14.青森連弾旅行
青森在住のピアニスト,友田恭子さんのお誘いで,
7月28日(土)青森市民ホールでの
「デュオコンサート」を聴き,
29日(日)青森カワイでの連弾の講座
のために青森を初めて訪れた。


「デュオコンサート」は友田さんの門下生の方々,
7組による演奏で,ほぼ全員がピアノの先生だが,
デュオ作品の知識が実に豊富な歯科医のM氏と夫人,
その小5のお嬢さんという家族によるデュオも含まれ,
本番の日の午前中には筆者による公開レッスンもあった。

入場料無料にもかかわらず,立派なホールとピアノ,
そして何よりも演奏のレベルの高さには驚かされた。

なにしろ筆者も実演では初めて接する
モシュコフスキの「外地から Op.23」全6曲
リゲティ「5つの小品」をはじめ,
ブラームス「セレナード Op.11」より「メヌエット」
シューベルト「アンダンティーノ変奏曲」
ドヴォルジャーク「スラブ舞曲集 Op.46」より4曲,
ビゼー「子供の遊び Op.22」の8〜12曲,
ショパン「変奏曲 ニ長調」,
バーンスタイン「キャンディード序曲」といった
有名名曲や珍しい作品を含んだ,
とても多彩で楽しいプログラムである。

友田さんは実姉のピアニスト,
笠原純子さんとのデュオ 活動も活発*1)で,
デュオ・リサイタルもCDも
極めて高い評価を受けている。

さすがにその友田さんの門下生だけあって,
合わせるためだけに汲々として弾いている演奏は皆無で,
どの組も作品の個性とマッチした
表情豊かな演奏であった。

テクニック面だけに限れば,
確かに組によって差はあったものの,
二人でいつくしむように音を紡ぎ出している演奏は,
聴いていても好ましく,またそれこそが
連弾の楽しさ,素晴らしさの大切な一面であろう。

いずれの組も
今後とも末永く弾き続けて欲しいと
心から思った。



翌日の講座は,教室が満員の盛況であったが,
その理由はデモンストレーションの演奏者が,
笠原さん・友田さん姉妹

という超豪華版のためである。

第一部はカワイの全6巻の「デュオ・メイト」*2)から
興味深い作品を10曲ピックアップして,
筆者が作品解説を加えた後,
お二人による演奏が付くという形式。

お二人の発案で,
易しい作品はどちらかのパートを
受講者にまず初見で弾いてもらい,
続いてお二人による演奏という趣向にしたが,
これが実に面白く,有意義であった。

易しい作品は初見による演奏でも,
作品の「おおよその感じ」は分かるものだが,
それがお二人の手に掛かると,
シンプルな「教材」が見事な「音楽」に変貌する。

受講者だけでなく筆者にとっても,
これほど興味深く,楽しく,
そして勉強になる場面はなかった。

技術的には決して難しくなくても,
演奏しだいで心が揺り動かされるような連弾作品が
たくさんある
ことを
実感していただけたことと思う。

生き生きとしたモシュコフスキの「マズルカ」
繊細なライネッケの「ばら」は,
まさにお二人によるコンサートの雰囲気であった。


第二部は「100年前のヒット曲」と題して,
ケリング「ライオン狩り」シュピンドラー「軽騎兵の騎行」
ガンツ「誰だ?」
華麗で楽しいギャロップ3曲と,
モシュコフスキ「外地から」より「イタリア」

これらギャロップ3曲は19世紀後半から
20世紀初頭にかけて,
家庭やサロンで大流行した
「当時のポピュラー音楽」で,
こうした気軽で楽しい伝統は
今日すっかり廃れてしまった。

軽快で景気の良いリズムのギャロップだけに,
お二人の演奏も熱気に溢れ,
会場は割れんばかりの拍手であった。

最後は「ヴィルトゥオーゾ的な連弾作品」の例として,
モシュコフスキの胸のすくような快作,「イタリア」が,
前日と同じ門下生の二人によって演奏された。

快活な「タランテラ」のリズムによるこの作品は,
Sの連打音が特徴的で,
生命力に満ちた旋律は,
聴く人の心を激しく掻き立てる。

前日同様,二人はこの「イタリア」を見事に弾き切り,
連弾作品が決して家庭的で穏やかな作品だけではない事を
受講者に納得させた。


こうして北国での連弾を堪能して,
「ねぶた祭」直前の青森を後にした。 


【2007年8月09日入稿】

【参考情報】
*1) 【CD】笠原純子&友田恭子/水野修孝「ミューズの時」/バーバー「想い出」
   ※田中一実氏による解説はこちら
*2) カワイ出版:「デュオ・メイト」のご購入はこちら。

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