしい主題が巨大な音像に変容する大作である。

レーガーの特徴として,この作品も音が非常に多いが,良く整理の行き届いた二人の演奏は,
混沌とした響きとは無縁で,鋭角的で角張った響きやゴツゴツとした手触りもなく,スマートな
スタイル
の,それでいて響きに「ふくよかさ」を感じさせるレーガーであった。

この作品,I・II間での旋律の受け渡しの機会が多いが,二人の緻密なアンサンブルはスムーズに
息の長い旋律を歌い継いでいた。

総じて前半のドイツ・ロマン派の2作品は,極めて精巧な工芸品を観賞する趣の演奏であった。

後半は一転して色彩的なフランスの作品。曲想の変化に合わせてか,衣装も替えた二人だが,
こうしたビジュアル的な変化もリサイタルに好ましい彩りを与えていた。

まず,今年が生誕100年に当たるメシアン「アーメンの幻影」から,「創造のアーメン」
「天使,聖人,鳥の歌のアーメン」の2曲。
いずれも精密なリズム感と音量のコントロールが際立った演奏であった。

そして最後はラヴェル「ラ・ヴァルス」。当夜は二人の初CDがロビーで先行発売*2)されていたが,
その盤にも収録されている作品。

すっかり手のものとなった感があり,速目のテンポを採り,優美で酒落たリズムと広いダイナミック・
レンジを駆使した華麗な演奏
で聴衆の喝采を博した。

アンコールの1曲目はプーランク「シテール島への船出」。リズムやテンポの変化,間の取り方も自在な,
遊び心に満ちた軽快な演奏で聴衆を楽しませた。
そして最後は再びブラームスの連弾曲に戻り,「ハンガリー舞曲 第5番」のリラックスした演奏で
リサイタルを締め括った。

二人の演奏は全プログラムを通して,極端で作為的な誇張が全くない,誠実なもので,当夜は高度な
ピアノデュオの演奏を堪能
できた一夜であった。

【参考情報】

*1) [連弾ネット特設ページ]ピアノデュオ ドゥオール 第3回定期公演

*2) [CD]「ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)デビューアルバム Deu'or −ドゥオール−」
※発売が2009年3月11日(水)に延期となりました。

【2008年10月17日入稿】

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