盛況だった11月19日(月)の
「中井恒仁&武田美和子 ピアノデュオリサイタル」*1) (このリサイタルに関しては次回,この欄で取り上げる予定)からちょうど2週間後の12月3日,
会場も同じ東京文化会館小ホールで,
今度は「瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ・リサイタル」が予定されている。
「連弾ネット」のトップページの
「公演間近!『瀬尾久仁&加藤真一郎ピアノデュオ・リサイタル』詳しくはこちら」の
「こちら」をクリックすると,
この二人のホームページを訪れることができる。
ブログにドイツで勉強中のさまざまな出来事を綴るなど,
やはりコンピュータを自在に扱う若い世代の演奏家であり,
今回のリサイタル全体のコンセプトや,各曲目に関する解説も記されている。
この内容がとても優れたものなので,デュオ愛好者のみならず,
一人でも多くの音楽愛好者にぜひとも読んでいただきたいと強く願う。
今回のプログラム,
三善晃による「響象 I&II」が含まれているとは言え,
他はすべてドイツ・ロマン派を中心とした変奏曲という,
実に破格なもので,その中でも
シューマンによる「アンダンテと変奏曲 Op.46」の原曲でもある,
2台のピアノと2つのチェロ,ホルンのための室内楽曲*2)
が演奏される。
この室内楽版,私はこれまでずっと,下世話に言うと
「シュウちゃんたら,曲,長すぎ!」と思い込んでいた。
なにしろそれが一般的であろうが,この作品を知ったのが,
原曲よりずっとコンパクトな構造を持つ2台ピアノ版によってであるからだ。
ところが二人のホームページの
"Note"の“Vol.4 シューマン「アンダンテと変奏曲」について”*3)を読むと,
この作品が原曲の室内楽曲から2台ピアノ作品に編曲された経緯が,
作曲家シューマンの心理を含めて良く理解できるだけでなく,
文中で当時のシューマンを「幻想的ピアノ作品作曲家」と断じている。
それを知った上で改めてこの室内楽版を聴くと,
2台ピアノ版では,楽しげにスキップするような第8変奏と
主題の再現との間で
カットされてしまった長大な部分の存在価値が全く違って感じられる。
まさに「目から鱗」とはこの事で,
それまでは「オイオイ,いったいどこへ連れて行かれるんだ?」と思いながら
終りのない不安な旅に付き合わされていたようなこの部分があってこそ,
シューマン独特の豊かな幻想に満ちた旅路が完結するように思えてきた。
それにしても私は実演では初めてこの室内楽版に接するのだが,
珍しい編成であるだけに,「合わせ」の困難さも,
当然2台ピアノ版以上と思うが,
あえて室内楽版を選んだ意気込みも相当のものに感じられる。
また,このホームページには「サンプル試聴」のメニュー*4)もあり,
今回のプログラムに含まれている
シューベルトの「自作主題による変奏曲 D.813」の第5変奏,
ブラームスの「シューマンの主題よる変奏曲 Op.23」の第3変奏の一部
を聴くこともでき,
これはリサイタルの予告編と言える。
聴けるのは一部分に過ぎないが,
とにかく実にニュアンス豊かで巧みな語り口なのだ。
ピアノ・デュオ,特に連弾が「退屈で二級の音楽」と
蔑まれがちなのは悲しい事実であるが,
その一因はこのサンプルのような
真に連弾らしい優れた演奏が少なかったためでもあるのだ。
この文が単なる演奏会の「宣伝」だと感じた方は,
読むのを中断して今すぐにサンプルを聴いていただきたい。
加藤氏によると,このプログラムは
「ピアノ・デュオが最も盛んであった時代と場所」を意識したもので,
その場所とは「広い意味でドイツ語を話す人たち」の住む地域だと言う。
北ドイツ(旧東独)のロストックと南ドイツのミュンヘンに学んだ二人は,
当然,歴史の流れと地域的な違いを実感したはずである。
リサイタルまであと一週間ほど。
二人がサンプル通りの演奏を披露してくれれば,
我々はそれぞれのデュオ作品を通して,
揃ってピアノ・デュオととても密接であった作曲家たちの内面に
直に触れる事ができるであろう。
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