38.「シューベルト連弾曲公開講座 第2回」の事後報告

7月3日(木)午前11時からヤマハ銀座店サロンで,
「シューベルト連弾曲公開講座」の第2回目*1)が行われた。

この日のテーマは「瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオリサイタルに寄せて」
言うまでもなく,瀬尾氏と加藤氏がゲスト演奏者である。

ちょうど2週間後の17日に,新宿の東京オペラシティ・リサイタルホール*2)
予定されているリサイタルでは,奇しくも前回の講座のテーマと同じ1828年の
シューベルトが亡くなった年の傑作,「幻想曲 へ短調」「人生の嵐」
「ロンド イ長調」
の3曲がプログラムに含まれている。

今回の講座では,私の話を長々と聞いていただくよりも,年齢的には若いものの,
輝かしいコンクール歴を持ち,タール&グロートホイゼンといった現役でも最高峰の
デュオに師事
したお二人に,その経験と知識を大いに語っていただいた。

帰国直後にもかかわらず,旅の疲れも少しも感じさせないお二人の,
率直で初々しい話しぶりは受講者にとても好評であったようだ。

講座の内容としては,前回と重複するが,「幻想曲 へ短調」の57〜61小節の
PとSで音が重なる部分での処理方法は,やはり前回の演奏者の DuoT&M 同様,
「危険を冒してもPとSともに弾く」であった。

しかし,ここでお二人は「企業秘密」ともいえる,師のグロートホイゼンによる「解決策」をも
披露して下さった。これは私も含め,受講者にとって極めて興味深く貴重な情報であった。

それにお二人の解決法には,「現在のところは」といった言葉が付くのも,
常により良い演奏を目指して研究を怠らない姿勢が窺われて好ましさを感じさせた。

また「人生の嵐」での138小節以降の,本来はPの左手とSの右手が分担して弾く
コラール風の旋律の,「パート間での音符の再配分」の問題も,
「シューベルトが書き分けた通りに弾く」ということであった。
このコラール風の旋律を合唱曲に見立てていたのも面白かった。

そして「人生の嵐」「ロンド」が演奏されたのだが,やはりお二人の師でもある
コンタルスキーが演奏活動をしていた当時のアイディアとして,
この2曲が(拍手なしに)続けて演奏された。

これはお二人にとっては初めての体験であった由だが,確かに調的には
「イ短調」と「イ長調」で深い関連がある。
その演奏は,極めて繊細で,また変化に富んだ素晴らしく完成度の高いもので,
特にPの消え入るような美しい弱音は広いホールでは決して味わうことのできないものであった。

受講者は連弾に特有の「親密な演奏」の醍醐味を堪能することができたと思う。
演奏後,Sの加藤氏はPの瀬尾氏があまりにも小さな音で弾くので,
それに合わせてバランスを整えるのが大変だったと語っていたが,
その場その場で相手に合わせて弾くことのできる「耳」と「指」を持っているからこそ可能な,
実に印象的な演奏であった。

シューベルトを囲む友人たちとの音楽会,「シューベルティアーデ」の第1回が行われたのは,
今から190年ほど前の1816年だが,そこで行われていた連弾演奏も,
このようなものであったのかも知れない。

受講者からのさまざまな質問にも,気軽にそして快く答えていただき,話の内容は,
暗譜による演奏(この日のお二人の演奏は全曲,暗譜であった)の意義,
PとSの役割を固定するか,あるいは交替するか,この日の会場のように
比較的狭い空間と響きの良い広いホールでの演奏法の違いといったことから,
ドイツの音楽大学でのピアノ・デュオの教育事情や,演奏会事情にも及んだ。

最後にブラームスの「ハンガリー舞曲」の第1番が颯爽と演奏されたが,
この日の演奏は,17日のリサイタルヘの期待と興味を一層高めるものであった。

また当日,日本初演される予定の森山智宏氏への委嘱作品,
「レッツ・プレイ・ア・デュエット!」は,連弾演奏での「手の接近による弾き難さ」を
故意にねらった作品
とのことである。

それを確かめるためには,早めに会場に着いて視覚的にも
良い席を確保する必要があろう。

【参考情報】
*1) [チラシ]松永晴紀シューベルト連弾曲公開講座
*2) [チラシ]「瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ・リサイタル」

【2008年7月4日入稿】

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