7.「ピアノ・デュオ作品事典 増補改訂版」重版にあたって
誠に幸いなことに,
拙著「ピアノ・デュオ作品事典 増補改訂版」*1)が,
この3月に重版された。

初版からずっと本の扉の裏面に,小さくではあるが
「すべてのピアノ・デュオ愛好者に」
という献辞が書かれていることにお気付きであろうか?

1991年の初版以来,順調に版を重ねることができたのは,
予想以上に多くのピアノ・デュオ愛好者の方々から
ご支持を受けることができた賜物であり,
感謝するばかりである。

自分では相当,注意したつもりだったが,
初版には多数のミスがあった。
それらの大部分は難易度表記での,I/IIとS/Pの混乱と,
原曲の表記欠落,用語や表記の不統一なのだが,
最も読者に混乱を与えてしまったミスは
グヴィの「ソナタ ニ短調 Op.36」の作品番号が,
ひとつ増えて「37」になってしまった点と,
豊岡氏編曲の「カルメン第1組曲」中の「フィナーレ」の難易度が,
[IS/IIP]という訳の分からない表記になってしまった事である。
正しくは[S3/P4]である。

そして実にお間抜けなミスは,モーツァルトの未完の2曲の連弾曲の解説文。
ユニヴァーサル社の原典版による音友版の「ピアノ連弾曲集」*2)では,
「自筆譜はここで破れている」と訳されているが,
abbrechenbreak offも「とぎれる」の意味。

無論,責任は自著に孫引きした私にあり,
誠に面目ない次第…各々方(おのおのがた),お笑い下され…。

そしてリムスキー=コルサコフの「変化のない主題によるパラフレーズ集」では,
正しくは[S4/P1]の難易度表記が逆で,Sが易しい作品になってしまった。
また「ゴルドベルク変奏曲」と「ト」に余分な濁点が付き,
一層「いかめしい」印象になってしまったのも間抜けなミス。
どうかお手元の初版はご訂正願いたい。

今回加筆した情報としては,まずその「ゴルトベルク変奏曲」*3)で,
以前から出ていたKistner&Siegel 版(レーガー校訂)以外に, Carus*3)が出版され,
これによってレーガーの校訂部分が明らかになった。
レーガー校訂以前のラインベルガー編曲は全体的に実にシンプル。
特に第17変奏は差異が目立ち,アーティキュレーションも強弱もまったく逆で,
まるで別の作品のよう
である。

モーツァルトに関する新情報は「事典」という限られたスペースよりも,
多少詳しくこの欄でご紹介した次第である。

またハチャトゥリアンの「3つの舞曲Op.6」は,
1982年に旧ソ連で出版された「ハチャトゥリアン全集 第16巻」の解説によれば
タイトルは「3つの小品(組曲)」で,
両端の楽章は反ファシスト映画「囚人217号」の音楽を,
中間の楽章は歌曲「イランの娘」を素材とした作品であることを書き加えた。

従来から出版されていた楽譜に,
別の出版社から新たに刊行された楽譜を加えたケースも数曲あるが,
特徴あるものとして
ゴドフスキの「ミニアチュア」に,Carl Fischer版とEdition diG版を加えた。*4)*5)

「春の祭典」と「ペトルーシュカ」の合本であったDover版が,
「春の祭典」のみとなり,*6)

1913年版の「ペトルーシュカ」が消えてしまったので,
その辺の記述も変更してある。


ともかく,この「増補改訂版」もご愛用いただければ幸いであるとともに,
いつの日か機会に恵まれれば,
本来,載せるべきであった作品にもかかわらず落としてしまった作品
(少なくともデロ=ジョイオの素敵な連弾曲群とH.ゲッツの「ソナタ Op.17」は
演奏する価値がある)
を書き加えて,更なる増補改訂を目指したい。

【2007年5月3日入稿】

【参考情報】
*1) 「ピアノ・デュオ作品事典 増補改訂版」重版については、 こちらへ。
*2) 音楽之友社:[標準版]モーツァルト連弾曲集(ユニヴァーサル社原典)
*3)  Carus Verlag: J.S.バッハ(ラインベルガー編)/アリアと30の変奏(ゴルトベルク変奏曲)[2台ピアノ]
*4)  CARL FISCHER: GODOWSKY COLLECTION Vol.5
*5) Edition diGは、ゴドフスキ作品の出版を目的に設立された出版社。
*6) Dover: The Rite of Spring for Piano Four Hands (Dover Classical Music for Keyboard)

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