25.「ピアノ・デュオの種を撒く。VIVA!!ピアノデュオコンサート vol.16」

12月9日の良く晴れた日曜,常磐線の「スーパーひたち」に乗って昼過ぎに
日立に到着。
「プリムローズ・マジック クリスマス・トークコンサート」*1)のためである。
今回がvol.16となっているこのコンサートは,「ピアノデュオコンサート実行委員会」
ボランティアの方々の献身的な努力によって運営されている。

私は2000年から,時々の講座や例年のプログラム・ノートを担当させていただいたが,
今回は「プリムローズ・マジック」のお二人とのトークが予定されていた。

ところが日立シビックセンター*2)の立派な音楽ホールのロビーに行くと,
なんと子どものピアノ発表会の真最中ではないか。

すぐに発表会が終わても,これから準備したのでは3時の開演にとても間に合わない。
一瞬,「しまった。場所か時間を間違えたか!」と思い,
「落ち着け,自分!」状態であわてて鞄からチラシを出して確認すると,
同じ建物内の「多用途ホール」が会場で,
私が「思い込み」で場所を確認しなかっただけの話。
そちらのロビーに行くと実行委員会の方々が準備中だったので一安心した次第。

楽屋で「プリムローズ・マジック」のお二人とトークの内容を確認して,いよいよコンサート。

プログラムはモーツァルト「ソナタ K.448」ストラヴィンスキー「ペトルーシュカからの3楽章」
(バービン編曲の2P版)
休憩後に連弾でブラームスの「ワルツ」から5曲,その後は再び2台で,
アンダーソンの「ペニー・ウィッスル」「フィドル・ファドル」(福田直樹編曲)
そしてチャイコフスキーの組曲「くるみ割り人形」(エコノム編曲)から5曲で,
前半はご存じ「のだめカンタービレ」*3)関連曲。

このドラマやアニメでのモーツァルトの「ソナタ」等の実際の演奏は
「プリムローズ・マジック」が担当した。

会場は補助椅子まで出す盛況でチケットは売り切れたそうだ。
このコンサートが音楽ホールで行われていたら,もっと多くの人が,
もっと素晴らしい音響で楽しめたのにとちょっと残念。

華麗で色彩感豊かな演奏で人気の高い「プリムローズ・マジック」だが,
私の待機位置はステージの袖,第1ピアノのすぐ後方なので,
2台でも連弾でも相当に弱音を意識して弾いているのが良く分かった。

モーツァルトはとても生き生きとして楽しい演奏ながら,
繊細な表情がチャーミングで,
第3楽章で四重トリルを含むアインガング(ミニ・カデンツァ)を弾いたのも印象的。
後で聞くと自作とのことで,これがサマになっていて実にカッコ良かった。

ストラヴィンスキーはデッドな音響のホールにもかかわらず,
「謝肉祭の日」では賑やかな祭りの喧騒と数々の特徴的な踊りが
眼前に現れるかのような熱演
で聴衆の喝采を博した。

この二人の連弾を聴くのは初めてだが,
ブラームスの「ワルツ」での性格の異なる5曲細やかな,
それでいて良く歌う巧みな演奏。
決して派手ではないこうした作品でも,
満員の聴衆はその見事な演奏に強く引き込まれて聴き入っていた。

当日はモーツァルトの「ソナタ」の第1楽章後に盛んな拍手が沸いたが,
クラシックの演奏会に通い慣れていない聴衆を,ブラームスの「ワルツ」のような
作品で魅了するのは,やはりベテラン・デュオならではの実力である。

といって,私はこうした聴衆を少しも蔑むつもりはない。
良い演奏を聴いて,思わず拍手をするのは極めて自然な行為である。

そうそう,それで思い出した。
1998年9月,佐倉市民音楽ホールでのネットル&マークハムの
ロンドン・デュオ*4)
のリサイタル。
ここでも「スカラムーシュ」の1曲目で拍手が沸いたが,
全曲暗譜にもかかわらず,余裕に満ちたとても楽しそうな演奏ぶりであった。
変化に富む多数の曲目の演奏内容はいずれも素晴らしく,秋
の休日の溢れる陽光とともに,今でもその日は「金色の日」のイメージがある。

さて,日立のコンサートも「金色の日」に劣らず,実に楽しい演奏で,
ブラームス後のアンダーソンは編曲も素晴らしく,オーケストラの代用品どころでなく,
もともと2台ピアノ作品であったかのような錯覚に陥る。
チャイコフスキーも良く息の合った,柔軟で素敵な演奏であった。

アンコールは季節を意識してアンダーソンの「そり滑り」と,
「ペトルーシュカ」から「ロシアの踊り」

これは前半の単なる反復ではなく
「のだめ」がコンクールで弾いた時に,暗譜がおかしくなって
途中で料理番組のテーマ曲に飛び込んでしまうバージョン
という
サービス精神に富んだもので,満員の聴衆を大いに沸かせた。

この前日には朝から夕方まで公開レッスンとワークショップがあり,
こちらも大勢の受講者が詰め掛けて,受講希望を断るほどの盛況だったそうだ。

終演後のアンケートには受講者の小さな子どもたちが一生懸命に書いたメッセージが多く見られ,
それらのほとんどに「本格的なピアノ・デュオを初めて聴いて感動した」という意味の言葉が
書かれていた。

誤った先入観を持つ以前の幼い頃から素晴らしいピアノ・デュオの演奏を聴き,
公開レッスンやワークショップに参加することは極めて大切
である。

この日立での長年に渡る貴重な活動は,ピアノ・デュオの種を撒き,苗を育てていることである。
この地はきっと近い将来,ピアノ・デュオの豊かな「森」に成長することであろう。

【参考情報】
*1) [チラシ]「プリムローズ・マジック クリスマス・トークコンサート」
*2) [ホール]日立シビックセンター
*3) [公式サイト]のだめカンタービレ
*4) [サイト]http://www.nettleandmarkham.com/

【2007年12月28日入稿】

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