27.「イギリスのピアノ・デュオ作品 その5」

これまで4回,この4月に予定されている「日英ピアノ・デュオの架け橋」*1)の関連作品
について触れてきたが,いずれも技術的には高度な作品ばかりであった。

しかし今回のアレック・ローリー(Alec Rowley 1892〜1958)*2)
「6つの短い舞曲的印象 Op.41」(Six Short Dance Impressions Peters社刊)*3)は,
初歩の教材的な作品である。
といっても少しも堅苦しくなく親しみやすい。

ローリーの知名度は高くないが,エドガー・モイ(Edgar Moy)とデュオを組んでいたピアニスト
でもあり,その経験を生かして多くの教育的な作品を残している。

6曲にはさまざまな連弾演奏上の課題が盛り込まれており,
レッスン用に最適なばかりでなく,1〜数曲を取り出して,あるいは全曲を発表会で弾いても
とても効果的である。いずれも2分程度でどちらのパートも初心者でも十分に弾ける。

またこのローリーには「ミニアチュア・コンチェルト」(Miniature Concert)という全3楽章で
演奏時間は10分ほどの小ピアノ協奏曲があり,
この2台ピアノ用編曲(Boosey&Hawkes社刊)*4)がある。

オリジナル作品ではないが,オーケストラ・パートを編曲した第2ピアノも,
モーツァルトのピアノ協奏曲群の第2ピアノのように忙しすぎず,
といってラフマニノフのそれのように薄すぎ(実に意外なことに!)ず,
こちらも初心者でも楽しんで弾ける。

2台のピアノのための作品には,技術的に易しくしかも優れた作品は数少ないが,
この作品はさわやかな抒情が特に印象的な作品であり,強くお薦めしたい。

昨年,新宿レプレでの私のピアノ・デュオ講座*5)の際,イタリアの作曲家ポッツオーリの
連弾曲を紹介したら,これが大変好評であったが,
ローリーもポッツオーリ同様,好評をもって迎えられるであろう。

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まだまだ知られていないデュオの佳作は多い。

このローリーよりも2年後に生まれたのがピーター・ウォーロック(Peter Warlock 1894〜1930)*6)
本名フィリップ・ヘスルタインである。

ウォーロックはディーリアスの音楽に心酔し,「春初めてカッコウを聞いて」を含めた
数々のディーリアスの管弦楽曲をデュオ用に編曲(小川典子とキャスリン・ストットによる演奏の
CDで聴ける)*7)
している。

そのウォーロックの代表作は1926年の全6曲の「キャプリオル組曲」で,
弦楽合奏版と連弾版が(後には管弦楽版も)ある。

ペンネームのウォーロックには「魔術師」の意味もあり,ヘスルタインはあごひげを伸ばし,
粗野に振る舞い,毒舌を吐き,真の「ウォーロック」になりたかったようだ。

しかし「キャプリオル組曲」にはそうした心理的葛藤の暗い影は微塵もなく,
透明な響きと淡く新鮮な抒情に満ちている。

この組曲は16世紀後半,トワノ・アルボーによって,弟子のキャプリオルとの対話体を使って書かれた
音楽とダンスの教本「オルケゾグラフィー」中の舞曲に基づいている。

テンポの速い「バス=ダンス」「トルディオン」「ブランル」「マタシン(剣舞)」のきびきびとしたリズムの
舞曲の間に,2,5曲目にゆったりとした「パヴァーヌ」と「ピエザンレール」が置かれている。

速い舞曲では正確なリズムとスタッカートの軽快なタッチが要求されるが,技術的にはさほど難しくなく,
中級程度
で十分に弾ける,新鮮な魅力に満ちた組曲である。

特に「ピエザンレール」ノスタルジックな情感は素晴らしい。
Andantino tranquillo,9/4拍子で静かに繰り返される牧歌的なメロディ。
美しい景色がしだいに黄昏て,夕闇に溶け込むように減衰する音楽のエネルギー。
特に終りから3小節目の最後の増(七の)和音は,賛嘆と惜別の溜息ようだ。

消え去り行く世界の中に奇跡のような貴重な存在を初めて発見した驚きと,
それが消え去ることへの哀感。

まさに夢見るように美しく,そして夢のようにはかない音楽である。

【参考情報】
*1) 「日英ピアノ・デュオの架け橋2008」 ただいま参加チーム募集中!
*2) [Wikipedia]アレック・ローリー
*3) [購入可能サイト]www.edition-peters.com ※2008年1月26日現在の情報です。ご購入の際は自己責任でお願いいたします。
*4) [購入可能サイト]www.di-arezzo.jp ※2008年1月26日現在の情報です。ご購入の際は自己責任でお願いいたします。
*5) 松永晴紀/大人のためのピアノ・デュオ講座 
*6) [Wikipedia]ピーター・ウォーロック
*7) [CD]ディーリアス:ピアノ・デュオによる名作集

【2008年1月23日入稿】

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